■年間100万個仕上げる職人技
約110年以上にわたり、色や形、製法が変わらないロングセラー家庭用品がある。亀の絵とオレンジ色の袋がトレードマークの「亀の子束子(たわし)」だ。1907年(明治40年)に日本初のたわしとして誕生して以来、職人が今も一つひとつ手作りしている。これまでの累計販売数は、5億個を超えた。
100均のたわし、ポリウレタン製スポンジやアクリル製ニット、不織布スポンジなど、安価な食器用スポンジがいろいろと出回る令和の時代の今も、1個484円(税込み)の亀の子が売れている。
年間売上数は約100万個。ヤシの天然繊維を束にした茶褐色のたわしが長年、売れ続けている理由は何か。東京・北区にある「亀の子束子西尾商店」本社・工場を訪れた。
■人間にできて、機械にできない理由
「周りの工場が機械化して大量生産していくなかで、かたくなに手作りを続けています。原料のヤシは植物なので、季節や時期によって繊維の質が変わるため、毎回手で繊維に触れて手先の感覚を頼りに調整しながら仕上げます。この微細な作業は、機械では難しい。
こう説明するのは、広報部・西尾祐理子さんだ。
一つのたわしを仕上げるまでに、ヤシの繊維を束ねて均等に断裁して棒状に曲げてと、8工程を通る。たわしに触れたときに違和感がないよう硬い繊維を一方向にきれいに合わせるのは、とても難しいという。
質素なつくりに見えるたわしが、こんなにも細かな作業で、しかも人の手で作られているとは、思いも及ばないことだ。まして、100年以上前の製法で作られているとは、想像すらつかないのではないだろうか。長年、亀の子束子を愛用する筆者も知らなかった。
■きっかけは「掃除のひと工夫」
この製法は、明治時代に西尾商店の創業者・西尾正左衛門が独自に編み出したという。
祖業は靴拭きマットの製造販売だった。初代・正左衛門はある時、大量に返品された欠陥品の一部を丸めて障子の清掃に使っていた妻を見て、たわしの開発を思いつく。
当時、掃除道具の主流は藁や縄を束ねたものだったが、初代は柔らかいシュロ(棕櫚、ヤシ科シュロの幹から取った繊維)を女性の手になじむように俵型に成型し、「亀の子束子」を作り上げた。商品は大ヒット。
その後、国内のシュロが枯渇したことから、スリランカなど東南アジアからパーム(ココナッツの実から採取した繊維)を調達し、メイン素材に切り替えた。
発売から119年の間に、商品はパーム、シュロに、ロープや床材に使われる植物の葉の繊維から採取したサイザル麻が加わり、素材別としては3種類に増えた。そこから形状や用途別にさまざまな商品を開発し、今では約80品目を展開している。
■洗剤に頼らなくても汚れが落ちる
「定番のパームたわしは、落ちにくい鍋やフライパンの油汚れをお湯だけで落とすことができます。根菜類の泥洗いやざるの細かい目の汚れ落としにも使えます。少し柔らかめのシュロたわしは、洗剤を付けたスポンジで洗っても落ちにくい湯呑の茶渋に効果があります。一番柔らかいサイザルは、ガラスやプラスチック製品、シンクを傷つけずに洗えるので、おすすめです。また、水につけると、柔らかくしなやかになるという特性があるため、顔や体の垢落としにも使えるんですよ」
最近人気の竹製のせいろやざる、中華鍋、鉄瓶などは、たわしでお湯洗いが基本だ。スポンジで落とせない汚れを洗剤なしで、たわしが落とす。それがスポンジとは違うたわしの魅力になる。
また、ものをむだにしない明治時代に生まれた商品だけに、耐久性があって長持ちする。
こうした良さは、たわしの元祖「亀の子束子」特有のものなのか。多種多様のたわしがあるなかで、何か違いはあるのだろうか。
■検品も必ず「人間の目と手」で
「亀の子束子は484円です。安価に買えるスポンジやたわしがいろいろとあるなかで、当社のたわしを選んでくださるお客様がいらっしゃる。『亀の子は使いやすい』『毛がへたりにくい』という声をよくいただきます。使い心地や毛質の良さは、品質維持を徹底しているからだと思います」
亀の子束子の良さは、たわし職人の技術によるところもあるが、もう一つ同社が注力しているのが人の手による検品だという。
職人の手で仕上がったたわしはすべて、国内で検品が行われる。本社に併設する滝野川工場と和歌山工場で、ベテランの職人が検品を担当する。
検品職人はたわし全体を手で触りながら、余分な繊維を床屋並みの巧みなハサミさばきで刈り込む。同時に、繊維の一部欠け、繊維密度の不均一、留め金の微妙な曲がりなど、最低20項目を目視や手先で確認する。
■「不良品」を見分けるベテラン職人
ここまで検品項目が多いのは、たわし製造業者のなかでも稀だという。傍目では不良品に見えないたわしが、検品職人の目にかかると、即弾かれる。
勤務歴30年の工場長・関谷薫さんは、「繊維の密度が揃っていない、繊維の毛並みが短い、竹が混ざっているなど、手で触れる前に目視ですぐにわかります」と話す。1日に約1000個のたわしの出来をまるで機械を通したかのように、正確に的確に確認していく。
明治時代から伝わるたわしの使いやすさや握りやすさは、現場の人の手を介して生まれていた。
■使うとわかる、老舗ブランドの理由
筆者は毎日のように亀の子束子を使っている。鉄のフライパンや中華鍋の油汚れや焦げをたわしでごしごしと力を込めて落としても、毛が潰れず、4~5カ月は持つ。手になじんで握りやすいため、洗い物がしやすい。
実は、過去に2、3度、別のメーカーのたわしを買ったことがあった。たわしならどれも機能は同じと、高をくくっていた。中華鍋やまな板洗いに使ってみてわかったのは、毛のへたり具合が違うことだ。たわしの先端の毛先がすぐにへたり、全体的に毛並みが片方に寄ってすき間ができて、焦げや汚れが落ちなくなった。
亀の子束子のうたい文句にある「使い込むほど、他店の3倍は持つ」は、大げさではなかった。しっかりと立った毛、丈夫さ、握りやすさ。そういう変わらない品質への安心感が、119年続くブランドたる理由なのだと、工場を見学して改めて思った。
■「職人がいない」一大危機に直面
「昔はすべての商品を国内の職人が作っていたのですが、国内でシュロが入手できなくなったこともあり、ヤシの産地であるスリランカの工場で、現地の職人さんにも任せるようになりました。さらに、一時期、職人の高齢化による退職で国内工場から職人がいなくなるという状況に直面したこともあったのです」
119年続く家業を襲った危機は、かつてシュロの一大生産地として、たわし作りの伝統が息づく和歌山の職人の手を借り、乗り越えたという。
今では、30、40代の若手も育ち、亀の子独自の製法は彼らに受け継がれている。
たわし作りの伝統を守り続けている同社は、次の100年を見据えた事業に取り組み始めていた。たわし1本立てから商品の多角化へ向けた挑戦だ。
■亀の子スポンジを新たな看板商品に
2014年、スポンジ市場へ参入する。
「当社のたわしにスポンジを足せば、食器洗いが同社の商品で完結できます。また、キッチンのシンクに、必要なものを当社の商品ですべて揃えてもらうという目標がありました」
他社と差別化を図るため、ピンクやグリーンといったカラフルな限定色を打ち出し、商品のブランディングに注力した。
食器用スポンジという「レッドオーシャン」に乗り込むという大胆な挑戦だったが、「亀の子スポンジ」は2017年、日本パッケージデザイン大賞を受賞した。
■「たわし屋」を守り続けるために
その1年後、サイザルという新素材で作ったベーグル型の「白いたわし」シリーズを発売。ボディケア商品の展開も開始し、これまで届かなかった若い主婦層、20~30代の女性層を獲得していく。その結果、同社の売上構成比が大きく変わった。以前は、定番のたわしが売上の97%を占めていたが、今ではたわしが約75%で、他商品の比率が上がっている。
商品の多角化に成功したとはいえ、「家業はたわし屋なんです」と、祐理子さんは熱意を込める。
「スポンジが売れるようになったというのはうれしいことなのですが、やはり私どもの本業はたわし屋です。今、原点に返って、本業を盛り立てていこうという気運が社内にあります。これからますますAIが浸透し、製造業の在り方が変化していくでしょうが、私どもはたわし屋のプライドを大切にして、このまま本業を守り続けていこうと思っています。必ず今以上に、手作りの良さに価値が置かれる日が来ると信じているんです」
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中沢 弘子(なかざわ・ひろこ)
ライター
ボストン大学大学院国際関係卒コミュニケーション専門。出版社にて編集者として勤務後、フリーライターとして独立。大手出版社の女性誌やビジネス誌にて人物取材多数。Forbes Japanなどでも記事を執筆中。社会課題の解決に取り組む経営者や起業家を取材。また、NHKドキュメンタリー番組の字幕翻訳や国際ニュース執筆、海外国別分析調査レポート執筆にも従事。最近は、日本の食文化を紹介する英文記事も執筆中。
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(ライター 中沢 弘子)

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