子供の成績が伸びないのは、何が原因なのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「どんな子でも勉強のやり方さえ変えれば、伸びていく。
早期教育のやりすぎで、間違った勉強のやり方を身に付けている場合もある」という――。
■いつの時代も変わらない親たちの悩み
中学受験の指導にあたって、かれこれ40年以上が経つが、いつの時代も変わらない親たちの悩みが「わが子の成績が伸びない」というものだ。特に近年の相談事で多いのが、「塾の週テストでは点が取れているのに、範囲が広いテストになるとひどい成績をとってくる」というもの。「あんなにたくさん勉強したのに、すぐに忘れるって、どういうことでしょう? うちの子、記憶力が悪いのでしょうか?」、そんな嘆きを毎日のように聞いている。そして、いつも思う。どんな子でも勉強のやり方さえ変えれば、伸びていくのに、と。
中学受験で成績が伸び悩んでいる子の共通点は、塾から課せられる膨大なタスクをただ終わらせるだけの勉強になっていることだ。中学受験に塾は不可欠ではあるが、塾に言われるがまま、ただ知識を覚えて、問題を解くという勉強のやり方をしていると、いずれどこかで息切れするか、覚えては忘れ、覚えては忘れをくり返す、冒頭のような状態になる。
■小1の時点で「勉強嫌い」
それに加えて昨今は、SNSの影響で、「うちの子はこれをやって御三家に合格した」「毎日○時間勉強した」などの情報が否応なしに入ってくる。すると、「うちの子の成績が上がらないのは、まだまだ勉強量が足りないからだ」「あの問題集をやっていないからだ」と思い込み、さらに勉強量を増やしてしまう。そうやって、自ら大変にしてしまっている。
そもそもそういう家庭は、中学受験の勉強が始まる以前の幼少期から、いろいろな勉強をやらせていたりする。
しかし、そういう家庭で育った子は、小学1年生の時点ですでに勉強嫌いになっていることが多い。もしくは、幼い頃は素直に親の言うことを聞いていたものの、10歳を過ぎて思春期に差しかかる時期になると、反発心を見せるようになり、親の口が開けば、「ちっ、また勉強の話か」と不機嫌になる子もいる。このような状態になると、成績が伸びないばかりか、親子関係もギクシャクしてしまう。そして、中学受験が戦場化する。
■小3までは学校のテストで95点取れればOK
中学受験で成績を伸ばしていきたいと願うのなら、子供を勉強嫌いにしないことに尽きる。近年、首都圏では中学受験率が高まり、激戦を勝ち抜くために、小学1年生から進学塾に通う子が多い。しかし、中学受験の勉強が小学4年生からスタートしているのには、それなりの理由がある。学習内容が「具体」から「抽象」へと変わり、論理的な思考力が必要になるため、それが理解できるようになる成長発達を無視できないからだ。
だから、早く受験勉強に取りかかればいいというものではない。むしろ、いき過ぎた早期教育は、間違った勉強のやり方を身につけてしまうリスクが高い。それはすなわち、子供を勉強嫌いにしてしまうことへとつながっていく。
小学3年生までは、学校の勉強が完璧に理解できていれば十分だ。
「完璧に」というのは、毎回のカラーテストで95点以上とれていれば問題ない。それよりも大事なのは、学校の宿題をやること。特に算数の計算問題と漢字は毎日コツコツ取り組むことだ。できれば、1日の中で「宿題は夕飯前に必ずやる」など時間を決めておくといいだろう。そして、毎日の学習習慣を身につけさせる。低学年のうちはこれさえできていれば、何の心配もない。
■「身体を動かす遊び」と「家のお手伝い」
それ以外の時間は、遊んでいればいい。ただし、ゲームやYouTubeはすすめない。認めるのであれば、時間を決めておくなどのルールが必要だろう。それよりも、自然のある場所や公園などで身体を動かす遊びをさせてほしい。または、買い物でも料理でも掃除でもいいから、家のお手伝いをたくさんさせてほしい。
中学受験の入試問題には、ブランコを題材にした振り子の問題や砂場を題材にした磁石の問題、ものの溶ける性質の問題、農産物の産地を聞く問題など、遊びや料理や買い物といった、子供たちの生活に関わるものが出題される。

そう言うと、「振り子問題が解けるようになるためにブランコをやらせなきゃ!」と突っ走ってしまう親がいるが、それが「勉強につながる」とあからさまに言動に出てしまうと、たいてい失敗する。幼い頃から理系脳を育てたいと、博物館や理科実験教室などいろいろな場所に連れて行ったり、体験させたりしたのに、子供の理科の成績がまったく伸びないといったケースは本当に多く、それと同じ結果になる。
■経験を「勉強と思わせない」
確かに「経験」は大事だが、意図された経験は、「やらされ感」だけが募り、自らの経験にはならない。幼少期の身体的な経験が非常に大事であることは、いろいろなところで言われているので、まじめな親ほどわが子にたくさんの経験をさせている。しかし、それは幼少期からの勉強の詰め込みとなんら変わりがない。わが子のためによかれと思ってやらせていることが、かえって弊害になってしまっていることをぜひ知ってほしい。
ポイントは、「勉強と思わせない」ことだ。子供が夢中で遊んでいたら、ただそれを見守ってあげればいい。料理の手伝いをさせるなら、「あれ~、なんでお肉は加熱すると固くなるんだろうね~」、スーパーへ買い物に連れて行くなら「へぇ~、リンゴは青森産や長野産が多いと思っていたけど、意外と福島産も多いんだね~」など、ブツブツひとり言をつぶやくように口にするだけでいい。「テストに出るから覚えなさい」というオーラを出した瞬間、子供は嫌がるので気をつけよう。
■「10の補数」と「てにをは」は重要
また、近ごろは現金を持たず、なんでもキャッシュレス払いをしてしまう親は少なくないが、子供と一緒のときはできるだけ現金で買い物をしてほしい。そして、たまに子供に支払いの経験をさせてみる。
すると、10の補数の感覚が身につく。特に小学1、2年でこの感覚をしっかり身に付けさせておくことが大事だ。どんな子供でも勉強のやり方を変えれば成績が伸びていくが、計算が苦手で算数の成績が伸びていく子はまずいないからだ。
また、言葉についても、丁寧に向き合ってほしい。昨今の中学入試はどの教科においても、問題文が非常に長くなっている。算数自体は得意なのに、問題文を読み間違えて得点を落としてしまう子は、毎年必ずいる。特に「てにをは」の理解が曖昧なために、悔しい失点をしてしまうことが多い。言葉は家庭で育んでいくものだ。家庭での会話を通じて、正しい日本語を身につけさせることは、親の責任でもある。
■低学年からの塾通いは必要ない
中学受験をするのであれば、4年生になってから塾に通うのがいいだろう。まわりの子が低学年からすでに塾通いをしていても焦る必要はない。初めは塾の勉強に慣れず、散々な成績をとってくるかもしれないが、幼少期にしっかり育んできた自らの体験と、確かな基礎学力(言葉と計算)は、後から必ず生きてくる。

むしろ、心配なのは幼少期から塾や習い事などの詰め込みスケジュールをこなしてきた子供たちだ。そういう子たちは4年生の時点では、高い成績をとりやすい。しかし、その成功体験が、その後、足を引っ張ることになる。
昨今の中学入試で求められているのは、膨大な知識でも素早く解く処理能力でもない。知識そのものよりも「なぜそうなのか?」といった原因や因果関係の理解が欠かせない。そのためには、日々の受験勉強も、「なぜそうなのか?」「こういう条件だったら、どうなるのか?」「あと何が分かれば、解けそうか」など、自分自身で自問自答しながら進めていく必要がある。つまり、どれだけ「納得感」を持って学べるかがカギを握るのだ。
■4年生は今が「勉強のやり方」を変えるチャンス
低学年までたっぷり遊んできた子は、このような勉強のやり方を意識しながら進めていけば、自分のこれまでの経験と新しく習う内容がピタリとはまったときに、「あ、これってあのときのブランコの感覚のことだな」「そういうことか!」と、多くの驚きや感動を得られるだろう。そういう子にとっては、中学受験の勉強は楽しく感じるはずだ。すでに多くの知識がある大人と違って小学生の子供は、新しいことを学ぶときに、自分の身体感覚と照らし合わせながら理解を深めていく。つまり、あの「感覚」がとても大事なのだ。
一方、これまですでに詰め込み学習をしてきてしまった子は、中学受験はこれまでの勉強のやり方を変えるチャンスでもある。
気をつけなければいけないのが、4年生のうちは詰め込み学習でも突破できてしまう。しかし、そのやり方をいつまでも続けていると、勉強量と学習の質が大きく変わる5年生の段階で必ず壁にぶつかる。であれば、受験勉強が始まって半年のこのタイミングで勉強のやり方を変えることだ。
■5、6年生でも挽回の可能性はある
5、6年生ですでに壁にぶつかってしまっている場合でも、嘆くことはない。入試本番まではまだ半年以上ある。今からでも遅くない。とにかく今すぐに「ただ覚える」「ただ量をこなす」といった勉強をやめ、「なぜそうなのか?」納得感を得ながら勉強をしてほしい。納得感が得られたかどうかは、「自分の言葉で説明できるか」で判断することができる。「何かを与える」のではなく、「どのように勉強をしていくか」に意識を向ける。ぜひ、この部分で親が関わってあげてほしい。
中学受験を有意義なものにするかどうかは、すべて勉強のやり方次第だ。どんなにたくさん勉強をしても、学習の質を変えていかない限り、成績は伸びない。逆に勉強のやり方さえ変えれば、どんな子も伸びていく。よく受験界では「逆転合格」といった魔法の言葉が使われるが、「逆転」できたのはたくさん勉強をしたからでも、子供の地頭が良かったからでもない。「正しい勉強のやり方」を身につけた結果なのだ。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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