※本稿は、服部真和『京都人が教えるずるいけどうまい合意の技術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■京都は“日本らしさ”の縮図
京都は世界的な観光都市でありながら、同時に日本的な「ムラ社会」構造が今も色濃く残っています。
「ムラ社会」とは、もともと村での暮らし方からきた言葉で「外部に慎重(京都っぽく言えば『よそさん』に慎重)」「内部で足並みをそろえる」といった特徴があります。外から見れば閉鎖的に見えますが、内側では安心感や結束を生み出すしくみです。
京都にある古い町家や老舗のお店では、土地や屋号、ブランドや技術を代々受け継いできました。表面上は別々に見えても、地元の人たちの間では血縁や地縁で密接につながっています。
「この人と、この人はどんな関係」「ここのお店はあそこの、なにがしで」など、目に見えないつながりが強く、だからこそ、それを壊さないように振る舞うのです。
こうした密な集団を一般的には、「共同体」と言うことがあります。じつは京都以外でも、会社の部署、学校のクラス、サークル、コミュニティなど、「共同体」はたくさんあります。
京都の「ムラ社会」と同じで、共同体の内部では「誰が何を言ったか」、「誰と誰がどういう関係にあるか」がすぐに共有されるため、露骨な対立や衝突は生まれにくいです。
■自己主張より「場の関係性」を優先する文化
京都では「地蔵盆」という地域行事が盛んに行われています。夏になると、町内の人たちが集まってお地蔵さんを飾り、子どもたちがおやつを貰い、お年寄りがそれをにこやかに見守る恒例行事です。
些細なことに思えるかもしれませんが、実際に運営するのはとても大変です。さらに「現代では若手や子育て世帯が集まらない」「準備する人が固定化している」といった問題などもあり、「そろそろやめようか」と言われることもあります。
それでも、最終的には「やっぱり続けよう」となることが多いのです。それは、この行事が人と人の関係をつなぐ「最後の砦」だからです。年に一度でも顔を合わせることで、「あの家のおばあちゃん元気かな」「あそこの子、もうこんな大きくなった」などと思える。それは、現代でも地域の安心感や信頼につながっているのです。
これは日本古来の「和をもって貴(とうと)しとなす」に通じます。京都において「自己主張よりも『場』の関係性」が優先されるのも、こういった文化的背景が大きいといえます。
■「価値観のぶつかり合い」が生じやすい街の構造
本書でも触れましたが、京都は長きにわたり「異文化が交錯してきた地」です。
私が、京都で旅館業や住宅宿泊事業(民泊)開業の支援をするときも、この「せめぎ合い」を何度も目にします。
古い町家を購入して宿泊施設にしたいという案件では、地元の住民からは「これ以上、見知らぬ人が出入りする施設を増やさないでほしい」と強く反対されることがあります。一方で、町家を購入した事業者は「空き家として朽ちていた家屋を改修して活用するので、地域にとっても良いことだ」と信じています。
これは、どちらも「間違っている考え」とは言えませんが、明確に価値観のぶつかり合いが生じてしまっているのです。
他にも、「景観」と「商売」の衝突なども見られます。京都市では「京都らしい景観」を維持するために、建物や看板の色や材質などに厳しい規制をかけています。
ですが、商売をする人からすれば、「建物が埋没しては個性が発揮できない」とか「目立たなければ集客できない」という悩みが生じます。特に全国展開しているチェーン店にとって切実な問題です。
■観光と生活の両立は難しい
一方で行政や住民にとっては「歴史ある町並みが壊れる」という強い想いがあるわけです。ここにもやはり価値観のぶつかり合いが見られます。
近年では「レンタサイクルや観光バスの交通」を巡るせめぎ合いも増えています。
便利さと安全、観光と生活、この両立を実現するのはけっこう難しいです。
京都は長い歴史のなかで「異文化が先進的に取り入れられる土壌」でありながら、同時に「外からの変化を危惧する共同体的な性質」も強く残しています。つまり「革新性」と「保守性」の価値観が常に同居しているため、衝突が目立つのはむしろ自然なことなのです。
このように、京都がたくさんの「争いの火種」を抱えながらも、それが燃え広がらないのは、京都人の日常が小さな「折り合い」で溢れているからです。
■「ここからきれいに撮れる」という“小さな折り合い”
京都人以外でも見聞きしたことがある有名な例は、「鴨川の等間隔」の文化でしょう。京都には京都市の中心部を流れる「鴨川」という川があります。この鴨川は、市民や観光客が散歩やデート、休憩などで訪れる憩いの「場」です。ここでは、夕暮れになると川沿いにカップルが並んで座りますが、不思議なことに自然と隣同士が等間隔に離れて座っており、一つの名物となっています。
誰かが決めたルールではなく、「このくらい距離を取ったほうがお互い気持ちいい」という「暗黙の共通理解」が働いているのです。このような鴨川の風景は、京都人が日常的に行う「小さな折り合い」の表れです。
他にも京都で有名な祇園にある新橋通りの例を挙げましょう。
そんななか、地域の人たちは、撮影禁止による排除ではなく、やさしい言葉やイラストで「この角度からはきれいに撮れますよ」と伝えて導線を整えたり、商売として写真撮影する人たちには「専用の腕章」を付与する(この場合には取り決めがある)ようにしました。
自分たちの生活を守るためだけの拒絶はせず、「住民」「観光客」「事業者」など、それぞれの立場を踏まえた「小さな折り合い」を実践しているのです。
■説得ではなく、お互いを尊重する
これらは一見、些細なことですが、その場その場で調整しています。そのままでは「よそさんの振る舞い、ちょっと困るわぁ」と思うことも、争いを避ける折り合い術で「まあ、これならええよね」に変えて事前に火種を消火しているのです。その結果、大きな対立に発展せずに、暮らしが回っていきます。
このように京都では、争いが起きそうな事柄に対して「小さな折り合い」を積み重ねて合意形成します。これは自己の価値観を押し付けて「相手を説得する」よりも「お互いを尊重する」文化と言えます。
ここまでを読んで、あなたは「これはあくまで京都の話」と思ったでしょうか? あるいは「これは京都に限った話ではない」と感じたでしょうか?
先ほど、京都は「多文化・多様な価値観が交錯する地」とお伝えしました。そして、そんな地で京都人は「同じ場所で看板を出し、入れ代わり立ち代わり訪れるお客様に応対し続けている」という話もしました。
私はこのような「外から訪れる価値観」と「内なる価値観」のせめぎ合いこそが、「争いの火種」になっていると考えています。
じつはこの状況は、現代の私たち誰もが触れているものでもあります。その最もわかりやすい例がSNSです。
■「本音」は争いや喧嘩に発展しやすい
SNSでは、アカウントを作った瞬間から同じ場所にアイコンを掲げ、自分の価値観に基づいて発信を続けることになります。けれども、その発信を見に来る人たちは多種多様であり、しかも匿名性が高いため、相手の調子や、雰囲気、本音を知ることは容易ではありません。
つまりSNSで発信するという行為は、京都人が一つの場所に店を構え、素性のわからない多様な観光客を入れ代わり立ち代わり迎えているのと同じ状況だと言えるのです。
もしSNSに触れている人の多くが、京都人の「たてまえ」を単に「いじわる」や「陰湿」なものだと感じているなら、それを「対立を避ける知恵」とは気づかないでしょう。むしろ「交流とは、自分の価値観に基づいて本音で発信するものだ」と考えているはずです。
もちろん、思った通りのことを表現することや、本音を言うこと自体が悪いことだとは思いません。しかし気をつけなければ、互いの価値観が正面から衝突し、あちこちで「言い争い」や「口ゲンカ」に発展することがあります。
不思議なことに、現実で顔を合わせていれば起きないはずのすれ違いも、文字だけになるとより強く受け止めてしまいます。ましてや相手は匿名で、本当の人柄や状況が見えないため、「なぜそんな言い方をするのか」を想像せず、売り言葉に買い言葉で反発し合ってしまうのです。
■「論破」「言い負かし」は得策ではない
こうして小さな行き違いが大きな争いに発展しやすいのが、SNS特有の難しさだといえるでしょう。
さらにSNSでは、ほんの一言でも意図せず攻撃的に受け取られることがあります。「いいね」や「閲覧数」「シェア」といった仕組みが承認欲求を刺激し、「論破して注目を集める」ような行動を誘発してしまうからです。
実際、SNSではフォロワー数が多い人や有名人、実績のある人ほど「匿名アカウントから絡まれやすい」傾向があります。「○○を論破した」「□□に言い返してやった」と言いたげな自尊心が飛び交い、対話の質よりも勝ち負けの印象ばかりが重視される空気ができあがってしまっているのです。
もっとも、こうした対立が表に出やすいのがSNSというだけで、実際に人と向き合う場面でも似たような状況になることは少なくありません。
結局のところ、昔と違って、現代では日本中どこにいても多文化・多様な価値観に向き合わざるを得ないからです。そのような状況で、相手を論破したり、言い負かすことに価値を見出すのは得策とは言えません。
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服部 真和(はっとり・まさかず)
行政書士、服部行政法務事務所代表
1979年、京都市生まれ。中央大学法学部卒業。京都府行政書士会 相談役。起業難関のまち京都で1500件を超える新規事業創出を支援し、行政手続・法律と現場をつなぐ「橋渡し」の専門家。とりわけ、景観、まちづくり、民泊、看板規制など、住民・事業者・行政が対立しやすい「摩擦の多いテーマ」において、三者の意見をまとめあげる調整役として数々のプロジェクトを成功させてきた。「衝突の現場を整理し、納得をつくる技術」に定評があり、関わった民泊案件300件のうち合意形成率は100%。著書『教養としての「行政法」入門』(日本実業出版社)など。
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(行政書士、服部行政法務事務所代表 服部 真和)

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