五月病にならないためにはどうすればいいか。内科医の梶尚志さんは「メンタル不調は『気の持ちよう』や『性格の問題』ではなく、生活の変化や栄養状態の悪化が重なった結果だ。
予防策として、長期休み中の食事を整えことをお勧めする」という――。
■脳がエネルギー不足に陥っている
連休明け、「やる気が出ない」「朝起きられない」「気分が落ち込む」と感じたことはありませんか。新年度の緊張がひと段落したタイミングで、こうした不調を感じる人は少なくありません。
それ、いわゆる「五月病」といわれる状態です。
実はこの不調、単なる気分の問題ではなく、生活リズムの乱れやストレス、そして栄養バランス崩れが重なって起こる体の中の変化によるものです。つまり五月病は長期の休み明けに起こる「脳のエネルギー不足の状態」とも言える状態です。
その鍵を握るのが、連休中からの生活習慣と、日々の食事です。では、どうすればこの不調を防げるのか解説して行きます。
■「戦闘モード」から「休息モード」へ
長期休み明けに生じるメンタル不調の主な原因は、大きく3つあります。
1)ストレスからの急激な解放による自律神経の乱れ

2)生活リズムの乱れによる体内時計の狂い

3)栄養バランスの偏りによる「脳のエネルギー不足」

まず、新年度の4月は、環境の変化に適応するために無意識のうちに強いストレスがかかり、交感神経が緊張した状態が続きます。この状態は、ストレスホルモンであるコルチゾールが高いレベルで維持され、いわば身体は、「戦闘モード」の状態です。
しかし、ゴールデンウィークなどの長期休暇に入ると、その緊張が一気に緩み、副交感神経優位へと急激にシフトします。
この急激な変化が、自律神経のバランスを崩し、心身の不調の引き金となるのです。
次に、休暇中の夜更かしや朝寝坊、不規則な食事によって生活リズムが乱れると、体内時計が乱れます。体内時計の乱れは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌異常を引き起こし、睡眠の質が低下し、寝起きの悪さ日中のだるさや眠気が抜けないといった不調につながることが知られています。
■集中力低下、やる気低下、気分の落ち込み
さらに見逃せないのが、食事の乱れです。
近年注目されているのが、脳の栄養状態とメンタルの関連です。外食や糖質中心の食事が続くと血糖値の急激な乱高下による変動で、脳へのエネルギー供給が不安定になり、集中力や意欲の低下を招きます。実際に、血糖変動と気分障害との関連は多くの研究で報告されています。

Anderson RJ et al. Diabetes Care. 2001;24(6):1069–1078.
また、長期休暇中にたんぱく質やビタミンB群、鉄、亜鉛といった栄養素の摂取が不足すると、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の合成が低下し、気分の落ち込みや意欲低下を引き起こします。
つまり、長期休み明けのメンタル不調は、自律神経・体内時計・栄養バランスの3つが乱れた結果として生じる生体反応なのです。
■セロトニン、ドーパミンをつくる栄養素
メンタルの安定は、気合いや根性といった精神論ではなく、脳内で働く神経伝達物質の量とバランスによって決まります。
「気分」や「意欲」に関わるセロトニンやドーパミンといった物質は、体内で自然に作られるものですが、その合成を支えているのが「栄養」です。
ポイントは、メンタルを支える栄養素には大きく3つの役割があるということです。


①神経伝達物質の「材料」となる栄養素

②それを作る過程を支える「サポート役」の栄養素

③脳の状態そのものを整える「調整役」の栄養素

まず「材料」となるのが、タンパク質です。
たんぱく質から得られるアミノ酸のうち、トリプトファンはセロトニン、フェニルアラニンはドーパミンの原料となります。不足すると、気分の落ち込みや無気力につながりやすくなります。
この「サポート役」となるのが、ビタミンB群です。
アミノ酸だけでは神経伝達物質は十分に合成されません。特にビタミンB6やナイアシンは、神経伝達物質を生成する際の補酵素として働きます。また、ビタミンB12と葉酸はホモシステインという悪玉アミノ酸の代謝に関わり、脳血管や神経機能を保護する役割を担っています。
■脳の栄養状態を整えることがスタート
そして「調整役」として重要なのが、ミネラルや脂質です。
鉄と亜鉛は、神経伝達物質やエネルギー産生に関与し、不足すると疲労感や集中力低下、意欲低下、抑うつ症状や認知機能低下と関連することが報告されています。
さらに、DHAやEPAといったオメガ3系脂肪酸は、炎症性サイトカインの産生を抑制し、脳内の慢性炎症を抑え、神経細胞膜の働きを保つ役割があります。
ビタミンDも神経の炎症を抑制する働きやセロトニン、オキシトシンの産生にも関わり、血中濃度の低下がうつ症状と関連することが複数の研究で示されています。

Mina Kaviani et al. J Affect Disord. 2020 May 15:269:28-35.
このように、メンタル不調の背景には、栄養素の不足とそれによる代謝の異常が密接に関与しており、「脳の栄養状態」を整えることが、うつ抜けのための土台となるのです。


■タンパク質はコンビニ食材で摂れる
メンタルを整えるために必要な栄養素がわかっても、「忙しくて実践できない」と感じる方は少なくありません。しかし実際には、特別な食事を用意する必要はなく、日常的にスーパーやコンビニで手に入る食材でも十分に対応可能です。
ポイントは、「何を避けるか」よりも「何を意識して補うか」を意識することです。
まず中心となるのは、良質なタンパク質を摂取できる食品です。
・ゆで卵

・チーズ

・サラダチキン

・納豆

・豆腐

これらを摂取することで、神経伝達物質の材料となるアミノ酸を効率よく補給できます。
そして、日常的に取り入れやすい食材です。
■間食にはバナナ、ナッツがおススメ
次に意識したいのが、脳の働きを支える脂質です。
・サバ缶

・イワシ缶

・「さばの塩焼き」などの焼き魚のパック製品

こうした青魚に含まれるDHAやEPAは、脳の炎症を抑え、神経細胞の機能を保つ上で重要な役割を果たします。
さらに、亜鉛やマグネシウムといったミネラルや、葉酸やビタミンB群といった食材も欠かせません。
・バナナ

・玄米おにぎり

・ナッツ類(間食にもおすすめ)

・ほうれん草、ブロッコリーなどの緑黄色野菜

・海藻類

これらの食品を摂取することで、神経伝達やエネルギー代謝を支える栄養素を補うことができます。
■「朝食抜き」はやっぱり脳によくない
また、腸内環境を整えることもメンタルの安定には重要です。
・ヨーグルト

・味噌汁

・甘酒

・キムチや納豆などの発酵食品

腸内環境はセロトニン産生と密接に関わることが知られており、いわゆる「腸脳相関」の観点からも重要です。

これらの食品を日々の食事に無理なく組み込むことが、結果として「脳の栄養状態」を改善し、長期休み明けのメンタル不調を予防する実践的な方法となるのです。
なお、せっかく栄養を意識していても、日々の食習慣によってはメンタル不調を招きやすくなることがあります。
例えば、朝食を抜くことや、菓子パン・麺類・丼ものといった糖質中心の食事は、血糖値の乱高下を引き起こし、集中力や意欲の低下につながります。
また、甘い飲み物やお菓子の習慣、外食やジャンクフード中心の生活は、ビタミンやミネラル不足と炎症の増加を招き、脳の働きに影響を与える可能性があります。
「何を食べるか」に加えて、「偏りすぎないこと」を意識することも大切です。
■メンタル不調は「性格の問題」ではない
五月病をはじめとする長期休み明けのメンタル不調は、決して「気の持ちよう」や「性格の問題」ではありません。その本質は、生活の変化や栄養状態の悪化が重なった結果として生じる極めて自然な反応です。
現代社会では、長時間労働や人間関係のストレスに加え、睡眠不足や偏った食生活が慢性的に続いています。こうした状態が、特に長期の休み明けなどに、メンタル不調をさらに悪化させているのです。
つまり、五月病は単なる一過性の不調ではなく、日々の生活習慣と栄養状態の積み重ねによって引き起こされる「結果」と言えるでしょう。
だからこそ、対策として重要なのは、日々の食事と生活習慣を整えることです。
まずは、脳に必要な材料となるタンパク質やビタミン、ミネラルといった適切な栄養を意識して取り入れること。
そして、できる範囲で食事の偏りを見直すことです。それだけでも、脳の栄養状態は少しずつ整っていきます。
つまり、しっかり食べて脳の栄養状態を整えること。それが、五月病をはじめとした長期休み明けの不調を予防し、日々のパフォーマンスを維持するための確かな一歩となるのです。

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梶 尚志(かじ・たかし)

梶の木内科医院院長

1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。

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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)
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