■ブロッコリー界のトップランナー
長崎県雲仙市。肥沃な火山灰土壌に恵まれたこの地で、国﨑青果は1996年に設立された。野菜の仲卸業を営み、2025年には年商88億円を記録。扱うブロッコリーは年間250万ケース(1ケース8キロ計算で約2万トン)にも上る。長崎と熊本を筆頭に、鹿児島、福岡、鳥取、島根、徳島、埼玉、北海道など全国各地にネットワークを築き上げ、日本の青果流通業界において知る人ぞ知るブロッコリー界のトップランナーだ。
前編で紹介した「発泡氷詰め」による出荷。これにより國﨑青果は、各産地を大きく成長させた。しかし、國﨑青果がこれほどまでに利益を生み出し続けている最大の理由は、単なる拠点の多さではない。
農家の「一番の弱点」を自社で丸抱えしてしまうというビジネスモデルにある。
■生産性を5倍に引き上げる分業モデル
「ブロッコリー農家にとって一番しんどいのは『収穫作業』です。ある農家さんでは、夜中の12時から畑に入って収穫し、その後に梱包、朝10時の出荷に間に合わせるような過酷な生活をしています。毎晩そんな生活が続いたら、農業がちっとも楽しくないじゃないですか」
井上さんがそう語るように、ブロッコリーは収穫期の見極めが難しく、畑の中で適切なサイズのものを一つひとつ包丁で切り出す「選択収穫」が必要となる。1つの畑に10回以上入ることも珍しくない。これほど収穫に時間がかかると出荷に間に合わせるためには夜中のうちに畑に来るしかないのだ。
この労働集約的な作業がボトルネックとなり、農家は今以上に作付面積を増やせないという問題を抱えていた。さらに、近年開発が進む自動収穫機についても、井上さんは「アメリカの巨大な畑で機械収穫を見たことがありますが、結局は人が目で見て切っていく方が圧倒的に速い。ブロッコリーの完全機械化はまだ厳しいと感じています」と分析する。
そこで國﨑青果が打ち出したのが、農家の畑のブロッコリーを丸ごと買い取る「単買(たんが)い」という手法と、自社の従業員による「農家サポート体制」だ。
農家は日々の管理といった「作ること」に専念する。その分、種まきから定植、そして収穫と人手が必要な部分は國﨑青果の社員が手伝う。なので、時期を迎えると、國﨑青果が自社で抱える約300人弱(うち外国籍スタッフが約220人、日本人が約60人)の各部隊が畑に行き、種まきや定植、さらには収穫から選別、箱詰めといった手が掛かる作業を代行してしまうのである。
「農家さんからすれば、もちろん自分だけで全て行った方が利益率は高いです。でも、一人で全てやろうとすると、作り切れるブロッコリーの面積がだいたい2ヘクタール(サッカーコート3面ほどの面積)。作業をうちの部隊に任せてもらえれば、5倍の10ヘクタール(東京ドーム約2個分)まで面積を広げられます。圧倒的な量を作れるので、結果的に農家さんの手元に残る金額は劇的に跳ね上がるんです」と井上さんは胸を張る。
■年収3000万円の儲かる農業
では、実際にどれくらい「儲かる」のだろうか。井上さんは現場のリアルな数字を明かしてくれた。
「相場にもよりますが、例えば農家さんの手取りがブロッコリー1個で80円になったとします。10アール(1ヘクタールの10分の1の面積)の畑には約4000本のブロッコリーが植えられるので、ロスを見込んでも、うまく作れれば10アールあたり28万円~30万円の売上。たとえ相場が崩れて手取りが1個60円に落ちたとしても、10アールあたり20万円は超えます。これを10ヘクタール(1000アール)やれば、単純計算で2800万円~3000万円。一人でやってこれだけあれば、家も建てられるし、数千万円するトラクターなどの機械投資もできます。実際に弊社と連携する農家さんで一人で10ヘクタール管理する方がいるのでこれは現実的な話です」
■高齢になっても続けられる
この支援モデルは、高齢化対策としても絶大な威力を発揮している。
通常なら中腰での収穫作業が必要なことから、体力的な限界に伴い60代で引退してしまう農家が、「彼らが収穫してくれるなら」と75歳になっても農業を続けることができるという。さらに、高齢化で引退し、空いた畑が出たとしても、周辺の農家は日々の管理を行うだけで済むため、無理なく作付面積を増やしていくことができるのだ。
もちろん、國﨑青果が代行した作業にかかる費用(収穫代など)は、パートやスポットワーカーを雇うのと同様に支払いが生じるが、それ以外の発泡スチロールや段ボール、運賃などの経費は全て同社負担で、そのあとに残る金額が先ほどの話でいう80円となる。
農家にとっては、自分たちで人材の採用を行う必要もない上に、休憩場所など気にする必要がない。その上、自分だけでやるよりも面積が増えるので、最終的な差し引き後の手元に残る金額がトータルで跳ね上がるためメリットしかない。
そして國﨑青果にとっても、農家の面積拡大によって自社が仕入れられる「ブロッコリーの絶対量」が増えることが最大の恩恵となる。市場において「他を圧倒する物量を持っている」ということは、有利な価格交渉や供給ルートの開拓において最強の武器(交渉材料)となるからだ。
■機動力抜群「最強の収穫部隊」
國﨑青果の凄みは、その圧倒的な「機動力」にある。彼らは本州にとどまらず、夏場には驚くべき大移動を行うのだ。
「本州の高冷地を除いて農閑期となる夏場は、そのままでは従業員の仕事がなくなってしまいます。そこで、夏にブロッコリーが最盛期を迎える北海道へ、従業員のほとんどが移動します。北海道には、大型バスがあったり、現地で買い上げた宿舎があったりするので、みんなでシーズンは滞在しながら収穫を行います」
実は、この「北海道への大移動」は、現地の北海道農家にとってもまさに救いの神となっている。
「こちらの部隊が入ることで、北海道の農家さんは他の作物の収穫に専念しながら、11月頃までブロッコリーを作り続けることができるようになりました。うちの関わっていない産地は、人が足りなくてブロッコリーをやめてしまっているところもすくなくありません。夏場に北海道という巨大な産地を維持できているのは、この収穫支援があるからこそなんです」
■雇用維持のために自社農場も設立
さらに近年、國﨑青果は農家のサポートだけでなく、自社で直接農業を行う「生産法人」の設立に力を入れている。現在、熊本の「BASE」や長崎の「グリーンファーム絆」に加え、北海道でも農家と共同で大規模な自社農場を運営しており、その規模は自社関連だけで約150ヘクタールにも達するという。
流通業者がなぜ「作る側」に回るのか。そこには、単なる利益追求を超えた切実な理由があった。
1つ目は「気候の壁と雇用の維持」である。「ブロッコリーは気温が5度以下になると成長がピタッと止まってしまうんです。すると、毎日収穫していたはずの作業が突然なくなってしまう。何百人もの従業員を抱えているのに、『今日は仕事がないから休んで』とは言えません。
2つ目は「北海道へ行かない社員の受け皿」だ。夏場の北海道出張には「10万円の出張手当」がつくなど待遇が用意されているが、家庭の事情で長期間家を空けられない社員も少なくない。彼らに対して「出張に行けないなら仕事はない」と突き放すのではなく、自社農場で畑の管理などの仕事を任せることで、多様な働き方を担保しているのだ。
そして3つ目の最大の理由が「産地の防衛」である。「高齢化でどうしても農業を引退する方が地域に出てきます。そんな時、周りに受け手がいなければ、その畑は荒れ地になり、産地としての生産量がどんどん縮小してしまいます。だからこそ、『俺らが引退した後は、この畑を管理してくれ』と頼まれた時に対応できるよう自社で作る機能を持っている必要があるんです」
■物流の「2024年問題」と資材高騰への打開策
しかし、順風満帆に見えるブロッコリービジネスにも、乗り越えなければならない強大な壁がある。それが「物流の2024年問題」と「生産・梱包資材の爆発的な高騰」だ。
トラックドライバーの不足や高齢化により、長距離輸送の難易度は年々上がっている。これに対し、國﨑青果は自社で大型トラックやトレーラーを保有し、自社便やフェリー、JR貨物を駆使して全国へ運んでいる。しかし、最大のネックとなるのが強みであった「発泡スチロール」だ。
「発泡スチロールはかさばるため、大型10トントラックを使っても900ケースほどしか積めません。
そこで同社は現在、実証実験を始めている。ダンボールの中に、お菓子の乾燥剤のような「呼吸を抑える特殊な鮮度保持剤」を入れ、発泡スチロールと同等の鮮度を保ったまま輸送する実験を行う。これが成功すれば、トラック1台で1000~1200ケースまで積載量を一気に増やすことができる計算だ。ゴミ問題も解決でき、資材高騰の波と運送費の上昇を吸収する強力な武器になるはずと、期待を込める。
■物流網の再構築で気候変動にも対応
気候変動による「旬のズレ」も深刻だ。
かつて九州のブロッコリーは9月末から出荷できていたが、現在は残暑が厳しく11月頃までずれ込んでいるという。逆に春の終わりは早く、6月まで獲れていたものが5月上旬で終わってしまう。
これに対応するため、同社は北海道だけでなく、群馬県や長野県といった標高の高い冷涼な産地の開拓を進めるとともに、産地ごとに特性の異なる4~5種類の品種を組み合わせることでリスクを分散させている。
「運送の面がこれからもっと大変になると思うので、関東と鳥取のちょうど真ん中あたり、滋賀や愛知あたりにもう一つ営業所を出して『物流のハブ』にしたいと考えています。もしかしたら、運送会社さんと一緒に組んで新たな物流網を構築する可能性もあるかもしれません」
■農業を儲かるかっこいい仕事にしたい
そして令和8年度からの「指定野菜」への昇格について、井上さんは手放しで歓迎している。実は國﨑青果では、国に先んじて独自に「農家への価格保証」を行ってきたのだ。
「豊作で市場価格が暴落したときでも、うちの契約農家さんには『最低でも手取りで1個50円や60円は保証する』という約束を何年も前からやっています。今年で言えば、下値を60円に設定。安い時は身銭を切って買い支え、その代わり高い時はスーパーさんに安定した価格で出させてもらう。そうやって農家さんが絶対に赤字にならない仕組みを作ってきました」
指定野菜に昇格すれば、何かあった時の国や都道府県からの補給金(セーフティーネット)がさらに手厚くなる。
「うちが独自でやっていた保証を、今度は国が強力にバックアップしてくれるようなものです。農家さんはもっと安心して面積を拡大できるし、私たちもさらに攻めの勝負に出られます。農業を『儲かる仕事』『かっこいい仕事』にするために、しっかりと利益を出せる体制をつくっていく。今回の指定野菜への昇格は、その追い風になると思っています」
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鈴木 雄人(すずき・ゆうと)
農業ライター
1997年、茨城県石岡市生まれ。農学部を卒業後、青果卸会社に就職。全国の農家と繋がり、現地で得た情報を発信することで、農業界を盛り上げていきたい。という気持ちが強まり、約2年勤めたのち退職。2022年より、車中泊で全国の農家を周りながら現地で得た情報をメディアやSNS、ブログ「はれのちアグリ~農業情報~」で発信する。
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(農業ライター 鈴木 雄人)

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