人から褒められたとき、どう返答したら好印象になるか。「人に好かれる言いかえ」をレクチャーする講師・司会者のつみきち氏は「つい謙遜する人は多いが、それは相手に『あなたの目は節穴ですよ』と言っているようなもの。
ぜひ好感度を高める切り返しを身に付けてほしい」という――。
※本稿は、つみきち『知らない間に嫌われる言葉、話すたびに好かれる言葉』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■励ましへの感謝を伝える「言いかえ」
誰かに励まされたとき、「ありがとう、頑張る!」と返すのは自然な反応です。感謝して、前を向く宣言。何も悪いところはないように見えます。
でも、「頑張る」は自分の中だけで完結しています。相手の応援を受け取ったあと、ひとりで走り出してしまっている。すると応援した側は、少し置いてけぼりに感じ、「力になれたのかな?」と、ふと考えることもあります。
それに対して「頑張れる!」はどうでしょう。たった1文字、「れ」が加わっただけ。でもこの1文字で、「あなたのおかげで力が出た」と伝わります。「あなたの言葉があったから頑張れる」という“受け取りのサイン”が入る。
応援した側にとって、「自分の言葉に意味があった」と思える瞬間です。
これと同じような構図が、実は他の場面でもあります。たとえば誰かに遊びに誘われたとき、「楽しみ!」と返すか、「楽しみができた!」と返すか。「楽しみ」は自分の気持ちを伝えているだけですが、「楽しみができた」は、「あなたが誘ってくれたから、私の日常に楽しみが生まれたんだよ」という意味になる。
ここでも、自分だけで完結していた感情に、相手の存在が加わっています。“私の感情”が“あなたのおかげで生まれた感情”に変わるわけです。
■「そんなことないです」をアップデート
褒められたとき、反射的に「そんなことないです! 私なんて全然です!」と返してしまうこと、ありませんか? 日本語の会話では、それが“礼儀”のように感じられる場面も多いでしょう。謙遜は文化として根づいています。
ただ、褒めた側の気持ちを少し想像してみてください。「素敵ですね」と本心で伝えたのに、「そんなことないです!」と全力で否定される。すると「余計なこと言ったかな?」と不安になったり、「次から褒めるのやめておこう」となったりする。褒めた側が傷ついてしまう、という逆転現象が起きることがあるのです。

「私なんて全然です」は、「あなたの目は節穴ですよ」と言っているようなもの……と言ったら大げさかもしれませんが、そんな解釈もできますよね。
褒めるのは、ちょっとした勇気がいる行為です。その勇気ごと突き返されると、人はだんだん口を閉ざすようになります。
「そう言ってもらえるなんて光栄です」は、自分を大きく見せているわけではありません。相手の“褒めてくれた行為そのもの”に感謝している。「あなたがそう見てくれたことが嬉しい」というニュアンスです。
謙遜は相手への敬意ですが、受け取ることもまた敬意です。
■謙遜しすぎて周囲が傷ついてしまった
何かがうまくいったとき、「偶然ですよ~」とかわすのは気楽です。注目されたくない、大げさにされたくない、自分の手柄にするのは恥ずかしい。そう思うからこそ出てくる言葉でしょう。
でも、「偶然」と言ってしまうと、自分の努力だけでなく、まわりで支えてくれた人たちの存在まで「なかったこと」にしてしまうリスクがあります。
反対に「いろいろな人のおかげで今があります」は、自分ひとりの手柄にしない謙虚さと、まわりへの感謝が同時に伝わる言葉です。

とある会社の表彰式でのこと。年間で一番の売上を出した社員が、壇上でお礼のあいさつをする場面がありました。注目が集まる中、その人は照れたように「いやあ、偶然です!」と笑ったそうです。
そのとき、会場の空気が一瞬で凍りつきました。客席には、その結果を出すために一緒に何カ月も走り回ってきたチームのメンバーが座っていたからです。
本人にとっては、ただの謙遜だったのでしょう。でもその「偶然」のひと言が、知らず知らずのうちに、陰で支えてきた人たちを傷つけてしまったのです。
せっかくのお祝いの言葉が台無しになった瞬間です。
■褒めてくれた人の気持ちに応える返答
「すごいですね」と言われて、「他の人に比べたらまだまだです」と返す。日本人同士の会話ではよく見かける光景で、謙虚であろうとする誠実さが表れています。
ただ、この返し方には小さなトゲがあります。
褒めた側は「あなた」を見て「すごい」と思った。
なのに「他の人」という外部の基準を持ち出されると、「あなたの評価基準は甘いですよ」と遠回しに言っているようなものだからです。
しかも「他の人に比べたら」は、会話を“比較”の土俵に引きずり込みます。褒めた側は比べたかったわけじゃない。純粋に「あなたがすごい」と伝えたかっただけ。そこに他者が登場すると、場の温度が一気に下がってしまいます。
それに対して「まだまだ成長中です!」は、比較をしていません。自分の伸びしろを認めて謙遜はしつつ、今の自分も否定していない。前向きで軽やかで、褒めた側も「これからが楽しみだね」と自然に返せます。
比べる相手は、他人ではなく昨日の自分で十分。そのほうが、褒めてくれた相手の気持ちも、自分のこれからも、どちらも大事にできるのです。
■「待たせてごめんね」は今一歩
志村けんさんは遅刻を避けるため、約束の1時間前には集合場所にいるのがルーティーンだったそうです。理由は“一日の始まりを「すみません」にしたくなかったから”。
たしかに謝ることで心をすりへらすのは、もったいないですよね。
とはいえ遅れてしまうことは誰にだってあります。そんなとき、どんな言葉を選べばよいのでしょうか。
「待たせてごめんね」はマナーとして正しいと言えるでしょう。ただ、「ごめん」は、自分の罪悪感を相手に渡す言葉でもあります。言われた側は「いいよ、いいよ」とフォローする役を引き受けることになる。つまり、待たされた側がさらに気を使うことになり、そちらの負担が二重になってしまうのです。
そこでご提案したいのが「待っててくれてありがとう」です。この言葉は同じ事実を“感謝”に変換しています。待った側は「自分のしたことが肯定された」と感じられ、フォローする必要がないので、会話がスムーズに始まります。
もちろん遅刻は遅刻ですし、丁寧なお詫びが必要な場面もあります。でも「ごめん」のあとに「待っててくれてありがとう」とひと言添えるだけで、空気はふっとやわらぎます。
それだけで、一日の会話を少し前向きに始めることができますよ。

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つみきち
好かれる言いかえラボ代表

セミナー講師、司会者、元ラジオパーソナリティ。大阪府出身。これまで企業や自治体の式典の司会者、イベントMC、ラジオ特番や番組のメインパーソナリティを担当。聴き手・読み手が心地よく、親近感や前向きな印象を感じられる「言いかえ」を十数年にわたり研究。2023年に「フォローしたくなるインフルエンサーアワード」で最優秀賞を受賞。著書に『なぜか好かれる人の言いかえ手帖』(SBクリエイティブ)がある。

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(好かれる言いかえラボ代表 つみきち)
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