先代社長も「社員への利益還元」を重視していたという布川製作所がいかにして苦境を乗り越え、「社員還元」や「働き方改革」をどう推進しているのか、これまでの取り組みと社員への想いを布川嘉衛社長が語ってくださいました。
苦難の時代と事業転換の壁
当社は1885年(明治18年)に布川建具店として創業しました。最初は地域の職人が集まった商店のような業態でしたが、太平洋戦争への徴兵を終えて帰ってきた3代目社長が1952年に法人化しました。会社を設立するまでは徳島県内や四国向けに商売をしていましたが、当時は県内に同じような規模のメーカーが数多くありました。しかし、そうした同規模の企業は次々と事業継続が困難になっていったため、全国展開を目指す必要があると考えて法人化に踏み切ったようです。
その後は、戸建て住宅向けのOEM製造を行っていました。しかし、1997年4月の消費税率引き上げ前に住宅の駆け込み需要が出た反動で、その後は受注がどんどん落ちていきました。
それからは住宅メーカーのコスト意識も非常に厳しくなり、当社にもコスト削減が求められました。低減する利益率の改善と特定顧客への依存度軽減を図るため、集合住宅(マンション)向けに事業を大きくシフトしたのです。
ところが、会社の組織も設備もマンション向けに完全対応できるようになるまでには時間がかかり、2009年頃までは赤字が続く苦しい状態でした。
当時の経営基盤がまだ盤石でなかったこともあり、社員の給与水準も低いままとなってしまった時期があります。やむを得ず人員削減にも乗り出したのですが、結果として優秀な人材から辞めていってしまうという事態を招きました。
社員への利益還元を改めて強く意識
当社は先代社長の時代から、「社員を大切にする」という考えを貫いてきた会社です。しかし、それが叶わない状況に陥った中で、「なんとしても社員に利益を還元しなければ」と改めて強く意識するようになりました。
苦しい思いが続いた中、低迷していた業績の潮目が徐々に変わったのは、布川製作所の評判がマンション業界に浸透し、社員の意識改革が進んで社内環境が整った頃からでした。生産性が高まり、製造ライン設備も業態に合ったものとなりました。
過去10年間で安定した利益を確保できるまでに業績が回復し、「利益が出た分はしっかり社員に還元する」という姿勢のもと、2023年から2025年まで3期連続で各4%ずつのベースアップ(基本給の引き上げ)を断行しました。
平均昇給額が10,175円に達した2025年度は、成果を上げた新卒1年目の社員に対して現在の給与の7%の昇給、担当物件が増えた2年目の営業社員に対する6.8%の昇給など、努力や成果に応じた昇給を実現しています。さらに、年間休日数を3日間増やした2026年度は、実質的に約5.5%のベースアップを実施しました。
昇給の幅は一律ではなく、役職や担当する業務の内容、地域の特性によっても異なります。例えば、新卒入社後に早期に主任へ昇格した社員や、都内で難易度の高い物件を多数担当した営業社員などは、一般よりも昇給ペースが速い傾向にあります。
地域によって案件特性も異なるため、評価基準も調整しながら公平性を保っています。直近では物価上昇や最低賃金引き上げにも対応していることから、全社員の給与水準が改善されています。
さらに、年3回支給している賞与も業績に応じて社員に還元しており、2025年度の平均支給実績は、前年度の3.81か月分からアップし、計4.34か月分となりました。
賞与は正社員だけでなく、パート社員にも支給しています。支給率は正社員と同一ではないものの、日頃の貢献に感謝の意を込めてお応えできる仕組みを整えています。
賞与額の決定にあたっては、社員一人ひとりの仕事内容や成果、スキルの発揮度合いを基準としています。特に、多能工として生産性向上に貢献しているかや、周囲に良い影響を与える姿勢や言動なども評価の対象となります。
これまでは評価基準に曖昧な部分もありましたが、今後は明確な指標を設ける仕組みへと移行し、評価の透明性と公平性をさらに高めていく方針です。
また、賞与以外に社員へ利益を還元する取り組みとして、従来の手当制度(家族構成や性別によって差が出ていた部分)を見直し、誰もが公平に受け取れる制度へ改善する準備を進めています。プライベートな事情に左右されず、誰もが等しく還元される仕組みづくりを通じて、社員が安心して働ける環境を整えることを重視しています。
給与や賞与については、年齢や社歴に関わらず、それぞれの立場での頑張りや成長が正当に評価され、処遇としてきちんと反映される「透明性の高さ」を大切にしています。実際に、高い成果を上げた社員は、年齢にかかわらずそれに見合った処遇を得ています。
今後も継続的に社員への還元を行い、同規模企業の平均を上回る水準を目指していく考えです。会社の成長を業績と連動した持続可能な形で社員に還元し、制度の透明性をさらに高め、社員一人ひとりが自らの成長と処遇のつながりを明確に実感できる仕組みづくりを進めてまいります。
働きやすさへの具体的なアプローチと現在の姿
給与面だけでなく、間接部門では3か月ごとに残業時間の上限目標を私(社長)と設定し、週末に実績を社内公表することでサービス残業を防止しています。直近の月平均残業時間は間接部門で約9時間、営業部門で約19時間、製造部門で約21時間と部門によって差はありますが、どの部門も1年を通して残業が続くわけではありません。例えば製造部門においては、12月後半から3月にかけてほぼゼロに近い水準になるといった繁閑差があります。
残業が発生する主な理由は、マンション向けのオーダーメイド製品を取り扱っている都合上、工期の変更や納品スケジュールの集中が起こるためです。
こうした繁忙期には残業が多くなる傾向がありますが、勤務時間の管理については、工場の現場はタイムカード、事務部門や営業は自己申告制を採用して正確に記録しており、実際に勤務した時間に対して適正に残業代を支給することを基本方針としています。
勤怠管理と残業の申請フローについてですが、間接部門の勤怠管理は毎日勤務表に記入し、週1回上司が内容に相違がないか確認しています。残業申請については3か月に1回の面談にて、上司と本人の双方合意のもと月の残業時間を決定します。設定した残業時間をオーバーしそうな場合は、上司に相談し時間の追加を行うか、遅出・早退で時間調整を行います。
直接部門の勤怠管理は出退勤時に入力したタイムカードのデータを集計し、残業申請は直接勤務表に記入し上司の承認を得る仕組みです。実態に即した正しい残業時間の計算および残業時間削減につなげるため、間接部門・直接部門とも週末に残業時間を集計し、社内メールにて公表しています。
さらに、当月において残業可能な残り時間の表記やアラーム表記によって注意喚起も行っています。毎週の集計は全社員に共有し、記録に食い違いがあれば修正する仕組みも取り入れています。
こうした取り組みの結果、勤務時間における社員の作業集中度が上がり、夜遅くまで残る姿はほとんど見られなくなりました。今後は、社員一人ひとりの事情や希望を考慮しつつ、可能な限り定時で業務を終える働き方を目指します。
やむを得ず休日出勤が発生した場合も、必ず振替休日を取得することを推奨しており、社員の休日確保に努めています。
休日出勤が必要となるのは、主に「複数の物件進捗が重なった場合」「施工現場の都合による緊急対応」「お客様からの突発的なお申し出への対応」といった場面ですが、現状において休日出勤はさほど多くは発生していません。
もちろん、特定の社員に業務負荷が偏っている場合は、上席者が業務分担の見直しや人員配置の調整を行う体制を整えています。中・長期的には生産性を高めることが社員の休日確保につながると考え、今後も工場設備への積極的な投資を継続し、省人化と生産性向上を促進していく考えです。
給与や賞与の支給額の見直し、残業時間削減、現場業務の効率化といった労働環境改善の積み重ねは、直近の「新卒定着率100%(2023年度)」などの素晴らしい結果に結びついています。
また、社員の結束力強化のために定期的に実施している釣り大会やボウリング大会といったレクリエーションも、コミュニケーションの活性化を促し、働きやすい雰囲気づくりにつながっていると考えています。
これからの姿
これからの働き方を見据え、今の企業にとって必要とされるキーワード、例えばデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、環境への配慮、個人の尊重などには積極的に取り組んでいかなければならないと考えています。もちろん、すでに取り組んでいることもいくつかありますが、今後はもっとスピード感を持って動いていきたいですね。当社の社員は、「会社の評価を高めることが自分自身に返ってくる」という意識をモチベーションの源泉としている人が多いと感じています。
社員への還元という意味では、福利厚生をさらに充実させたいという考えもあります。社員同士が活発にコミュニケーションを取り合える機会も増やしたいと思っており、全社員が参加できるイベントもイメージしています。 もちろん、全社員一斉に参加するイベントだけでなく、少人数のグループによるサークル活動なども想定しており、それらの取り組みに必要な費用については、会社として補助をする考えです。
現在の当社には約170名の社員が在籍していますが、社内風土といいますか、社員一人ひとりの意識に変化をもたらすことができる制度や仕組みを今後も取り入れていきたいと考えています。すべての社員が成長を実感できるような労働環境を整えていくことはとても大切ですから、さらなる取り組みの充実を図っていきます。