※本稿は、西岡壱誠『東大・京大入試で培う 多面的に物事を深く捉える 複合的思考力』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■最初に切られるのは「知識があるだけの人」
AIが急速に進化する時代に、最初に価値を失うのはどんな人でしょうか。
私は、「知識がない人」ではなく、「知識があるだけの人」だと考えています。
もちろん、知識は大切です。知識がなければ、考える材料がありません。けれど、知識を持っているだけなら、もはやAIのほうが圧倒的に強い。単語の意味も、歴史上の出来事も、数学の公式も、専門用語の定義も、AIに聞けば一瞬で出てきます。
これから問われるのは、「何を知っているか」ではありません。
知っていることを、どう読み解くか。どう組み合わせるか。
つまり、知識を使って考え抜く力です。
この力を、私は「複合的思考力」と呼んでいます。そして実は、この複合的思考力こそ、東京大学と京都大学の入試が長年問うてきたものではないかと考えています。
■「頭がいい」とは、どういうことなのか
「頭がいい」と聞くと、多くの人は、知識が豊富な人、計算が速い人、記憶力がいい人を思い浮かべるかもしれません。
たしかに、それらも頭の良さの一部です。しかし、東大・京大の入試問題を見ていると、両大学が本当に見ようとしているのは、単なる知識量ではないことがわかります。
東大や京大の問題は、知っていることをそのまま吐き出せば解けるようには作られていません。
文章を正確に読み、条件を拾い、情報を整理し、視点を変え、複数の要素をつなぎ、限られた時間の中で判断し、最後に自分の言葉で表現する。こうした一連の思考のプロセスが求められます。
知識を「持っている」だけでは足りない。
この違いは、AI時代において決定的です。
AIは知識を提示してくれます。要約もしてくれます。文章も生成してくれます。しかし、その答えが本当に妥当なのか、どの前提に立っているのか、自分の状況に当てはめてよいのかを判断するのは、人間の側です。
AIを使いこなす人と、AIに使われる人の差は、ここに生まれます。
■東大・京大が問う「複合的思考力」とは何か
複合的思考力とは、一言で言えば、「複合的にいろんなものを使って、最後まで粘って考える能力」です。
問題を読んで、すぐに答えがわかる。公式に当てはめれば終わる。暗記した用語を書けば点が取れる。そういう問題なら、必要なのは知識の量かもしれません。
しかし、現実の問題はそうではありません。
ビジネスでも、日常生活でも、私たちが向き合う問いの多くには、きれいな正解がありません。新規事業に投資すべきか。転職すべきか。子どもの教育方針をどうするか。AIを導入すべきか。目の前のトラブルをどう処理すべきか。
どれも、ひとつの知識だけでは答えが出ません。
必要なのは、まず情報を読む力です。次に、情報を整理する力です。さらに、別の角度から検討する力が必要です。バラバラの要素をつなぎ合わせる力も必要です。
限られた条件の中で優先順位を決める力も必要です。そして最後に、自分の考えを他者に伝わる形で表現する力が必要です。
この一連の流れが、複合的思考力です。
東大・京大の入試問題は、まさにこの力を測る装置になっています。
■「知っている単語」ほど、実は難しい
東大英語に、象徴的な問題があります。
出題されたのは、「order」という単語です。orderは、中学生でも知っている基本単語でしょう。「注文」「命令」「順番」など、日常会話でもよく使われます。
しかし、東大はこの単語を、単に「意味を知っていますか」とは聞きません。
たとえば、「alphabetical order」と言えば、「アルファベット順」です。ここではorderが「順番」という意味で使われています。
では、「good order」が保たれている部屋とはどういう状態でしょうか。
ここで問われているのは、単語帳の知識ではありません。
知っている意味を、文脈に合わせてどう広げられるか。基本的な知識を、状況に応じてどう運用できるか。そこが見られています。
これは、AI時代の仕事にもそのまま当てはまります。
AIに聞けば、単語の意味は出てきます。専門用語の定義も出てきます。業界知識の概要も出てきます。しかし、ある会議の文脈で、その言葉がどう使われているのか。顧客がその言葉にどんな不安を込めているのか。上司の一言の裏に、どんな判断基準があるのか。
そこを読み取るには、知識だけでは足りません。文脈を読む力が必要です。
東大が問うているのは、「知っているか」ではなく、「使えるか」なのです。
■京大が問うのは、言葉の奥まで潜る力
一方、京大の問題は、別の角度から「知識があるだけの人」を揺さぶってきます。
京大英語では、見慣れない単語が平気で出てきます。たとえば、「blandly」という単語が出題されたことがあります。辞書的には「素っ気なく」「穏やかに」「味気なく」といった意味を持つ単語です。
多くの受験生にとって、なじみのある単語ではなかったはずです。
しかし、京大が見ているのは、その単語を暗記していたかどうかではありません。前後の文脈を読み取り、筆者がその言葉にどんなニュアンスを込めているのかを考えられるかどうかです。
その文章では、大気や海の温暖化、海洋の酸性化、海面上昇、氷河の後退、砂漠化など、人類の活動によって起きている深刻な変化が述べられていました。それにもかかわらず、それらが“global change”と呼ばれている。
この文脈でのblandlyは、単に「穏やかに」ではありません。
深刻な事態を、あっさりした言葉で覆い隠してしまっている。筆者はそこに違和感を持っている。そう考えると、「気安く『地球規模の変動』と呼ばれている」よりも、「深刻さをぼかすように『地球規模の変動』と名づけられている」といった訳が立ち上がってきます。
これは、英語力だけの問題ではありません。
言葉の背後にある思想を読み取る力。文脈を手がかりに、見慣れないものの意味を推測する力。さらに、それを自然な日本語で表現する力が必要です。
AIが訳語を出すことはできます。しかし、その訳語がこの文脈にふさわしいかどうかを判断するには、人間の読解が必要です。
■「要約できる人」は、仕事ができる
東大入試の特徴的な問題に、英語の要約問題があります。
英文を読み、その内容を70~80字の日本語にまとめる。形式だけ見ると、シンプルな問題に見えます。しかし実際には、非常に高度な総合力が求められます。
まず、英文を正確に読まなければなりません。次に、段落ごとの役割を把握する必要があります。どの情報が中心で、どの情報が具体例なのかを見極めなければなりません。そして、限られた字数の中で、必要な要素を過不足なく入れる必要があります。
これは、まさにビジネスの中核スキルです。
長い報告書を読んで、上司に要点を伝える。会議の議論を整理して、次に決めるべきことを示す。複雑なプロジェクトの状況を、経営陣に短く説明する。顧客の発言の中から、本当の課題を抜き出す。
どれも、要約力が問われます。
要約とは、単に短くすることではありません。
本質をつかむことです。
情報を短くできる人は、情報の構造が見えています。何が中心で、何が枝葉かを判断できています。逆に、すべてを同じ重さで並べてしまう人は、どれだけ知識があっても、相手に伝わる形にできません。
情報過多の時代には、情報を持っている人よりも、情報を編集できる人の価値が上がります。
AIが大量の情報を出してくれる時代だからこそ、「結局、何が大事なのか」を見抜ける人が必要になるのです。
■AIは答えを出すが、問いは立ててくれない
AIを使えば、かなり多くの作業が楽になります。
文章を要約する。アイデアを出す。論点を整理する。表を作る。メールを書く。こうした作業は、すでにAIが得意とする領域です。
しかし、AIに何を聞くべきかを決めるのは人間です。
そもそも、何が問題なのか。どの前提を疑うべきなのか。どの情報を重視すべきなのか。複数の選択肢のうち、どれを採用すべきなのか。
ここには、判断が必要です。
そして判断には、責任が伴います。
AIが出した案を採用して失敗したとき、「AIがそう言ったからです」とは言えません。最終的に、その案を選んだのは人間だからです。
だからこそ、AI時代に必要なのは、AIより多くの知識を暗記することではありません。AIが出した知識を読み解き、自分の文脈に合わせて使い、最終的に判断する力です。
東大・京大の入試問題は、この力を鍛える格好の素材です。
東大は、大量の情報の中から本質を素早く抜き出し、限られた時間で答えにする力を問います。京大は、すぐには答えの出ない問いに向き合い、文脈を深く読み、自分なりの論理を組み立てる力を問います。
どちらにも共通しているのは、知識を持っているだけでは突破できないという点です。
■必要なのは、最後まで粘って考える力
これからの社会で価値を持つのは、どんな人でしょうか。
私は、「覚えた人」ではなく、「考え続けられる人」だと思います。
もちろん、覚えることは無意味ではありません。知識がなければ、思考は深まりません。けれど、知識は出発点であって、ゴールではありません。
大事なのは、知識を材料にして、問いを立て、情報を整理し、別の視点から考え、要素をつなぎ、判断し、言葉にすることです。
東大・京大が入試で見ているのも、まさにそこです。
東大は、限られた時間の中で、情報を処理し、構造化し、答案にする力を問います。京大は、与えられた問いを深く読み、複数の視点を統合し、自分の言葉で表現する力を問います。
どちらも、知識だけでは足りません。
必要なのは、最後まで粘って考える力です。
AI時代に最初に切られるのは、知識がない人ではないかもしれません。むしろ、知識があることに安心して、それを使って考える訓練をしてこなかった人です。
逆に、AI時代に強くなるのは、知識を独占する人ではありません。AIから得た知識も、自分の経験も、他者の意見も、現場の違和感も、すべてを材料にして考えられる人です。
「頭がいい」とは、たくさん知っていることではない。
知っていることを使って、最後まで考え抜けることです。
東大・京大の入試問題は、そのことを静かに、しかし厳しく問い続けています。
----------
西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
----------
----------
東大カルペ・ディエム(とうだいかるぺ・でぃえむ)
現役東大生を中心に活動する学術・教育プロジェクトチーム
2020年、西岡壱誠を代表として発足。東大合格までの道のりや独自の勉強法を持つメンバーが集まり、毎年200名以上の東大生を対象に学習調査を実施。思考力を鍛えるためのメソッドや教材を開発し、全国の講演やワークショップで若者の学びを支援している。
----------
(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠、現役東大生を中心に活動する学術・教育プロジェクトチーム 東大カルペ・ディエム)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
