高市早苗首相の肝煎りでスタートした「社会保障国民会議」が迷走している。「国民の受益と負担に深く関わる『給付付き税額控除』や『食料品の消費税率ゼロ』を含めた『社会保障と税の一体改革』について、国民の皆様にも見える形で、丁寧かつスピード感をもって検討を進めるため」にというのが設置理由。
2月に行われた衆議院の解散総選挙の際、消費税率の引き下げなどを求める野党に対抗するためか、突如として自民党も公約に「食料品の消費税2年間ゼロ」を掲げた。以来、高市首相も繰り返し、「消費減税は悲願」だとしてきた。
2月26日に開かれた国民会議の初会合では、高市首相は、「物価高に苦しむ中低所得者の負担を緩和したい」「スピード感をもってやっていきたい」と語っていた。首相が悲願だとまで言う政策だから、国民会議では、すんなり食料品の消費税ゼロが決まるのかと思いきや、それ以来、5月上旬に至るまで国民会議は開かれていない。国民会議の下に置かれた「給付付き税額控除等に関する実務者会議」と「有識者会議」は開かれているが、消費減税については議論が迷走し結論が見えてこない。
■「食料品の消費税1%案」の浮上
そんな中、政府内で食料品の消費税1%案が浮上していると報じられた。理由は、レジのシステム改修で、税率を0%にする場合は「1年程度かかる」が、1%ならば「5~6カ月でできる」という意見がレジメーカーから出たからだという。レジ会社のシステムは課税を前提に設計され、課税しないという選択ができないようになっているため、0%にするとなるとシステム改修が必要になる、というのだ。
通常使われている会計システムなどは消費税の「非課税取引」なども入力できるようになっており、すべてのレジ会社のシステムが0%に適応できないとは信じられないが、そういうレジシステムもあるということなのだろう。
消費税率引き下げの話になると、レジの改修に時間がかかるという意見が政府周辺から出てくるが、半年にせよ1年にせよ、決めてしまえばシステム改修を行うので、さっさと決断することこそ重要だと思われるが、どうも反対のための反対をする材料になっている感じだ。
■消費者まで「消費税減税」に反対
最近、テレビのワイドショーなどでは「消費減税反対」を公言する識者が数多く登場するようになった。
こうした報道が、政府などによるコントロールなのかどうかは置くとして、消費減税に反対する声が消費者から出るというのも不思議な反応だ。
年間8万8000円にしかならないのでは、物価上昇対策にならない、という声が意外に多い。財政悪化がさらに物価上昇に火をつけるという解説にうなずく人も少なくない。だが、これは本当なのだろうか。
■本当の意味は「消費喚起」と「経済対策」
高市首相は食料品を消費税率ゼロにすることが「物価高対策」あるいは「生活困窮者対策」だとしている。だから、消費税率引き下げよりも「給付付き税額控除」が好ましい、という話になる。消費減税も年間8万8000円で2年間の時限措置ならば、給付でもいいじゃないか、と有識者が語るのも、物価高対策という視点からだ。確かに困窮者対策ならば、対象の人に直接現金給付する方が即効性もあり効果が大きい。
だが、本来、消費税減税は物価高対策よりも、「消費喚起策」「経済対策」としての意味が大きい。コロナが蔓延する中で、先進国で消費減税に踏み切ったところが多かったのは、消費が凍りついて需要が一気に減ったことが大きな理由だった。
税率を下げると税収が減って社会保障財源に問題を生じる、という言い方もしばしばなされるが、税率を下げたから必ずしも税収が減るとは限らない。税率を下げた結果、消費が増えれば、消費税収は増えるのだ。
実際、日本は5%の税率を8%、10%と引き上げる過程で、消費が大きく落ち込んだ。逆に言えば、消費税率を引き下げれば、消費が盛り上がり税収が増える可能性もある。
■減税は「ある意味当然の政策」
ここへきて消費税収は大きく増えているが、これは消費が好調なためではない。消費する量は変わらないのに価格が上昇しているため、消費者が負担する消費税額も増えているのだ。消費量が変わらないのに増えている消費税額の分を、減税に回して消費を喚起するのはある意味当然の政策と言える。
面白いところでは外食業界が食料品の消費税ゼロに反対していることだ。食料品の税率がゼロになった場合、外食の消費税10%との差が大きくなり、客離れが起きるというのだ。一見、正しい反対論のように思えるが、外食店が仕入れる食材も税率がゼロになるわけで、その分、価格を引き下げる余地が生まれるはずだ。
また、家計の消費税負担が減ることで、その浮いた分が外食などに回ることも十分に考えられる。
そうなれば、外食店にとっても、仕入れ食材の税負担が減るのはメリットが大きいはずだ。それでも業界団体が反対の立場なのは、食料品をゼロにするなら、同じ「食」なのだから外食の税率もゼロにしてほしい、というのが本音だろう。
■政府・財務省の本音は「やりたくない」
4月21日に開かれた有識者会議では、給付付き税額控除の制度設計についての議論が行われた。給付付き税額控除は、所得に応じて所得税などから一定額を控除し、引き切れない分を現金で給付する制度。元々は旧民主党などが導入を求めていた政策だった。
具体的な実施方法として①企業が従業員の年末調整で税額控除した上で、公的機関が給付を行う②確定申告を受けた公的機関が減税と給付を行う③税額控除は行わず、所得に応じた給付のみを行う――という3通りの案が示されたという。
これに対して参加した有識者からは、「事務の煩雑化を招く」として、①や②の案に賛成する声はなく、③の給付のみに一本化するという案を支持する声が大半を占めたという。税金と給付を組み合わせると制度が複雑化して、こちらもシステム改修などに2、3年はかかるという見通しが政府から示されたという。
結局、消費税減税も、給付付き税額控除の導入も、政府・財務省はやりたくないということなのだろう。給付付き税額控除も要は減税の一環である。何としても税収を確保したいということなのかもしれないが、前述の通り、税金を増やすには経済活動を活発化させることが本来は王道である。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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