※本稿は、谷本真由美『世界から見た日本の保守』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■廃墟となった元ネスレの高層ビル
クロイドンの街の中心は、都市政策にも大失敗しており、イギリスで時々、典型例として取り上げられるほどです。
地方税は高額なのに自治体は過去に破綻しており、裕福な住民も多く住むはずなのに、市は行政に失敗しています。犯罪を防いだり、特定の人種が固まった地域を作らないような街作りも行われていません。
そして、この街作りの失敗にも移民問題が大きく関係しています。
クロイドンには1960年代に建てられたコンクリート造りの無骨なビルが多数立っていますが、その中でももっとも高いビルである元ネスレのビルが有名です。このビルはネスレ社が移転したため、2017年に中国の不動産開発会社であるR&F Propertiesが取得しました。
2000年以降、イギリスでは中国資本によるオフィスビルや住宅の買い占めが盛んになりました。イギリスの不動産価格は、ロンドンや都市部の場合、2000年からの20年間で倍近くにも値上がりした物件が多く、不動産投資ブームの真っただ中でした。資産の多くを不動産に替える人も多く、2010年頃までに不動産を入手した人たちの資産はどんどん増えていきました。
■外国人に買い漁られ、そのまま放置
イギリスは、日本と同じく外国人が土地や不動産を自由に売り買いでき、所有にも制限がないため、政治的に不安定だったり土地を所有できない独裁国や途上国から莫大な資金が流れてきました。
中国や香港、シンガポール、台湾、ロシア、中央アジア、アフリカ、南米など全世界から資金が集まってきたのです。今の日本でも外国人による不動産取得が大問題ですが、それよりはるかに大規模な外国人による買い占めが20年以上前から存在したのです。
このような流れの中で中国資本に買収されたネスレのビルとその周辺地域は、行政的には再開発の対象になっていました。ですが、2019年頃から工事が始まったものの、2020年に工事が停止し、中国における不動産バブルの崩壊とともにビルの開発が中止となり、そのまま放置されているのです。
■ホームレス、移民、難民の溜まり場に
ビルの周りは足場が残されたままで穴だらけの廃墟同然になっており、その地下は路上生活者が排泄する場所であり、麻薬取引も行われる無法地帯として有名になってしまっているのです。昼間に訪問してみましたが、ビルは落書きだらけで、放置された建築現場にはゴミが山積み、不法侵入したホームレスの住居となって排泄物の臭いが蔓延していました。
しかし、驚くべきことに、この物件の所有権は中国の会社にあるので、地元の自治体も中央政府も手出しができないというのです。ロンドンではオフィス物件も住宅も不足しているというのに、このように中国系資本が不動産を買い漁って放置してしまうのです。
ネスレビルのように、荒れた地域には貧しい移民や難民、犯罪者が集まり、街の景観は破壊され、豊かな人々は引っ越していきます。自治体が都市計画を頑張っても、こうした荒れたビルがあると、いくら対症療法をしても効果がありません。
■「ディストピア」としては完璧な場所
ネスレビルの前には、フェアフィールドホールズという公民館があり、かつてはデヴィッド・ボウイやレッド・ツェッペリンが演奏していた有名な場所です。治安が良ければ観光向け音楽フェスや様々なイベントが可能なはずです。
今や1960年代の華やかな名残はなく、地元の人たちはなるべく避ける地域になっています。そのあまりに酷い荒れ方に、ハリウッドが「犯罪現場」や「SFに登場するディストピア」の映画撮影に使う有り様です。セットを組む必要がないからです。
多様性と近代化、ポストモダン、ユートピア思想により豊かになろうとした結果、その予想がすべて逆になってしまった今のイギリスを象徴しているようです。
このように荒れ果てているクロイドンでは、難民と当局、逆に難民に反対する地元民と当局、もしくは外国人同士の衝突が頻繁に起きており、今のイギリスの空気を代表するような地域になっています。
■「自称難民」は20~30代男性ばかり
イギリスでは、難民や移民の問題が有権者の間でもっとも重要な関心事項になっています。2026年初頭には、欧州大陸からボートでイギリスに入国する自称難民が1日に1000人近くに達していたのです。そうした社会情勢もあり、新興の保守政党であるリフォームUKがイギリスの第一党になる勢いで支持者を増やしており、地方選挙でも圧勝状態です。
「自称難民」は、そのほとんどが20代から30代の男性で、なぜか女性や子供、高齢者はまったくおらず、ブローカーが用意したお揃いの救命胴衣とボートでフランスから海を渡ってイギリスに入国してきます。
EU加盟国はダブリン規制という多国間協定を結んでおり、難民は上陸した最初の国で難民申請をすることになっているのですが、イギリスにやってくる「自称難民」は上陸したはずのギリシャやイタリア、フランスでは難民申請せずに、陸路でフランス北部の沿岸部にわたり、そこからボートでイギリスに上陸するのです。
EU加盟国が彼らの移動を無視し、イギリスで難民申請するように仕向けているため、イギリス政府も有権者も激怒しています。
そのあまりの数の多さに、イギリスでは大変な騒ぎになっているのですが、難民問題を他の地域よりもいち早く体験したのがクロイドンなのです。
■子供のコンビニ入店は「3人まで」
2017年には、クルド系の17歳の難民であるレカー・アーメド氏がクロイドンのシュラーブランズで地元の若者に殴打されて入院する羽目になりました。
シュラーブランズは1950年代から60年代に開発された公営住宅のある地域ですが、ここは実際に訪問してみると緑が多く、近くにゴルフコースや公園があって、一見するとイギリスの典型的な郊外のように見えます。
このような公営住宅は、主要駅からはバスで20分から30分ほど離れており、近くに路面電車はあるもののかなり不便な地域にあります。実際、このような公営住宅に行ってみるとかなり寂れた雰囲気が漂っており、昼間に行っても若干危険な感じがします。
くたびれたコンビニやガソリンスタンドぐらいしかなく、コンビニは一度に3人以上の子供が入ることができません。これは治安が悪いので万引きを防止するためです。店の前に手書きの張り紙があるので、どこの店が危ないのかが一目瞭然です。
■小型犬より自分を守ってくれる大型犬が人気
こうした地域には、常に警官が巡回しており、パトカーのサイレンが鳴り響きます。コンビニやスーパーには、コーヒーやちょっとした買い物をする「ふり」をした警官が入り浸っています。これは警戒のためで、サボっているわけではないのです。
地元の人々のほとんどは、上下がくたびれたスウェットで、虚ろな目の人も少なくありません。
こうした地域では、愛玩用の小型犬は少数派です。ペットとは、自分の身を守るための大型化したピットブルのことを言います。そうした犬は、たまに子供や老人を噛み殺してしまうので事件になります。部外者はお呼びでないという雰囲気です。
■超厳重警備の入国管理局に長い列
クロイドンは、実はイギリスにおける難民の入口のような町なのです。というのも、ここにイギリスの入国管理局が存在しているので、イギリスに住んでいる日本人のほとんどは、ビザの更新や永住権の申請などでクロイドンに来ることになります。
入国管理局はクロイドンの駅からすぐの所にあり、私立高校の女子高生がナタで惨殺されたバス停の向かい側にありました。現在は少し離れた場所に移転していますが、以前は1960年代に建てられたビルの中に入っていて、外はゴミだらけで殺伐としていました。
入口には屈強な警備員が立っていて、空港並みの金属探知機やセキュリティを通過しなければ中に入ることができません。つまり、それだけ危ないということです。爆弾テロや化学薬品、ナタ、斧による攻撃を想定した作りになっているのです。
イギリスにやってくる難民たちは入国管理局で審査を受けるので、別の自治体にある収容センターなどが空いていない場合は、クロイドン周辺の借り上げ住宅に住むことになります。民間の大家からアパートや長屋、一軒家などを国が借りて提供することになっているのです。
■難民申請者の家賃30万円はだれが払う?
ここ数年はボートで押し寄せる難民があまりにも多いために、クロイドンやロンドン周辺の住宅だけでは足りず、イギリス北部やリゾート地にあるホテル、ヒースロー空港のトランジット用のホテルまで外務省が借り上げている有り様です。
ヒースロー空港を朝早く発つ人々が使うホテルは、現在は難民によって使用されているので、2025年の夏には旅行やビジネスで来る人が予約できない状況になっていました。私も7月に朝早いフライトがあったので予約を試みようとしたのですが、以前使っていたホテルが難民収容に使われているため予約できませんでした。
このように殺伐とした地域のクロイドンであっても、2LDKのアパートの家賃は月30万円を超えます。ホテルの場合は円が弱いこともあって、中級ホテルで一泊2~3万円。難民申請者はそこに最短で半年、審査に時間がかかると1年以上滞在することになるので、その費用は莫大になってしまいます。
■納税しているイギリス国民の不満が爆発
そして、難民たちは食費も国立病院で受ける治療費もすべて無料です。しかし、一般の納税者は収入に応じたかなり高額な国民健康保険料を支払い、国立病院で簡単な検査を受けるのにも半年待つのが珍しくありません。あまりにも時間がかかるので、中流以上の人たちは民間の保険に入り、私立の病院で治療や検査を受けるのが当たり前になっています。
このような状況下で、2024年8月にはクロイドンで50人以上の若者が反移民デモに参加し、公共物を破壊、ものを投げるなどの騒ぎになり、武装した警官が対応しています。
〈参考〉「MyLondon:Croydon 'riots' see counter-protesting mob throw fireworks and bottles at police」
これは今に始まったことではなく、クロイドンでは以前から極右と地元の移民や難民の送還に反対する人々が衝突を繰り返しているのです。2024年5月には、100人以上のアフガニスタン人の難民がルワンダへの移送に反対し、入国管理局前で抗議活動を行っています。
〈参考〉「「Inside Croydon:More than 100 Afghans in Croydon protest against deportations」
このようなクロイドンの風景は、日本の都市近郊の近しい未来です。
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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞、漫画、料理。著書に『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)、『日本人の働き方の9割がヤバい件について』(PHP研究所)、『世界のニュースを日本人は何も知らない』(ワニブックスPLUS新書)、『激安ニッポン』(マガジンハウス新書)など多数。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)

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