業務ミスの芽を早く摘むにはどうしたらいいか。スターバックスコーヒージャパンでCEOを務めた実業家の岩田松雄氏は「上司が部下から真っ先に聞きたい言葉は『大丈夫です』ではない。
もっと重要な情報だ」という――。
※本稿は、岩田松雄『新版「君にまかせたい」と言われる人になる51の考え方』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■報連相でリーダーが真っ先に知りたいこと
リーダーとして報・連・相の意味をよくわかっているな、と思うメンバーは、結論から先に言ってくれます。これは口頭の場合だけではなく、報告書でも同じです。
リーダーとして、結論を先に聞けば、その後も安心して報告を受けることができます。どうアクションをすればいいのか。謝罪に行くべきなのか。1本、電話を入れるべきなのか。報告を受けるだけでいいのか。こういったことをすぐに考えはじめられるからです。場合によっては詳しい説明は必要ないかもしれません。
例えば、部下からメールで「岩田さん、夕方お時間ください」と言われたとき、私はイライラすることがあります。
報・連・相のいずれだったにしても、まずは良い話なのか、悪い話なのかがわからないからです。ですから「品質不具合発生の件」とか「今期予算達成の件」といったメールのタイトルにすべきです。
リーダーにだって、心の準備というものがあります。「良い話」であれば、お茶でも飲みながらゆっくり、ということになりますが、「悪い話」であれば全身を耳にして、身を乗り出して聞かなければなりません。場合によっては予定を変えてでも、早く報告を受けたいと思うかもしれません。
だとすれば、最初にそれをはっきりさせるべきです。それこそ、良い話はいつでもいいけれど、悪い話は今すぐにでも教えてほしい、というのがリーダーの本音です。悪い話ほど、早く聞きたいのです。なぜなら、早く手を打たなければいけないからです。
ところが、メンバーのほうは悪い話はできるだけ先延ばしにしたい。結果的に、悪い話が後回しにされてしまうことが多くあります。これは、リーダーにしてみると、最悪な事態です。
悪い報告が後回しになると、対応策を考える時間が十分に確保できなくなるからです。
■状況説明を部下にさせてはいけない
あるとき私は報・連・相で、部下の役員をしかったことがあります。ある稟議書(りんぎしょ)に気になる点があって、担当役員に連絡を取ると、担当者から説明させます、と言って来たのです。実際、若い担当者だけが説明にやってきました。
しかし、私が説明を求めたのは、この若い担当者の上長である役員。なのに、どうして若い担当者だけをよこしたのか。私はしかりました。
この役員はそれまでにも何度も同じことをしていました。受けた指示を単にそのまま部下に伝えているだけでした。責任を引き受けず、どこか逃げている感じがしたのです。内容に関しても、社長である私が持った疑問は、当然役員も持たないといけません。
■リーダーには「間に入る人」の責任がある
私が仕事をお願いしたのは、この若い担当者ではなく役員だったわけです。
にもかかわらず、本人が来ないのは、どういうわけだ、説明責任を果たしていないと。
担当者に話をさせたほうが早いから、と役員は言っていましたが、それでは組織の意味がありません。組織は、それぞれの役割や責任分担があって成立しています。
時間がかかるようでも、組織ではそれぞれの意思命令系統に沿って話をしなければなりません。間を飛ばしてしまっては、組織が成り立たなくなってしまいます。面倒でも言われた役員が担当者に話を聞き、自分で理解をして、私に報告をすべきだったのです。もしくは、部下を伴って報告に来る、という方法でも十分です。
実際に説明するのは担当者でかまいません。しかし、逃げてはいけません。
間に入る人には、間に入る人の責任があるのです。そうでなければ、この役員のような上から下に伝えるだけの「電話線」は、存在意義がまったくないのです。
もとより、経営トップになれば、もう逃げ場はどこにもありません。
どんな問題も、真正面から自分で向き合うしかない。丸投げして部下に説明をさせるようなことをしていたら、とても経営トップの仕事など務まりません。何のために役員をしているのか、経営トップから見れば、まったく価値のない存在です。
自分が咀嚼(そしゃく)し、理解し、すべての責任を負う。そのくらいの意識がなければ、上のポジションは務まらないのです。
■リーダーが対応を誤らないために
リーダーにとって、報・連・相を受けて一番大切になるのが、「ネクストステップ」。つまりどう対応するべきか、ということです。ところが、これを間違えてしまうリーダーが多くいます。
経営トップが問題を過小評価し、対応を間違えて、社会から激しいバッシングを受け、企業が存亡の危機に立たされてしまったことが何度もありました。最初から経営トップが前面に立ってきちんと対応をしていれば済んだのに、それをしなかったためにトップが辞任に追い込まれてしまうこともあります。
逆に、それほど大きな問題とは思えなくても、ジャパネットたかたのようにトップが出てきて思い切った決断をしたことで、不祥事がむしろ企業イメージをアップさせた例もあります。
問題が起きたときの対応策は、とても難しいものなのです。
ましてや、大きな問題にもかかわらず、勝手にメンバーが対応策について判断をしてしまったら、取り返しがつかないことになります。
そこで、とりわけ悪い話のときに、メンバーに気をつけてほしいと伝えていたのが、「事実」と「判断」を分けてもらうことでした。
■「大丈夫です」は自分の判断に過ぎない
リーダーが知りたいのは、まずは「事実」なのです。こんな品質クレームがあって、お客様が怒っている。今期の数字の見込みは○○○億円で、目標との乖離(かいり)は××億円……。
にもかかわらず、自分の勝手な「判断」だけを言うメンバーが少なくありません。「とりあえず、なだめましたから大丈夫だと思います」「数字は頑張れば達成できる見込みです」などと。
人は、自分に責任がある問題を伝えるときには、できるだけ問題を小さくしたいものです。それは、仕方のないことです。だから、「いや、大丈夫です」ということに落ち着けたい。
しかし、「大丈夫です」というのは、メンバー個人の判断です。リーダーがまず聞きたいのは、メンバーの判断ではありません。

まず「事実」から、しっかり報告をしてほしいのです。
なぜお客様は怒っているのか。どのくらい怒っているのか。それによって、どうするかは、リーダーが判断する。メンバーの判断を聞いたとしても、最終的にはリーダーが判断すべきです。「とても大切なお客様だから、責任者の私が謝りに行く」という判断もできる。だからこそ、正確な「事実」が重要なのです。
■悪い報告に「ありがとう」と言うトヨタG
正確な「事実」を把握するためには、実はリーダーも心得なければいけないことがあります。それは、怒ってはいけないということです。「お前、何をやっているんだ」と頭ごなしに怒れば、メンバーは萎縮してしまい「事実」を報告しにくくなります。悪い話は上に一切報告しないようなことも起こります。
大切なことは、悪い話であっても、冷静に「事実をテーブルの上に置く」ことです。
カリスマ経営者が社内で怒鳴り散らし、圧力をかけ、部下が仕方なく数字を粉飾して問題になる、というケースが多くあります。これはワンマン経営者が長く君臨した会社によく起こることです。それは、100%トップの責任です。
トヨタグループのある会社では、部下が悪い話を持ってきたら、まず「ありがとう」と上司は言います。報告してくれたことに対するお礼を真っ先に伝える習慣があるそうです。
もちろん、メンバーが手を抜いて起きたことは、しからないといけません。しかし、そうでないなら、仕方がないところもあるのです。
「人を信じてもいいけれど、人のすることは信じてはいけない」。これは、私の尊敬する上司であるFさんから教えていただいた言葉でした。
■悪い話をリーダーにすぐ伝えられるか
人はミスも起こす。気づいていないことだってある。だから、悪いことも起こり得る。問題は、その後にどう対応するか、です。どう再発防止策を講ずるか。
だからこそ、正確な「事実」が必要であり、メンバーが悪い話を伝えやすいカルチャーが大切になります。
実際、製造工程で起きた品質トラブルなどは、会社の屋台骨を揺るがす事態を引き起こすことがあります。すばやく適切な対応をしないといけない。リーダーは、リスクを大きめに見積もって、最悪の事態も想定して判断する必要があります。
そしてもし、リーダーが適切な判断をしていないと思えたなら、メンバーは躊躇(ちゅうちょ)なく進言するべきです。多くの場合、リーダーにきちんと事実が伝わっていないために問題が深刻化するからです。

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岩田 松雄(いわた・まつお)

リーダーシップコンサルティング代表

リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。元立教大学特任教授。元早稲田大学非常勤講師。実践女子大学客員教授。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。セールスから財務に至るまで幅広く経験し、UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系戦略コンサルティング会社、コカ・コーラビバレッジサービス役員を経て、アトラスの代表取締役社長として3期連続赤字企業を再生。さらに、タカラ常務取締役を経て「THE BODY SHOP」を運営するイオンフォレストの代表取締役社長に就任し、売り上げを約2倍に拡大させる。2009年、スターバックス コーヒー ジャパンのCEOに就任し、次々に改革を断行して業績を向上。UCLAビジネススクールよりAlumni 100 Points of Impactに選出される。2011年、リーダー育成のためのリーダーシップコンサルティングを設立し、現在に至る。早稲田大学より2022年度秋学期のティーチングアワードを受賞した。

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(リーダーシップコンサルティング代表 岩田 松雄)
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