日本の回転寿司は世界でも人気なのか。寿司にまつわるビジネスに詳しいながさき一生さんは「日本の大手回転寿司チェーンは、国内で培った高い技術とオペレーション力を武器に、それぞれの地域文化をうまく取り入れながらグローバル展開を加速させている」という――。

※本稿は、ながさき一生『最強の寿司ビジネス』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■日本の寿司屋が海外で「独自進化」
日本にいればいつでもどこでも目にする回転寿司。今となっては世界のどこにいても目にするグローバルフードとなりました。
東南アジアでは屋台感覚で親しまれ、アメリカではデリバリーやスーパーの惣菜コーナーで日常的に食べられ、ヨーロッパではテイクアウトや宅配の定番メニューとして定着しています。
国や地域ごとに食べ方も味の傾向も異なりますが、それぞれの社会に合わせて寿司がローカライズされている点にこそ、現代の食文化の多様性が表れています。単なる「日本食の輸出」ではなく、現地の特色と融合し、新たな可能性を拓いています。
その背景には、日本の寿司チェーンが築いてきた効率的なオペレーション技術と、鮮度、清潔さへのこだわりが世界の都市で受け入れられたことがあります。
日本の代表的チェーンであるスシローやくら寿司は、現在アジアやアメリカ、ヨーロッパなどで店舗を拡大しています。日本経済研究所の話によれば、それらに加えて各地で独自に発展してきた寿司チェーンが数多くあります。
■寿司は「モダンなライフスタイルの象徴」
例えば台湾では「争鮮(Sushi Express)」が圧倒的な存在感を持ち、全国に300店舗近くを展開しています。
台北の地下鉄構内やショッピングモールの一角にも多くの店舗があり、一皿30台湾ドル(約150円)からという手頃な価格で気軽に楽しめる“国民食”として定着しました。
清潔で効率的なシステムを取り入れながら、現地の人々の嗜好に合わせたメニューを展開している点が特徴です。

マレーシアでは「Sushi King」が約130店舗を展開し、ハラール認証を取得することでイスラム圏でも安心して食べられる寿司を提供しています。寿司という日本の食文化を、宗教的価値観と共存させることで新たな市場を開拓している点が注目されます。
シンカポールでは「Midori」などの日本以外のブランドに加え、スシローやくら寿司といった日系勢も進出し、多民族社会ならではの激しい競争が繰り広げられています。
ここではサーモンやアボカドなど、西洋食材を積極的に取り入れた“国際寿司”が主流となっており、寿司が文化の交差点となっていることがわかります。
インドネシアでは現地日系人オーナーによる「Sushi Tei」が高級モールを中心に展開し、落ち着いた空間と安定した味で中間層・富裕層に支持されています。
東南アジアにおける寿司は、単なる「日本食」ではなく、「都市的でモダンなライフスタイルの象徴」として機能しているのです。
■自由でカラフルな盛り付けも許される
オセアニアでは、オーストラリアの「Sushi Train」がその象徴です。1993年に創業され、現在では約50店舗を展開しています。店名の通り、回転レーンを列車に見立てた親しみやすい演出が人気を呼び、健康的で手軽なランチとして定着しました。
オーストラリアでは、寿司がヘルシー志向の食生活と結びつき、“ファスト寿司”という新しいカテゴリーを築いたといえます。
アメリカでは、くら寿司をはじめとする日系チェーンが急速に店舗を拡大していますが、同時にスーパーの寿司コーナーやデリバリーサービスも充実しています。家族や友人が集まる「寿司パーティー」も人気で、寿司は“特別な外食”から“日常の共有食”へと変化しました。

ここでは日本的な繊細さよりも、自由でカラフルな盛り付けやボリューム感が重視され、エンターテインメント性のある料理として再解釈されています。
ヨーロッパでは、イギリスの「YO! Sushi」がテイクアウトのスタイルを広め、フランスの「Sushi Shop」は、フランス人オーナーがアメリカのカリフォルニアロールを食べ感動したことから始まり、ピザやハンバーガーと並ぶデリバリーの定番となりました。
寿司はもはや高級食ではなく、都市のライフスタイルにかせない“定番フード”として根づいているのです。近年では日本のはま寿司を運営するゼンショーグループやスシローも欧州展開を強化しており、寿司のグローバル競争は新たな局面を迎えています。
■寿司は世界共通の食文化だ
このように世界の寿司チェーンを俯瞰すると、地域ごとに異なる文化や価値観が反映されていることがわかります。
日本から発信された寿司は、現地の宗教、食習慣、生活リズムと結びつきながら多様に姿を変え、もはや日本のものだけではなく、各地の人々によって育まれた“共有の食文化”になっています。
この多様性こそが寿司ビジネスの身大の特徴であり、強みであると言えるでしょう。日本の技術と理念を軸に、各国の価値観や生活様式を取り込むことで、寿司は“世界語”のような食文化になりつつあります。
次節では、このグローバルな広がりを支える日本の寿司チェーンの取り組み、特にスシロー未来型万博店や「GENKI SUSHI×魚べい」が展開する「世界のネタ」を通して、寿司の未来像について考察したいと思います。
■日本の回転寿司はどこまで広がっているのか
寿司が世界中で親しまれる今、日本の大手チェーンの立ち位置はどうなのでしょうか。彼らは日本国内で培った技術とオペレーション力を武器に、各国の食文化を巧みに取り込みながら独自の展開を進めています。
中でもスシローは、国内最大手であると同時に、アジア市場を軸としたグローバル展開を加速させています。
韓国、台湾、シンガポール、香港など、寿司文化が受け入れられやすい地域を中心に進出し、現地の嗜好に合わせたメニュー開発を行っています。
アメリカでは大衆寿司居酒屋「杉玉」業態としても進出を果たしており、地域の味覚や生活スタイルに寄り添った商品展開が特徴です。
2025年2月のマレーシア初店舗のオープンで海外200店舗を達成。次なる目標として300店舗超えを掲げています。すべての店舗を現地法人によるグループ直営で運営しており、日本のブランド価値と味の再現を守りながら展開している点が強みです。
■万博で注目された「スシロー」
さらに、スシローと言えば「2025年大阪・関西万博」への出店でも注目を集めました。コンセプトは「まわるすしは、つづくすしへ。―すし屋の未来 2050―」。水産資源の持続可能性が世界的な課題となる中、未来のすし屋のあり方を提示しました。
最大の特徴は、最新の養殖技術で育てられた魚介を使った寿司が振るまわれたことです。会場では陸上養殖のウニや完全養殖のシマアジやカンパチ、環境保全活動にも貢献できるウニ畜養スタートアップが育てた陸上養殖のウニなどが提供されました。
環境問題やテクノロジーの最前線を「美味しく・楽しく・学べる」体験として発信し、水産業界全体の未来にも大きく貢献を果たしていると感じました。

単なる飲食ブースにとどまらず、「未来の寿司文化を考える」展示として、国内外の来場者に強い印象を残し、日本の魅力を伝えるだけでなく、海外でのブランド展開を後押しする重要なステージになったことでしょう。
■アメリカで存在感を見せる「くら寿司」
一方、くら寿司はアメリカ市場で独自のポジションを築いています。2009年に「Kura Sushi USA」として海外事業をスタートし、2019年にはナスダック上場を果たしました。
現地ではチーズロール、照り焼き寿司、タイガーロールなど、アメリカ人の味覚に寄せたメニューを開発。ファミリー層や若年層の支持を集め、カリフォルニア、テキサス、ニューヨークなどを中心に店舗を拡大しています。
環境配慮型の店舗運営も特徴で、食品ロス削減や再利用素材の活用など、サステナブル経営のモデルとしても注目されています。
2030年までに400店舗を目指すという目標は、もはや寿司チェーンを超えた「グローバル食ブランド」としての挑戦といえるでしょう。
■海外進出の先駆者「元気寿司」
そしてもう1つ忘れてはならないのが、元気寿司です。1993年、まだ寿司が一般的なファストフードではなかった時代に、ハワイへ進出した先駆者的存在です。
現在では香港、シンガポール、フィリピンなど東南アジアを中心に多くの店舗を展開し、海外店舗数が国内を上回っているグローバルチェーンです。
現地企業とのパートナーシップによる柔軟な経営が特徴で、地域ごとに異なるマーケット戦略を取り入れています。2024年には運営母体の社名を「Genki Global Dining Concepts」へと変更し、海外事業のさらなる拡大を打ち出しました。

さらに新ブランド「GENKI SUSHI×魚べい」を上野でグランドオープンさせ、グローバルな寿司体験の場を提供する事業もスタートさせています。
ここでは、ハワイ限定メニューや各国のとっておきメニューを取り扱うフェアなどを開催し、日本と世界の寿司体験をつなぐ場所となっています。
例えば、2025年11月28日から翌年3月末頃まで、世界の創作寿司が集結する「GENKI Global Sushi Competition 2025」を開催。
このフェアでは、各国の「現地で進化した寿司」をテーマにしたメニューが並び、カンボジアの火山をイメージした寿司「ラヴァロール」や、香港の「海鮮宝箱」、フィリピンの「まぐろマンゴーマヨ」などが提供されました。
私も実際足を運びましたが、日本の文化からは発想されないであろうネタが体感でき、世界の寿司文化を知る上でとても貴重な体験ができると思いました。
このような世界から日本への逆輸入という面白さも備わったコンセプトブランドの創設もまた、日本の回転寿司をさらに海外へ発信していくきっかけとなることでしょう。
■現地の文化を取り入れる柔軟性
こうして見ると、スシロー、くら寿司、元気寿司の3ブランドはいずれも異なる方向性でグローバル化を進めています。
スシローは直営展開によるブランド再現、くら寿司はローカライズ戦略の強み、元気寿司は現地パートナーとの共創による柔軟さ――いずれも「日本発の寿司」を核としながら、それぞれの地域文化との融合を図っています。
寿司は今や、単なる和食ではなく、世界中で形を変えて生きる“グローバルブランド”の一つです。その広がりの中心には、こうした日本のチェーンの存在があります。
寿司の味、技術、もてなしの精神。それらを守りながらも、現地の文化を取り入れる柔軟さこそが、日本の寿司ビジネスを次のステージへと導いているのです。


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ながさき 一生(ながさき・いっき)

魚で社会を調える人/さかなプロダクション 代表取締役 フェロー/一般社団法人さかなの会 理事長/東京海洋大学 非常勤講師

1984年、新潟県糸魚川市にある「筒石」という漁村の漁師の家庭で生まれ、家業を手伝いながら育つ。2007年に東京海洋大学を卒業後、築地市場の卸売会社に就職し、水産物流通の現場に携わる。その後、東京海洋大学大学院で魚のブランドや知的財産の研究を行い、修士課程を修了。2006年からは、ゆるい魚好きの集まり「さかなの会」を主宰。2017年に「さかなプロダクション」を創業し独立。食としての魚をわかりやすく解説する中で、ふるさと納税のコンテンツ監修、ドラマ「ファーストペンギン!」の漁業監修、寿司の絵本や図鑑の監修を手がける。水産業を取り巻く状況を良くし、魚のコンテンツを通じて世の中を良くするため、広く、深く、ゆるく、そして仲間たちと仲良く活動している。著書に『魚ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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(魚で社会を調える人/さかなプロダクション 代表取締役 フェロー/一般社団法人さかなの会 理事長/東京海洋大学 非常勤講師 ながさき 一生)
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