大学はどのような基準で選ぶのがいいか。受験・学歴評論家の伊藤滉一郎さんは「東大・京大・早慶などから少数精鋭を選抜するのではなく、幅広い大学から必要な人材を確保する分散型採用の一流企業は多い。
入試難易度を踏まえれば、就職に強い中堅私立大学は『高コスパ』だ」という――。
JR東海「採用大学ランキング」の意外な結果
かつてJR東海は「東大の就職先」というイメージを持たれていた。約3600社を対象に東洋経済が調査した「『東大卒の役員』が多い会社」ランキング(※)では、1位にランクイン。7割近い役員が東大卒で占められていた(2014年当時)。
※参照:東洋経済オンライン「本流企業?東大・京大卒が出世する250社 JR東海、日本テレビは過半が東大卒」2014年11月19日配信
いわゆる“学閥”の強さから「JR東大」という俗称まで誕生したほどだ。ところが実際の就職ランキングを見ると、必ずしも「東大一強」ではないとわかる(図表1)。
直近10年の東大からの就職者数は毎年10~15人程度と依然として多いものの、最新のランキングで1位となった日本大学をはじめ私立中堅大の強さが目立つように感じる。本稿では、その背景を探りたい。
まず、近年の就職トレンドを見ていこう。
JRをはじめとするインフラ企業は、外資のような高収入が若いうちから見込めるわけではないが、抜群に安定しており、中長期的に見れば魅力的な待遇を得られるため、人気は根強い。特にJR東海は、鉄道業界の中でもトップクラスの給与水準である。総合職として入社して順調に昇進すれば、30代で年収1000万円も狙える。

インフラの維持・発展という公益のために働きつつ、民間企業としての高い給与も得られるJR東海のような企業が、良いとこどりの選択肢として選ばれているという側面もあるようだ。
■「現業職」に大卒人材が流入
それでは、なぜ日本大学からの採用が目立つのか。
日大はもともと、現業系への就職に強い大学として知られてきた。就職実績の上位として、警察官や地方公務員は就職者数No.1常連校であり、社会インフラを支える民間企業・公務員就職者などのエッセンシャルワーカーを広く安定的に輩出している。特に警察官の就職実績においては、長年にわたり国士舘大学と激しいトップ争いを繰り広げており、全国1位・2位の常連校として圧倒的な実績を誇っている。日大は、現場志向のキャリアに強みを持つ。
こうした大学の志向は、鉄道会社の採用構造と極めて相性が良い。JRではかつて高卒中心だった現業職に大卒人材が流入し始めている。JR東海では、職種別の採用区分が明確となっている。いわゆる現場での仕事が中心の「プロフェッショナル職」は、もともと「短大・専門学校・高校卒」の割合が高かったが、2020年代に入り「大学・大学院・高専卒」が6割を超える年度も多くなっている。
この流れは、JR東日本でも同様だ。同社は現業職として年間1000人規模の高卒者採用が行われてきたが、2000年代以降は大卒者も現業職新卒採用の対象に含めるようになった。
これ以降、主に高卒者が担ってきた現場オペレーション層に大卒者が多く入り込むようになった。
■「マンモス大学」が有利なワケ
では、その大卒人材の中身はどうなっているのか。ここで日大の強みが浮き彫りになる。
就職者データによると、日大からJR東海への就職者は、工学部・理工学部・生産工学部の3学部出身者が多いとみられる。鉄道・設備・運行といった業務は、依然として技術的素養を前提としており、理工系人材との親和性が高いためだろう。
ここで重要なのは、JRが「特定の大学」から採用しているわけではないという点である。
筆者の取材に対し、JR東海の担当者は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献するという当社の使命を理解し、現状に安住することなく、改善や飛躍に向けて主体的にチャレンジできる人、チームワークや一体感を大切にできる人など、当社の業務に適正のある人材を人物本位で引き続き採用して参ります」とコメントしている。
また、JR東日本も2020年時点で200校以上から採用を行っており、採用母集団は極めて広い。これは、少数精鋭を選抜するモデルではなく、幅広い大学から必要な人材を確保する分散型採用を意味する。この流れでは、日大のようなマンモス大学は圧倒的に有利だ。
■キャリア支援・OBネットワークに強み
理工系を中心に幅広い学部を持ち、毎年大量の卒業生を輩出する日大は、「現場を回せる大卒人材」を安定的に供給できる数少ない存在だ。さらに、長年にわたる就職実績によって企業内にOBネットワークが蓄積されていることも、採用の継続性を支える要因となっている。

日大のように文理双方の人材を大量に供給できる大学は、ビジネスの変化にも柔軟に対応できる。
大量採用による労働集約化が進んだ企業では、個々の突出した能力ではなく、一定水準で安定的なアウトプットが期待される。特にマンパワーでの人海戦術を前提とする現場系・BtoC業務では、初期配属後の離職率や配置転換への耐性が重要指標となる。
加えて、選抜プロセスの性質も影響している。新卒採用の大半は筆記試験や適性検査、複数回の面接で構成され、専門能力よりも対人応答や協調性といった指標で評価される。こうしたプロセスでは、大学によるキャリア支援による事前対策の有無が通過率に直結しやすい。
■無視できない「中堅私大の存在感」
就職みらい研究所によると、卒業生1000人以上の中堅私大でも専任スタッフを20人以上配置するのは2割程度にとどまる。その一方で、日本大学では約80人規模と、同規模大学と比較しても突出している。さらにグループディスカッション対策やエントリーシート添削、面接訓練が多くの学部で継続的に開講されており、他大学と比べて利用者数が圧倒的に多い。こうした支援体制は、学生個々の能力差を補い、選考通過率の底上げにつながる。
このように採用側目線では、「安定して基準を満たす人材供給源」という位置づけになるのだ。大学入学時の難易度を踏まえれば、日大のコストパフォーマンスは高い。

鉄道業界に限らず、事業構造が大きく転換する途上にあり、扱いやすい「バランス人材」の採用に力を入れる企業は多い。エリート採用のイメージが根強い外資コンサルですら、近年はこの傾向が顕著だ。話題の「大学不要論」とは裏腹に、日大のような中堅私大の存在感は特定の領域においてさらに高まる可能性が高いのではないか。

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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)

受験評論家、じゅそうけん代表

1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年株式会社JSKを立ち上げ、教育機関向けの広報支援サービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)などがある。

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(受験評論家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)
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