角を立てずに、相手に言いたいことを言える人は何をしているか。習慣化コンサルタントの古川武士さんは「お互いを大切にしながら率直に、素直に意見や感情を述べる『アサーティブに伝える力』があれば、快適な人間関係を築ける」という――。

※本稿は、古川武士『頭と心がすっきりする書く習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■自他ともに尊重する伝え方
「言いたいことがあるけれど我慢している」

「つい、はっきり言いすぎてケンカになる」

「自分の気持ちをうまく伝えられない」
親しき仲にも礼儀ありと言いますが、人間関係には一定の境界線が必要なものです。
境界線とは相手と自分との距離感や守るべきルール、マナーのようなもので、その境界線を越えた発言や行動で不快な思いをしているときには、やめてほしいと素直に相手に伝えるべきです。
たとえば、上司から明らかに無理な納期の仕事を振られて困っている部下がいたとします。
彼がいくら「書く習慣」でそのときの焦りや不満を扱っても、それは一時凌ぎの対策にしかなりません。「今の状況では、その納期に間に合わせるのは難しい」という事実が相手に伝わらない限り、状況は改善しません。
しかし、上司に「こんな短期間でできるわけないでしょう!」とストレートに言うと角が立ち、職場の空気が悪くなります。
相手を攻撃する言い方をして確執が深まることも、我慢して無理な仕事を引き受けて潰れてしまうことも、どちらも好ましくありません。
ここで重要なのが、「アサーティブな伝え方」です。アサーティブとは、お互いを大切にしながら率直に、素直に意見や感情を述べるという意味です。
■「つい言いすぎてしまう」最大の原因
アサーティブに伝える力があれば、相手に配慮しながら同時に自分のことも大切にすることができ、快適な人間関係が築けます。
言い方を工夫するために「書く」というのは、解決策として違和感を持たれるかもしれません。
しかし、「怖くて言えない」もしくは、「つい言いすぎてしまう」最大の原因は、その場のコミュニケーションの即興性に頼りすぎるからだと私は考えます。
アサーティブな伝え方をするための書くシート、「アサーティブDESC法」を使うことで、微妙な言い回しを工夫できるため受け取る側に与える印象は変わります。
「アサーティブDESC法」は、次の4つの観点で構成されています。
①「Describe」(事実)=今の事実・状況を描写する
解決したい問題の状況を事実ベースで「客観的」に描写します。
②「Express」(気持ち)=自分の気持ちを伝える
描写した問題に対して自分の気持ちを表現します。
③「Suggest」(提案)=提案・依頼をする
状況を変えるための「具体的」で「現実的」な解決方法を提案します。
④「Consequence」(結果)=メリットを伝える
提案の結果、双方にどんなメリットがあるかを伝えます。相手に手間を取らせなくて済む、自分は頭を冷静に整理して考えることができる、相手に何度も同じことを言わせなくて済む、などという具合にです。
■「事実」「気持ち」…伝え方に4つの観点を
では、具体例で見ていきましょう。あなたがこのケースの当事者だったらどう伝えるか考えながら読んでみてください。
あなたは同じ職場のA先輩からの「仕事の頼まれ方」に悩まされています。A先輩はあなたの仕事の状況はお構いなしに、「悪いけど、これ急ぎでやっておいて」と、本来は先輩がやるべき雑務や資料作成を頻繁に頼んできます。

あなたは自分の業務で手一杯のときでも、先輩相手だと「忙しいので無理です」とは言えず、笑顔で引き受けてしまいます。その結果、自分の仕事をするために残業することになり、最近ではA先輩が近づいてくるだけで「また仕事を振られるのではないか」と胃が痛くなっています。
こんな状況を「アサーティブDESC法」で整理すると次の図のようになります。
伝え方に4つの観点を盛り込むことで、相手も冷静に受け取りやすくなります。
もちろん、このフレームの順番で杓子定規に伝えるのは不自然です。これらをどうやって組み合わせて、どんな表情や声のトーンで伝えるかを考えることが重要です。
このように準備・シミュレーションすることで、ぶっつけ本番、感情任せの即興コミュニケーションから脱け出し、伝えるべきことを言える人になっていきます。最初は勇気が必要ですが、練習することでうまくなっていくものです。
■事前に書くことで豊かな表現ができるように
書き方ガイド
① 4つの観点に対して「要素」を書く
セリフにする前に、ポイントを簡単に箇条書きなどで洗い出します。
・「Describe」(事実)……起きた状況・言われたことなど、感情を交えず事実だけを客観的に書きます。
・「Express」(気持ち)……自分の感情を明確にします。たとえば、落ち込んでいる、焦っている、冷静でいられない、不安などです。

・「Suggest」(提案)……相手にどうしてほしいのか、という具体的な解決方法を提示します。
・「Consequence」(結果)……提案した解決策によって、お互いにとってどういう効果・メリットがあるのかを伝えます。
② 「セリフ」にして伝え方を工夫する
書き出した要素をもとに、実際に伝える場面を想像して、セリフにします。「心苦しいのですが」「私としても何とかしたいのですが」「できれば……していただけると助かります」「申し訳ありませんが……していただけますか?」などのクッションとなる言葉ややわらかい言い回しを使いながら書くことがポイントです。即興ではこのような言葉が出づらくても、事前に書くことで豊かな表現ができるようになります。
書いたセリフをもとに、実際に伝える場面を想像して、声に出して練習してみてください。練習するたびにどんどん伝えやすく、かつ、よい言い回しのセリフに磨かれていきます。誰かに聞いてもらい、フィードバックをもらうとなおよいでしょう。

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古川 武士(ふるかわ・たけし)

習慣化コンサルタント

習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。1977年、大阪府に生まれる。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」がもっとも重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。
オリジナルの習慣化理論・技術を基に、個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援の事業を開始。2016年には中国で6000名規模の習慣化講演を行い、本格的に海外進出をはじめる。著書は現在21冊、累計95万部を超え、中国・韓国・台湾・ベトナム・タイなど海外でも広く翻訳され読まれている。

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(習慣化コンサルタント 古川 武士)
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