※本稿は、野口聡一『宇宙でラーメンは食べられるか 宇宙暮らしのロマンと現実』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■宇宙で食べられるもの、食べられないもの
いまどきの宇宙食はレパートリーが豊富で味もよく、ドリンク類も充実しているのですが、残念ながら飲食できないものもあります。その代表がアルコール飲料と炭酸飲料です。
アルコール飲料が禁止されている理由はおもに二つ。一つは、ISS滞在中の宇宙飛行士は「勤務中」と見なされるからです。長時間飛行するエアラインのパイロットたちと同じ扱いで、いつでも緊急事態に対応できるよう飲酒は禁じられているのです。
ただエアラインと違うのは、我々宇宙飛行士は長いときは半年以上、ずっとその状態がつづくこと。なので大酒呑みには厳しいミッションかもしれません。
もう一つは、空気中にアルコール分があると空気循環システムが故障するおそれがあるからです。炭酸飲料の場合は、缶を開けたときにドリンクが噴出してしまうと、無重力状態では拭き取りが難しいという理由から、持ち込みができません。
食べものに関してもさまざまな規制があります。
たとえば、きなこのような粉末状の食品や、“甘じょっぱい魔法の粉”をまとった某おかきのように細かなカスが出る可能性のある食品は、粉末やカスが飛び散ってISS内の実験装置やコンピューター機器に入り込むおそれがあるためNGです。
■「宇宙でラーメンが食べたい」という夢
ほかのクルーへ迷惑をかけないよう、においが強い食品も制限されています。宇宙で納豆を心置きなく食べられる日はまだ遠いようです。
保存がきかないもの、電子レンジ調理が必要なものも宇宙には持ち込めません。レンジは、電磁波で食品内の水分を細かく振動させることで食品を温めます。この電磁波が精密機器に悪影響を与える可能性があり、ISSには設置されていないためです。
熱々のものも食べられません。ISSでも理論上は水を沸騰、つまり100℃にすることは可能です。しかし、無重力下で80℃以上に上げると、蛇口からお湯を出した瞬間に噴き出してやけどをするリスクがあるため、上限は80℃に設定されています。
また、重力の関係で、汁が多いタイプの食べものもご法度。したがって、宇宙で熱々のラーメンを食べるのは夢のまた夢……だったのです、ある時期までは。
晴れて宇宙飛行士になった私には、どうしてもかなえたい夢がありました。
「宇宙でラーメンが食べたい!」
そこで私はJAXAの職員と日清食品さんと協力し、宇宙で食べられるラーメンの開発に取り組みました。
■日清食品と開発「宇宙版カップヌードル」
試行錯誤のすえに完成したラーメンは、麺は空中に浮かないようにひと口大のかたまり状になっており、スープはあんかけ状の宇宙仕様。
見た目は地上のそれとはかなり違いましたが、お湯をそそいで食べてみると味はまさにカップヌードル! カップヌードルに欠かせない“謎肉”もしっかり入っていて、「宇宙でラーメンが食べたい」という野望は見事に果たされたのです。
そして、その瞬間に私は「宇宙ではじめてラーメンを食べた人類」という称号を手に入れ、私が食べた宇宙食ラーメンは、「開発費がもっとも高く、地上からもっとも高い場所で食べられたラーメン」になりました。2005年のことです。
その後、宇宙食ラーメンはJAXAが認証する「宇宙日本食」の一つとなり、現在ではシーフードやチキン、カレーなどのバリエーションも楽しめます。
ちなみに2020年には、私は宇宙で「U.F.O.」とも遭遇しています! といっても未確認飛行物体のほうではなく、カップ焼きそばのほうです。焼きそばはラーメンと並ぶ好物の一つ。
再び日清食品さんの協力を仰ぎ、日本でおなじみのあのカップ焼きそばを宇宙用に開発してもらったのです。
人類の食にかける情熱には際限がありません。宇宙食はすでに300種類以上ありますが、今後も増えつづけることでしょう。みなさんが宇宙で暮らすようになるころには、地上と変わらないスタイルでラーメンをすすることができるかもしれません。
■地上でも食べたい「人気宇宙食トップ3」
日本食は世界に誇る文化であり、海外でも人気です。宇宙でも例外はありません。JAXAが国内のメーカーと開発する「宇宙日本食」は、各国の宇宙飛行士の好評を博しています。
ISSで食べられる宇宙食は、標準食とボーナス食に大別できます。
標準食とは、アメリカのNASAとロシアが提供する宇宙食のこと。ISSに長期滞在する宇宙飛行士のうち、NASAから派遣された宇宙飛行士はNASAの標準食が、ロシアから派遣された宇宙飛行士はロシアの標準食が、メインの食事となります。
いっぽうのボーナス食とは、宇宙飛行士が選んで持って行く宇宙食のこと。各国のメーカーが開発しており、宇宙日本食はボーナス食に該当します。私が人類としてはじめて食べた宇宙食ラーメンもボーナス食です。
とろろにオムレツ、うなぎ、ひじき、きんぴらごぼう、ハンバーグなど、宇宙日本食は現在50品目以上ありますが、なかでも人気なのがカレーです。
■日本の「カレー」が宇宙で大人気のワケ
無重力状態では体液が頭のほうに集まることはすでにお話ししましたが、これにより宇宙ではつねに鼻が詰まったような状態となり、嗅覚や味覚がにぶくなる傾向があります。
そのため宇宙食は、スパイスがきいたものや辛いものなど、味のわかりやすいものが好まれます。
スパイスがきいていて辛さもあるカレーは、まさに宇宙食にうってつけ。同じく宇宙日本食の白飯と一緒に食べれば、地上と変わりないカレーライスを楽しめます。
もちろん、NASAの標準食にも人気メニューがあります。私のイチオシはシュリンプカクテルです。
むき身の小えびをソースにディップして食べるシュリンプカクテルは、アメリカやイギリスでは前菜として親しまれています。NASAのシュリンプカクテルはソースとのバランスが絶妙で、地球で販売しても売れるのではないかとひそかに思うほどです。
もう一つ、シュリンプカクテルと並ぶ人気標準食があります。トヴァロークと呼ばれロシアのチーズです。英語表記ではcottage cheese、つまり「カッテージチーズ」なのですが、これがアメリカや日本で食べるカッテージチーズより抜群においしいんです。
トヴァロークはロシアではとてもポピュラーなチーズで、料理にもデザートにも使われるそう。宇宙食のトヴァロークはデザートに分類され、ほのかな甘みがあってクリーミー。私はもちろん、ほかの宇宙飛行士にもファンが多い逸品です。
■手巻きずしをつくりクルーにふるまう
食には、コミュニケーションを円滑にする役割もあります。ISSでは、お気に入りの標準食やボーナス食をほかの宇宙飛行士に分けてあげたり、交換したりする光景が珍しくありません。そうやってクルー同士でコミュニケーションを深めているのです。
2回目のISS滞在中には、宇宙飛行士の山崎直子さんと共同で手巻きずしをつくり、クルーに振る舞ったこともあります。
現時点では、宇宙への食品の持ち込みにはさまざまな制約があります。けれど、みなさんが宇宙で暮らすころには、もっと気軽に食品を携行できるようになるはず。
お気に入りの日本食を持って行って、ほかの国の旅行者とぜひ一緒に味わってください。きっと忘れられない思い出になるに違いありません。
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野口 聡一(のぐち・そういち)
宇宙飛行士
1965年神奈川県生まれ、博士(学術)。2回の宇宙飛行に成功し、世界初3種類の方法で宇宙から帰還した宇宙飛行士としてギネス世界記録認定。「宇宙からのショパン生演奏」動画などでYouTube Creator Awards受賞。宇宙帰還後の燃え尽き体験や死生観の変化を掘り下げた「宇宙飛行士による当事者研究」で日本質的心理学会論文賞など受賞。
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(宇宙飛行士 野口 聡一)

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