■「不登校増加」は学校問題が顕在化しただけ
――不登校の中高生は毎年右肩上がりに増えて、35万人に上っています。なぜこれほど増えているのでしょうか。
確かに増えていますね。ただ、私は、不登校の増加の原因について、最近子どもが弱くなったり、親御さんの育て方が変わったことが理由ではないと感じています。不登校が増えたというより、むしろ不登校という状態が「可視化」されるようになったのだと思います。
以前は多少苦しくても学校には行くべきものとされ、登校できていること自体が分かりやすく評価される時代でした。そのため、親御さんも必死に子どもを学校へ連れて行こうとしていたのだと思います。
しかし時代の変化とともに、子どもを一人の個人として尊重するという考え方が、少しずつ広がってきました。その変化の中で、子ども自身が「行けない」「行かない」という思いを言葉にできるようになってきたのだと思います。
これまで家庭や学校の中で見えにくかった子どもの苦しさが、ようやく表に現れてきた――そうした変化として捉えています。
2016年12月に「教育機会確保法(正式名称:義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)」が成立したことをきっかけに、文科省も不登校児童・生徒の多様な学びを認め、不登校を問題行動として扱わず、登校をゴールにしないという方針を明らかにしました。こうしたなか、かつて“登校拒否”と呼ばれていた現象が、「不登校」という形でようやく表に見えるようになってきたのだと考えています。
■「特殊な空間」としての学校
――必ずしも学校に行かなくていいとなると、学校に行く意味はなんですか?
私は、学校の意味がなくなったとは思っていません。ただ、学校が「子どもが行かねばならない唯一の場所」ではなくなってきているとは感じています。
フリースクールやオンラインでの学びなど、学校以外の選択肢が広がってきたことも、その背景にあると思います。
学校にはもちろん勉強という価値もありますが、学校のもう一つの特徴は、同じ年齢で、同じ地域に育った子どもたちが同じ空間に集まり、長い時間を共に過ごす環境にあります。社会に出ると、こうした条件で人が集められることはほとんどありません。その意味で学校は、ある種とても「特殊な環境」だと考えています。
だからこそ、そこでうまくいかなかった経験を、そのまま自分の対人関係すべてに当てはめる必要はありません。同じ条件が揃うことは、その後の人生ではほとんどないからです。
一方で、そのような環境の中で心が揺れる経験をしながら、人とうまくいかなかったり、分かり合えないことに直面することもあります。
そうした試行錯誤を、完全に一人で背負うのではなく、教員や私たちカウンセラーなど、周りの大人に見守られながら経験できることには、一つの意味があると感じています。
■安心して失敗できる場所
学校にいる間は、守ってくれたり助けてくれたりする大人が存在します。その意味では、子どもが比較的安全に、そして安心して失敗できる空間だと言えます。守られた環境の中で、成功体験だけでなく、うまくいかない経験や、他者と分かり合えないという挫折も含めて体験できることには意味があります。
ただし、それが「苦しい思いをしてでも我慢しなければならない場所」や、「その苦しさが糧になる」という精神論になってしまってはいけません。学校は無理に適応する場所ではなく、「自分と他者とがどう関わるかを試行錯誤できる場」として使われていくことに意味があるのだと思います。
■「役に立っていない?」スクールカウンセラーの存在意味
――わが子が不登校になったとき、スクールカウンセラーに相談してもまったく状況は改善しませんでした。スクールカウンセラーは何のためにいるのでしょうか?
「スクールカウンセラーや担任に相談したのに何も変わらなかった」とおっしゃる親御さんは、実際に少なくありません。それだけ困っておられて、何とかしてほしいという思いで相談されたのでしょうし、その中で変化が見えなかったときの失望は、とても大きいものだと思います。
ただ、「相談すればすぐに状況が変わる」という親御さんの期待と、私たちの実際の関わり方との間には、どうしても“ずれ”が生まれやすいと感じています。
スクールカウンセラーは、生徒の問題を直接解決する存在ではありません。必要な人や支援機関をつなぐことで、問題の解決に向けて親子を支える“チーム”を編成し、整えていく役割を担っています。
医療現場でいう「チーム医療(医師、看護師、薬剤師、理学療法士など、多様な専門職が連携する医療形態)」のように、一人の専門家で完結するのではなく、関係する大人がそれぞれの専門的な役割を果たしながら支えていくイメージです。
よく誤解されやすいのですが、生徒や家庭、学校にはそれぞれ事情や関係性があるため、一人のカウンセラーが関わるだけで状況が大きく動くことは、実際にはほとんどありません。ここで私たちが関わるのは、「すぐには変わらない状況の中で、子どもと親御さんに何が起きているのかを注意深く観察し、コミュニケーションを図ること」です。
子どもが、なぜ動けなくなっているのか。
保護者が、どんな不安を抱えているのか。
家庭と学校との間に、どんなすれ違いが起きているのか。
そういったことを一つずつ整理しながら、子どもを支える親が孤立してしまわないように関係をつないでいきます。担任の先生、養護教諭、管理職、外部の支援機関。スクールカウンセラーは、そうした大人たちをつなぎ、家庭を支えるチームを作る――いわば「チーム学校」のまとめ役でもあるのです。
おっしゃる通り、スクールカウンセラーと生徒やご家庭との関係性は、すぐに結果が見えるものではありません。
「変わらないように見える時間にも、意味がある」それは何も変えなくていいという意味ではなく、子どもが動き出せる状態を整えるために必要な時間なのです。
スクールカウンセラーの役割は、子どもを学校に戻すことではありません。元気をなくし、自分を責める子どもが、もう一度自分のことを前向きに考えられる状態になるように支え、環境を整えていくこと。そして、一人で抱え込まなくてもいい関係を作ること。それが、私たちの役割だと考えています。
■不登校の子どもが動き出した方法
――『3万人の親子に寄り添ってきたスクールカウンセラーが伝えたい 10代の子どもの心の守りかた』(実務教育出版)には普川さんが関わられた不登校の生徒さんの8割が自らの動き出すとありましたが、具体的にはどのようなアプローチをされるのですか。
まず前提としてお伝えしたいのが、不登校の子どもにとって、学校に行かないという状態は問題行動というより、「自分を守るための選択」なのだということです。
子どもは、学校よりも家にいる方が安全だと感じているからこそ、その状態を選んでいるのです。
ですから、最初にお伝えするのは、どうやって子どもを学校に戻すかではなく、「いま、その子がどんな状態にあるのか」を親御さんと一緒に見ていくことです。
その上で、まず私たちが関わるのは保護者の方です。親御さんが不安を抱えたままだと、その不安が子どもへの言葉や関わり方に表れ、子どもに伝わってしまうためです。
そこで、まずは学校に行かせるための関わりではなく、「子どもが安心して過ごせる環境を家庭の中に作ること」を一緒に考えていきます。
子どもと親御さんの関わりが少し変わると、家庭の空気も変わり、子どもの状態にも少しずつ変化が生まれてきます。それまで自分を責めることに向いていた意識が少しずつ和らぎ、周りやこれからのことに目が向き始める、といった変化が見えてくることがあります。
そうしたタイミングで初めて生徒本人と会うこともありますが、そこで何かを説得したり、方向づけたりすることはあまりありません。むしろ私が大切にしているのは、その子が学校に行くかどうかではなく、「この先、自分はどうしていきたいのか」を考えられる状態を取り戻していくことです。
子どもは本来、とても主体的な存在です。安心できる関係の中で、自分の状態を少しずつ言葉にできるようになると、その子なりに考え、動き出す力を発揮していきます。
私たちスクールカウンセラーの役割は、その力が働くための環境を整えることなのだと考えています。
■都立入試は不登校でも進路が閉ざされない
――そうはいっても実際問題として、不登校だと成績が悪くなり、将来の選択肢が狭まるのではないでしょうか。
その不安は、とても自然なものだと思います。実際に、学校に通えない期間が長くなると、成績や進路のことが気になるのは当然です。
一方で、入試の仕組みも少しずつ変わってきています。
また、何らかの理由で評定をつけることが難しい場合には、学力検査の結果などを参考にしながら、別の形で評価が行われる仕組みもあります。そのため、学校での評価だけで進路が決まってしまうわけではなく、ほかの形で力を発揮できる余地が残されている制度になっているのです。
私が関わったケースでも、学校に通えない時期が長かった子どもが、自分のペースで学び直しを続け、都立高校へ進学したケースがありました。大切なのは、進路だけに焦点を当てすぎないことです。進路を考えることは大切ですが、子どもの状態が整ってこそ、初めて現実の選択肢になるのです。
■揺らぎ始めている「学校文化」
――普川さんのような方はまだ学校では少数派です。いまだに教員の多くは、子どもを学校に戻すことを前提に関わろうとしているように感じます。
そこには、長く続いてきた学校文化があります。先生方の多くは、「子どもに良いものを与えたい」という善意を持っています。
ただ、子どもは本来、自分でやってみたい、確かめたいという欲求を持った主体的な存在です。そこに大人が「良かれ」と思って関わりすぎると、子どもが自分で考え、選択する余地が少なくなり、かえって「期待に応えられない自分はだめなのでは」と感じさせてしまうことがあります。特に真面目で一生懸命な関わりほど、結果として子どもを追い込んでしまうことがあります。
また、学校には「子どもは指導するもの」「教えることが大人の役割」という関わり方の前提が根強く残っており、その中で関わると、どうしても管理的な関係が生まれやすくなります。しかし現在、不登校の増加や対教師トラブルなどを見ていると、こうした管理教育は破綻し始めていると感じます。たとえば、理由を説明できない校則などで、子どもを縛ることが良いことなのか。学校そのものが変わらなければならない時期に来ているのだと思います。
ですから、「学校は子どもを変える場所ではなく、子どもが自分で考え、試行錯誤できる場」としての視点の転換が、これからはより大切になってくると思います。
■学校は子どものための“福祉的資源”
――子どもが不登校になったとき、親は学校とはどのように関わっていけばよいのでしょうか。
不登校になると学校と連絡を取る機会も減り、社会から切り離されたような孤立感を抱くご家庭も少なくありません。ただ私は、親御さんや子どもたちに「学校に行けないからと遠慮せず、学校を活用してください」とお伝えしています。
とくに義務教育の学校は、教育以外にも給食や保健など、子どもにとって手厚い「福祉的な機能」を持った場でもあります。さまざまな形で子どもと関わり続けることができ、必要に応じて多様な支援につながる力も持っています。
だからこそ、問題を家庭だけで抱え込むのではなく、今、必要としていることを学校と共有しながら、「どのように学校に支えてもらうか」を一緒に考えていくことが大切です。
たとえば、長く学校に行けていない中で勉強が心配でも、すべてを一度に取り戻そうとすると負担が大きくなってしまいます。そういうとき、子どもに「英語だけ少しやりたい」といった希望があれば、それを無理のない形で学校に相談してみる。そうした関わり方も一つの方法だと思います。
■不登校でも「教育を受ける権利」を活かそう
――学校に行かず要望だけを出すのは、忙しい先生に対して申し訳ない気がしてしまいますが、よいのでしょうか。
遠慮しすぎる必要はありません。子どもの学びを支えることは、学校や教員の大切な役割の一つですから。
たとえば、「少し勉強を始めたいけど、何から手をつけていいかわからない」というときには、「週に1回、ここまでやってみよう」といった形で、学習の見通しを教員と一緒に立ててもらうこともできます。今は学習動画などの選択肢も豊富ですから、そうしたものを組み合わせながら、その子に合ったやり方を考えることもできるはずです。
また、その時々の子どもの状態に応じて、周囲との関わり方を柔軟に考えることも大切です。学習に取り組む時期もあれば、人と話すことが回復につながる時期もありますし、好きなことに没頭することが力になる場合もあります。
教室に行けるかどうかだけで考えるのではなく、「その子が少しでも元気になれる関わりを、学校の中でどう作っていくか」という視点で学校の資源を活用していくことが大切です。
その際は、一方的にお願いをするのではなく、「この子を元気にするために、私たちがどう関われるかを一緒に考えていただけませんか」と伝えていくこと。その協働関係ができると、学校とのやりとりもぐっと進めやすくなります。
■まずは、話しやすい大人を一人見つける
――もし、担任の先生が相談しにくかったりする場合はどうすればよいですか。
無理に担任の先生にこだわる必要はありません。学校には、さまざまな立場の大人がいます。私たちスクールカウンセラーはもちろん、職員室に提出物を持って行った時に対応してくれた感じの良い先生や、養護教諭、校長や副校長といった管理職でもいいのです。
まずは一人、「この人なら話を聞いてもらえそうだ」と感じられる人を見つけることが大切です。そこから少しずつ関係が深まり、「チーム学校」との関わりも広がる中で、問題解決につながっていくはずです。
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普川 くみ子(ふかわ・くみこ)
公認心理師・臨床心理士
東京生まれ。1995年の制度導入の翌年から第一線に立ち続けるスクールカウンセラー。30年間で小中高計12校、のべ3万人以上の児童・生徒・保護者・家族に寄り添い、問題解決に導いてきた、生徒・児童心理のプロフェッショナル。カウンセリング以外にも、親・教員・警察・病院・児童相談所・AIなどと連携した新しい生徒救済システム作りに携わるなど、いま学校教育界でもっとも注目されているカウンセラー。横浜創英中学・高等学校のほか、岡田武史氏が学園長を務める愛媛・FC今治高等学校里山校(FCI)、神野元基氏が理事長・校長を務める佐賀・東明館中学校・高等学校のスクールカウンセラーも務める。
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(公認心理師・臨床心理士 普川 くみ子)

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