感謝を伝えるとき大切なことは何か。『いい人はうまくいく』(すばる舎)を出したプロデューサーの長倉顕太さんは「感謝にも質がある。
ただ『ありがとう』を連呼しても、解像度が低ければ相手に届かない」という――。
■超一流が使っている「陰褒め」のチカラ
人を褒めることは、最高の贈与だ。
しかし、面と向かって褒めるのは少し照れくさいし、場合によっては「お世辞じゃないか」「何か魂胆があるんじゃないか」と疑われることもある。
そこで使えるのが、「ウィンザー効果」を利用した「陰褒(かげぼ)め」だ。ウィンザー効果とは、「第三者から伝え聞いた情報は、信憑性(しんぴょうせい)が増す」という心理効果のこと。
私があなたに直接「君は天才だね」と言うよりも、あなたの友人が「あの人が『あなたは天才だ』って言ってたよ」と伝えてくれたほうが、より強く信じるはず。
直接の言葉には利害関係が含まれてしまうが、第三者経由の言葉には「客観的な事実」というニュアンスが付加されるからだ。
褒めたい相手であるAさんがいる場合、Aさん本人ではなく、Aさんと仲の良いBさんや、Aさんの上司であるCさんの前で、Aさんを褒めちぎる。
「Aさんの企画書、本当に素晴らしかったですよ」

「Aさんのおかげで、プロジェクトが成功しました」
こうして放たれた賞賛の矢は、いずれ回り回ってAさんの耳に届く。しかも、噂話として増幅され、客観的な評価という箔がついて届く。
本人のいないところで悪口を言う人は最低だが、本人のいないところで褒める人は最高なのだ。直接褒めるのは一流、陰で褒めるのは超一流だ。

褒め言葉は、第三者に伝えてもらう

■相手の心を震わせる質の高い感謝とは
さらに上級編として効果的なのは、解像度を上げること。
「ありがとう」と言うことは大切だが、ただロボットのように「ありがとう」を連呼していればいいわけではない。感謝にも「質」がある。
多くの人の感謝は、解像度が低すぎる。
「昨日はありがとうございました」

「いろいろとお世話になりました」
これでは、何に対して感謝しているのか伝わらない。「とりあえず言っておけばいいだろうと思っているな」と思われてしまうかもしれない。
相手の心を震わせる感謝とは、「超・具体的」な感謝。「ありがとう」の後に、必ず「理由」を添えるべきだ。
×「資料作成、ありがとう」

○「この前の資料、特に3ページのグラフの見せ方がわかりやすくて助かったよ。

忙しい中、あそこまで丁寧につくり込んでくれてありがとう」
×「昨日の食事会、ありがとうございました」

○「昨日はご馳走様でした。特に○○さんが話してくれた、あの失敗談には勇気をもらいました。お店のチョイスも最高で、久しぶりにリラックスできました」

後者のほうが、「あ、この人はちゃんと私の仕事を見てくれている」「私の話を聞いてくれている」と感じるはずだ。

■解像度の高い「ありがとう」の3要素
感謝の解像度を上げるコツは、「固有名詞」と「数字」と「感情」を入れること。
「3ページのグラフ(固有名詞・数字)」

「勇気をもらいました(感情)」
具体的に言及されると、人は「自分のこだわりや努力が報われた」と感じる。
部下を褒めるのがうまい上司ほど、褒め言葉の中に「具体性」がある。
「君のメールは、いつも簡潔でわかりやすい。特に、件名の付け方がうまい。何が書いてあるか、一目でわかる」

「君の報告書は、結論が最初に書いてあるから読みやすい。忙しいときでも、すぐに内容を把握できる」
こうした具体的な褒め言葉が、部下のモチベーションを高める。そして、それを意識するためには、部下をよく見ていなければならない。部下に興味を持たなければいけない。
それが、結果的に良い関係を生むからだ。解像度の高い感謝は、相手の記憶に刻まれる。
「この人だけは、私の本当の価値をわかってくれている」、そう思ってもらえれば、その人はあなたの最強の味方になってくれる。
部下だけではなく、みなそうなのだ。
具体的に感謝を伝えると、人は「自分が報われた」と感じる

■相手に感動をもたらす“褒め”ポイント
また、結果以外を褒めることも大切だ。多くの人は、「結果」を褒める。
「契約取れてすごいね」

「売り上げ達成おめでとう」
もちろん、これもうれしいだろう。しかし、結果は誰の目にも明らかで、他の人も褒めているはずだ。それに、結果は出ないときもある。
だからこそ、プロセスを褒めよう。
「契約おめでとう。でも私は、君が先月から足繁く先方に通って、関係性をつくっていたのを知っているよ。その泥臭い努力が実ったんだね」

「このレポート、すごく読みやすい。でも私が感心したのは、ここの図表をつくるのに、時間をかけたことがわかること。この丁寧さが、君の強みだよ」
結果が出るまでには、必ずそこに至るまでの苦労、葛藤、工夫、準備といった「水面下のプロセス」がある。

本人は、実は結果そのものよりも、このプロセスのほうを認めてほしいと思っていることが多い。
「誰も気づいてくれないと思っていた、あの苦労を、この人は見てくれていた!」
この感動は強烈だ。プロセスを褒められると、人は「理解された」と感じる。
ある料理研究家の方が、次のようなことを言っていた。
「結果は氷山の一角。海面下に隠れている巨大なプロセスにダイビングして、そこに光を当てて感謝を伝える。それが、真のリーダーであり、愛のあるギバーだ」
相手を感動させる秘訣は、苦労、葛藤、工夫、準備を褒めること

■相手が期待通りに動いてくれるフレーズ
「君は仕事が早いね」、この一言が本当に相手の仕事を早くする。
これを、心理学では「ラベリング効果」と呼ぶ。人は、自分に貼られたラベルに沿った行動を取るようになる、という現象だ。
たとえば、ある生徒に「君は数学が得意だね」と言い続けると、その生徒は本当に数学が得意になる。なぜなら、「自分は数学が得意だ」というセルフイメージが形成され、そのイメージに沿った行動(数学の勉強を頑張る)を取るようになるからだ。
人を褒めるときは、「結果」だけでなく、「能力」や「性格」を褒めるのも効果的だ。

「今回のプレゼン、良かったよ」【結果を褒める】
よりも、
「君は、プレゼンがうまいね」【能力を褒める】
のほうが、強力だ。
後者は、「あなたにはその能力がある」というラベルを貼ることになる。そして、相手は、そのラベルに応えようとする。
期待されると、人は期待に応えようとする。
相手の潜在能力を信じ、それを引き出すためにラベリング効果を使ってみてほしい。「君は○○がうまいね」「君は○○が得意だね」と積極的に伝えよう。その言葉が、相手の可能性を開花させる。
「○○さんって△△だよね」と伝えると、人は期待に応えようとする

■相手に好感を与える絶妙の「法則」
行動経済学に、「ピーク・エンドの法則」という理論がある。
人は、ある出来事の印象を、「最も感情が動いたとき(ピーク)」と「最後(エンド)」の記憶だけで判断する、というものだ。
つまり、どれだけ途中がグダグダでも、最後さえ良ければ、全体の印象は「良い思い出」として残る。
逆に、どれだけ楽しい時間を過ごしても、最後が最悪だと、すべてが台無しになる。
商談の帰り際、デートの別れ際、飲み会の解散時……。
ここで、最高の感謝と笑顔を相手に見せよう。
多くの人は、用件が終わると気が抜けてしまう。エレベーターが閉まる瞬間、スマホを見たり、真顔に戻ったりしていないだろうか? 相手は見ているのだ。閉まりかけた扉の隙間から、あなたの気が抜けた顔を。
最後まで気を抜いてはいけない。姿が見えなくなるまで、深くお辞儀をする。タクシーが見えなくなるまで、手を振り続ける。「今日は本当に楽しかったです!」と、最後に改めて目を見て伝える。
別れ際に一度振り返って会釈するだけで、その日の評価は覆る。
「なんて礼儀正しい人なんだ」「また会いたいな」、その余韻を残すこと。それが、次の再会への予約チケットになる。
「ピーク・エンドの法則」を使うと、あなたの評価は上がる

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長倉 顕太(ながくら・けんた)

作家、プロデューサー、編集者

1973年、東京生まれ。学習院大学卒業後、職を転々としたあと28歳のときに出版社に転職し、編集者としてベストセラーを連発。編集者として企画・編集した本は10年間で1000万部を超える。独立後は8年間にわたりホノルル、サンフランシスコに拠点を移して活動し、現在は本や著者のプロデュース、教育事業に関わっている。著書には、20万部のベストセラー『移動する人はうまくいく』『本を読む人はうまくいく』(共にすばる舎)、『親は100%間違っている』(光文社)、『豊かな人だけが知っていること』(あさ出版)、『誰にも何にも期待しない』(ソシム)、『人生は28歳までに決まる!』(イースト・プレス)など多数。最新情報は各種SNS(X、Instagram、note、YouTubeなど)で配信中。©写真:Portrait by THE PORTRAITS

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(作家、プロデューサー、編集者 長倉 顕太)
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