首都圏の住宅価格が高い。どこに家を買えばいいのか。
麗澤大学工学部教授の宗健さんは「都心の便利な場所にあるマンションを買える人は限られているため、多くの人は、都心以外のエリアで検討することになる。その際に、参考になる要素がある」という――。
■「新築なら郊外、都心なら中古」なのか
東京23区の新築マンションの平均価格が1億円を超えた、というニュースを見たことがある人も多いと思う。不動産経済研究所のデータによると、2025年度の東京23区の新築マンションの平均価格は過去最高を更新して1億3784万円になったという。
しかも、1億円を超えたのは3年連続で、一都三県の平均価格も9383万円と1億円に迫ろうとしている。
また、新築マンションだけでなく、新築戸建ても値上がりしている状況だ。
こうなると、都心で新築を買えるのはごく一部の人たちだけで、多くの人は新築なら郊外、都心なら中古を、と考えるのはやむを得ないだろう。
ただ、新築なら郊外、都心なら中古、という考え方は本当に正しいのだろうか。今回は、この点について考えてみたい。
■「東京23区とそれ以外」で分けないほうがいい
新築マンションの価格にしても、「東京23区」という区分が使われているが、そもそもこの「東京23区」というくくり自体、区ごとの差が激しすぎて、適切とはいえない。
新築マンションの平均価格の場合には、都心の数億以上の物件が全体平均を押し上げているため、そもそも平均価格にはあまり意味がない。そこで、中古マンションの価格を見てみよう。

不動産ポータルサイトのアットホームの中古マンション価格相場の60-80m2の平均価格を見ると、価格が表示されている23区と22市の合計45市区の中古マンション価格の中央値は国分寺市の5080万円だ(※2026年4月29日時点)。

※アットホームの中古マンション価格相場の60-80m2の平均価格については、東京都は2026年4月29日、東京都以外は2026年5月16日に閲覧。現在は異なる場合がある。
最も高いのは港区の2億1288万円、最も低いのは福生市の2155万円で、1億を超えているのは、港区、千代田区、中央区、渋谷区、目黒区、新宿区、品川区、文京区の8区となっている。23区で見ても、最も高い港区の2億1288万円に対して、最も低い足立区は3680万円と大きな差がある。
中央値の国分寺市の5080万円よりも高い市には、三鷹市(6380万円)、武蔵野市(6266万円)、狛江市(5150万円)の3市があり、中央値よりも低い区には、板橋区(4994万円)、江戸川区(4980万円)、足立区(3680万円)がある。
東京都以外でも、東京都の中央値の国分寺市の5080万円を超える市区は多い。
神奈川県では、横浜市西区(6820万円)、横浜市中区(5880万円)、川崎市幸区(5780万円)、川崎市中原区(6917万円)、川崎市高津区(5080万円)、埼玉県では、さいたま市浦和区(5692万円)がある(千葉県で最も価格が高いのは浦安市の4100万円)。
このように見ていくと、そもそも東京23区とそれ以外、都心と郊外という分け方そのものが適切とは言えないわけだ。
■郊外の新築マンションも安くはない
不動産経済研究所のデータによると、東京23区の新築マンションの平均価格は1億を超えているが、東京都下は6823万円、神奈川県は7481万円、埼玉県は6306万円、千葉県は6828万円と共働きであれば手が届きそうな価格になる。
それでも、中古マンション価格に比べると割高感は否めない。
前述のアットホームの中古マンション価格を見ると、東京都下で最も高いのは三鷹市の6380万円、神奈川県だと川崎市中原区の6917万円、埼玉県だとさいたま市浦和区の5692万円、千葉県だと浦安市の4100万円となっていた。


中古マンション価格も新築マンション価格の上昇に引っ張られる形で上昇しているが、それでも新築マンションに比べれば手頃感がある。
このように見ていくと、郊外であっても必ずしも新築にこだわる必要はなく、中古も選択肢に入れる方が合理的だと言えるだろう。
そして、最近の新築マンションは大規模化しており、販売されている場所が極めて限定的だ。
子どもが通っている学区限定で探す、といった場合にはそもそも新築マンションが売られてないため、中古マンションしか選択肢にならない場合も多いわけだ。
■エリア選択指標としての「中学受験率」
都心の便利な場所にあるマンションは、新築だろうが中古だろうが高いのは当たり前で、買えるのなら皆、買いたいだろう。しかし、そうした場所でマンションを無理なく買える人は限られる。
そのため、買える価格を考えると、都心以外のエリアで検討せざるを得ないが、そのときどうやってエリアを選べばいいのだろうか。
マンションを初めて購入するのは、結婚して間もないカップルや、子どもが生まれたファミリーが多いことは各種の調査でも明らかで、そうした層が気になるのは子どもの教育環境だろう。
このとき、子どもの教育環境の指標の一つとして中学受験率がある。
もちろん、どのような教育環境を好ましいと考えるかには、様々な考え方があり、中学受験することだけが教育環境の指標ではなく、自治体の子育て支援策や、自然環境、地域コミュニティなど様々なものがある。
とはいえ、現代では学歴や学校歴が就活など様々な場面に影響するのは間違いない。
そのため、今回は、首都圏の公立中学以外への進学率を簡易的に計算し、その進学率と中古マンション価格を比較することで、穴場といえる場所があるのかを考えてみた。

私立中学進学率は、文部科学省の学校基本調査から市区町村別の令和6年4月の国公私立の小学校6年生の人数と翌年の令和7年4月の公立中学校1年生の人数を抽出し、その差分が私立中学等に進学したものとして、簡易的に私立中学進学率を算出した。
■学業成績を決める重要な要素
なお、こうした分析では同じ文部科学省の学校基本調査のデータを使って市区町村別の大学進学率を算出して使うこともあるが、学校基本調査は学校所在地を基準に集計されており、現住地基準での集計とはならないため市区町村別の比較指標としては適切ではない(都道府県の単位になると意味はある)。
一方、小学校、公立中学校については、学校所在地と現住地はほぼ一致していると考えられるため、今回は国立を含む私立中学等への進学率を用いることにした。
もう少し説明をしておくと、学業成績は、遺伝が55%、共有環境が17%、非共有環境が29%という割合で説明できることが分かっている。
詳しくは慶應義塾大学名誉教授の安藤寿康氏による『遺伝マインド』などの一連の著作・研究を参照してほしいが、共有環境とは家庭の子育て環境のことで、非共有環境とは家庭以外の子どもの置かれている環境、簡単にいえばどんな学校に行って、どんなお友達に囲まれているか、ということだ。
その意味で、周りに中学受験するお友達が多いほうが、勉強する環境としては良い影響があるだろう。
■私立中進学率が高く中古マンションが手頃な場所
市区町村別に私立中学等への進学率を見ると、東京23区には、千代田区:75.5%、文京区:63.7%、港区:56.8%、品川区:55.9%、渋谷区:54.2%、目黒区:51.6%と非常に高い区が集中している。
神奈川県では、川崎市高津区:36.7%、横浜市西区:34.8%、横浜市中区:32.8%、鎌倉市:30.0%が30%を超えている。
埼玉県では、さいたま市浦和区:32.2%、さいたま市見沼区:22.7%が20%を超えており、同様に千葉県では、千葉市稲毛区:28.2%、市川市:22.1%、浦安市:21.2%となっている。
一都三県の市区町村について、私立中学等への進学率と中古マンション価格の平均を散布図にすると下記のようになる(図表1)。
散布図は、平均価格の上限を6500万円、進学率の上限を45%として表示している。そのため、平均価格が1億を超え進学率も非常に高い、港区(2億1288万・57%)、千代田区(1億6861万・76%)、文京区(1億201万・64%)といったような地域は表示には含まれていない。

そして、同じ価格帯でも進学率が非常に高い地域がいくつかあることがわかる。
5000万円近辺では、国立市・川崎市高津区、4000万円近辺では、鎌倉市・横浜市緑区、3500万円近辺では川崎市麻生区・横浜市栄区、3000万円以下では千葉市稲毛区、さいたま市見沼区、岩槻区といった場所だ。
これは逆にいえば、同じ進学率でも中古マンションが比較的手頃な場所がある、ということでもある。
例えば、鎌倉市と千葉市稲毛区を比べると、それぞれ進学率は30.0%、28.2%とほぼ同じだが、中古マンション価格は鎌倉市の3745万円に対して千葉市稲毛区は1785万円と半額になる。
■川崎市高津区は意外と利便性が高い
細かく見ていくと、国立市はJR中央線沿線で一橋大学があり都市計画法による文教地区に指定されているところで知名度も高いが、川崎市高津区と言われてもピンとこない人も多いと思う。高津区には渋谷を起点とする東急田園都市線が通っており、世田谷区の二子玉川駅から多摩川を越えると、二子新地、高津、梶が谷の3駅が高津区所在となる。沿線にはマンションも多く渋谷までの近さなど利便性の高い場所だ。
鎌倉市については、説明はいらないと思うが、いわゆる鎌倉駅周辺だけが鎌倉市ではなく、西は江の島の手前まで、北はJR東海道線の大船駅を含む、意外と広い範囲になる。
横浜市緑区もイメージはあまり浮かばないと思うが、市内には東名高速が通過しており南西の端は横浜町田インターで、東急田園都市線・JR横浜線の長津田、JR横浜線の十日市場、中山、鴨居の各駅がある。鴨居駅の横浜側の駅は小机駅で日産スタジアム最寄り駅だ。区内は広い範囲が新興住宅地になっている。
■新興住宅地が広がる地域
川崎市麻生区は、川崎市の最も西の区で、小田急線の百合ヶ丘、新百合ヶ丘、五月台、栗平、黒川、はるひ野、柿生といった駅がある。
区域には新興住宅地が多い。
横浜市栄区は、鎌倉市の北に接している区だ。駅としてはJR東海道線の大船駅の北側が区域で、他の駅はJR根岸線の本郷台しかない。区域には新興住宅地が多い。
千葉市稲毛区は、千葉市のなかでも北側に位置し、駅としてはJR総武線の稲毛、西千葉、京成電鉄の京成稲毛、みどり台、千葉都市モノレールの作草部、天台といった駅がある。区内は新興住宅地が多く、千葉大もある。
さいたま市見沼区と岩槻区は大宮駅がある大宮区の東側が見沼区、そのさらに東が岩槻区だ。
見沼区には、JR湘南新宿ラインの東大宮駅、東武アーバンパークラインの大和田駅、七里駅があり、岩槻区には東武アーバンパークラインの岩槻駅、東岩槻駅がある。両区とも計画されたニュータウンではないが、新興住宅地が広がっている。
■SAPIXの校舎があるエリア
こうしてみると、郊外でも古くからの市街地が中心の街と、新興住宅地が広がる街があることがわかる。
こうした新興住宅地の多い場所で、私立中学の進学率が高いのは、住んでいる人の多くが新たに住宅を購入して移り住んできた人たちで、そうした家庭には一定の経済的余力があり、子どもの教育にも熱心である場合が多いことが背景として考えられる。
こうした背景もあり、中学受験で有名なSAPIXの郊外の校舎もここまで説明してきたエリアの近辺にある。

千葉県では、柏、松戸、新浦安、西船橋、海浜幕張、千葉に、埼玉県では、大宮、南浦和、新越谷(今回言及していないが所沢にもある)に、神奈川県だとたまプラーザ、青葉台、若葉台、大船、東戸塚といった場所に教室がある。
街の選び方は一様ではなく公式もないが、これだけ不動産の価格が上がってしまえば、郊外を選択せざるを得ない場合もあり、そうした場合には本稿のような視点もあり得るのではないだろうか。

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宗 健(そう・たけし)

麗澤大学工学部教授

博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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