■コンパクトなのに高機能を備えた家電
核家族が「標準」世帯だった時代は去り、今や最も多い世帯人数は1人暮らし。少子化も進んで2人暮らしも多い。そうしたライフスタイルの多様化に合わせ、最近になって少人数世帯向けに高機能だがコンパクトな家電が次々登場している。
2025年8月、少人数世帯向けのシンプル家電を一つのカテゴリーとして打ち出し始めたのがパナソニック。対象商品の電子レンジは、2025年9月の発売から2026年3月末の見通しで計画比約1.7倍、ななめドラム洗濯乾燥機が、2025年11月の発売から2026年1月までで計画比約1.3倍、と好調に推移しているという。
量販店では、シンプル家電を集めた展示をする店や、「都心部を中心にこうした家電をお求めのお客様が多い」といった声が届いている店がある。パナソニックのSNSにも「このサイズなら、狭いわが家にも置けそう」「以前から気になっていました」といったコメントがつく。手応えは大きいようだ。
なぜパナソニックは、今のタイミングで少人数世帯向けの高機能な家電を売り出したのだろうか。また、それらの家電には、どんな可能性があるのだろうか。
コンパクトな家電は狭い家にも置きやすいが、サイズが小さくなる分、最上位の機種に搭載する機能すべてを入れることは難しい。パナソニックは、少人数世帯のライフスタイルに合わせて機能を絞り込んでいる。
■小さなドラム式洗濯乾燥機
ドラム式洗濯乾燥機(SDシリーズ)の最大の魅力は、タテ型洗濯機用の洗濯パンに納まるサイズにしたこと。「1人暮らしや2人暮らしでドラム式が欲しいという方は多いのですが、場所の制約が大きい。いざ納入、という段階で洗濯パンに入らないと判明する、という例も少なくないんです」とパナソニック商品横断企画部の岡橋藍担当部長は話す。
同社デザインセンター エキスパートリサーチャーの船引伸恵さんは、「デザイナー自身が自宅で納まりを検証したと聞いています。ドラム式洗濯乾燥機は前面に窓があります。製品としての美しさだけでなく、狭小住宅でも洗濯機の窓と壁に身体が挟まることなく快適に使えるかなど、顧客視点で細かいサイズ調整も行っています」と説明する。岡橋さんが「担当チームは、都心部の部屋の間取りも調べました」と補足する。
給排水が必要な洗濯機は、設置場所を選べない。タテ型洗濯機を想定した洗濯パンが設置された住宅では、一般的なドラム式洗濯乾燥機は大き過ぎて置くことができない。
それだけに、3人以上の家庭だが洗濯パンの制約からドラム式をあきらめてきた人たちにとっても、SDシリーズの登場は朗報と言える。パナソニックのドラム式洗濯乾燥機はこれまで、洗濯・脱水容量が12キロまたは11キロで乾燥容量が6キロの最上機種(LXシリーズ)だけだった。SDシリーズはそれぞれ10キロと5キロ。家族の人数が多くても、洗濯の頻度や回数を若干増やせば対応できそうだ。
しかも、価格は大手量販店でLXシリーズが約28万円のところ、SDシリーズは約19万円と9万円も安い。価格面でもハードルが高かったドラム式洗濯乾燥機に手が届く、という人はいるのではないだろうか。
一方、LXシリーズにはあるがSDシリーズにないのは、上部に配置し効率的に省エネ乾燥できる大風量のヒートポンプ。とはいえ、室温より約15度高い低温風を送るヒーターをトップに設置しているので、LXシリーズほどではないが省エネで乾燥時間も短め。シャツはシワになりにくくタオル類はふんわり仕上がる。
■冷凍と冷蔵を同時に温められる電子レンジ
電子レンジの場合、少人数世帯が最も使うのは温め機能。
ホームベーカリーは、2人で食べ切れることを想定した業界最小サイズの0.6斤分を開発。幅、奥行、高さのいずれも1斤分より一回り小さく、幅は18.8cmしかない。1斤分のビストロSD-MDX4の場合、幅は26.3cmと約1.4倍だ。
冷蔵庫には、マイナス3度の微凍結「パーシャル」か、約0度のチルドか選べる「パーシャル/チルド切替室」を設置。パーシャルの場合、薄切り肉をはがせる状態で約14日間保存できる。幅も奥行きも60cmなので、狭めのキッチンでも納めやすい。ただし3ドアで容積は326Lだけ。5ドア冷蔵庫は400~500L台が一般的なのに比べると、かなりコンパクトだ。
また、日本電気工業会自主基準で2人分の食器12点が入る、置き型の食器洗い乾燥機も用意した。
世帯の多様化は平成以降続いてきた傾向だが、なぜパナソニックが少人数世帯向けの商品を投入するのが今だったのだろう。
船引さんは、「以前は2人世帯の価値観やライフスタイルもファミリー世帯に近かったのですが、コロナ禍以降、単身世帯に近い方が増えてきたと感じています。また、限られた空間において自分にとって心地よいものを選び、暮らしに余白を作りたいといった意識も以前より強まっています」と説明する。潜在需要が顕在化したのが、コロナ禍明け頃だったと言える。
事業部ごとの生産体制を取ってきた同社が、各事業部が開発した商品を一括してライフスタイルを提案する背景には、事業部間の連携を強化する環境の変化がありそうだ。
2023年10月、家電関連部門が集結するパナソニック目黒ビルがオープン。商品企画やマーケティング、一部の開発部門が集まるビル内には、リラックスできるソファやルームランナー、人工芝を敷いた部屋があり、気さくに情報交換できる環境を整えた。「例えば、冷蔵庫と洗濯機のマーケティング部門が隣り合っていて、すぐに会話できます。同じビルに集約したことで、以前より連携しやすくなりました」と岡橋さん。
■新たな家電のジャンルが生まれた
インターネットなどによる遠隔のコミュニケーションが発達した時代ではあるが、コロナ禍を経て、改めて対面による濃密さや意思疎通の速さを実感した人も多いだろう。生身の対話が、ビジネスの新たな可能性を開くのだ。
日本で少子化が始まったのは1975年で、晩婚化もその頃から、と実は半世紀前から、ライフスタイルの多様化は始まっていた。というより、4人の核家族が多数派を占めた昭和半ばが特殊な時代だったのである。しかし、多様化は徐々に進むので、いつどのように社会が変わったのか同時代に見定めることは容易ではない。
自治体のサービスは、いまだに子育て世帯やシニア世代向けが中心で、シングルや働き盛りの2人世帯への注目は少ない。地方でも、核家族や拡大家族を前提とする社会構造が根強く残る。
「昭和からの脱却」は掛け声だけになりがちな社会で、生活を支える大手家電メーカーが少人数家庭向けの高機能商品を売り出した意味は大きい。もちろんそこには、高所得寄りの層を取りこぼしてきたという発見もあるのだろう。
しかし、主婦が1日中「コマネズミのよう」に働く前提だった昭和半ばに、家事をラクにする家電が広まって女性の社会進出を後押ししたように、コンパクトなのに高性能な家電のジャンルが生まれることで、「子どもがいない」「パートナーがいない」引け目を感じなくて済む時代になれば喜ばしい。まず何より、多忙な働き盛りが、小さな家でも場所を塞がず家事をラクにする家電を使って、暮らしの余白を楽しめるようになった意味は大きい。
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阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。
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(生活史研究家 阿古 真理)

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