2026年で17年目を迎える、宣伝会議サミット。2009年から続くこのイベントは、常に時代のトップランナーの皆様と共にマーケティング界の最前線を走ってきました。
しかし、イベントが乱立し「ブランド」という言葉も氾濫する今、宣伝会議サミットはどこへ向かうべきなのか。

変化の激しい現代において、ブランドのあり方そのものが根底から覆ろうとしている中で、今年のテーマである「BRAND × AMPLIFY(ブランド×増幅)」に込められた真意、そしてAI時代にブランドが直面する「カオス」とは。宣伝会議 編集長の谷口 優が、宣伝会議サミットの成り立ちから過去の葛藤、そして未来への覚悟を語ります。

「完成品でなくていいのかもしれない」宣伝会議 編集長が語る、...の画像はこちら >>


株式会社宣伝会議 取締役 月刊『宣伝会議』編集長 谷口 優

「座談会」から始まった宣伝会議のアイデンティティと、17年目の原点回帰

Q. 今年で17年目を迎える宣伝会議サミットですが、改めてこのイベントの「核」とは何でしょうか?

広告をはじめとする企業のコミュニケーション活動は、短期的なプロダクト・サービスの売上拡大に貢献するマーケティング目的もあれば、中長期的に企業価値を高めるコーポレートブランド確立を目的とするものもあると思います。

宣伝会議サミットでは、短期的に売上に貢献するマーケティングの投資効果の話題だけでなく、企業ブランドを高め、企業価値向上に資する、コミュニケーションやクリエイティブの在り方も議論する場として、2009年から開催してきました。広告やマーケティングの“首脳陣”が集まり、本質的なアジェンダに向き合うことを最大のコンセプトとしています。

実は、私たちの「宣伝会議」という社名自体が、こうした「本質的な議論の場を作る」というアイデンティティに由来しているのです。

1954年の創刊当時、製薬会社の宣伝部長たちが集まり、架空の薬の広告戦略をどう立てるかについて、他社の垣根を越えて本音で議論を交わした「座談会」、つまりは「宣伝会議」が私たちの原点です。参加者全員で一つのアジェンダに対して知見を結集し、議論する「会議」の場を作ること。それこそが、私たちがサミットを通じて皆様にご提供したい最も重要な価値だと考えています。

「完成品でなくていいのかもしれない」宣伝会議 編集長が語る、AI時代のブランド戦略と「カオスの許容」——宣伝会議サミットが17年目に目指すもの


創刊書に掲載された<新「水虫薬」>宣伝の座談会

Q. 歴史あるイベントですが、これまで順風満帆だったのでしょうか。苦労や葛藤があれば教えてください。

長く続けていく中での難しさや葛藤は、常に抱えています。
過去のサミットを振り返ると、例えば自動車メーカーの宣伝部トップ同士による対談など、アグレッシブで挑戦的な企画を数多く実現してきました。

しかし、イベントを安定して継続していく中で、少しずつ守りに入ってしまったり、大胆なチャレンジ精神が薄れて「弱腰」になってしまっていた時期もあったかもしれない、という反省もあります。だからこそ、17回目を迎える今年は、改めて私たちが培ってきた「強いアジェンダを提示し、議論を巻き起こす」という原点に立ち返りたいと考えています。表面的なノウハウだけでなく、業界を牽引する皆様が本当に知りたいこと、議論すべきテーマを全力でぶつける場にしていきたいと考えています。

「完成品でなくていいのかもしれない」宣伝会議 編集長が語る、AI時代のブランド戦略と「カオスの許容」——宣伝会議サミットが17年目に目指すもの


 第1回宣伝会議サミット(旧SIMCフォーラム2009)の様子。アドタイも当時は新聞。

 リーマンショック後の開催、不況の現状を打開するために多くの来場者が。    

「意図通りに伝わらない」を受け入れる。現代のブランド担当者に必要なネガティブ・ケイパビリティ

Q. そうした強い想いの中で設定された今回のテーマ「BRAND × AMPLIFY(ブランド×増幅)」の背景を教えてください。

今、ブランドと生活者の関係性には大転換が起きています。最大の要因は、AIの急速な普及とSNSアルゴリズムの変化です。これらによって、企業側が「生活者との情報接点を意図的にコントロールする」ことは、本質的な意味でほぼ不可能になりました。


それゆえ、ブランドイメージの形成において、企業側の発信だけでなく、UGCがこれまで以上に大きな影響を与えています。

ブランドはもともと、企業側が意図的に作り上げられるものではありませんでしたが、ますます自分たちが想定しないブランドの解釈が広がり、さらにはその解釈が再編集される時代に突入しているのだと思います。

こうした変化に抗って無理にコントロールを取り戻そうとするのではなく、むしろ適応していく必要があります。生活者の手によって解釈と発信が連鎖し、ブランドが「増幅」していく現象そのものをポジティブに捉えようというのが、今回の「AMPLIFY」というテーマの狙いです。

たとえ企業が当初持っていたイメージと違う形に変化したとしても、その「増幅の量と多様性」を持っていることこそが、これからの時代におけるブランドの強さになるという、大きな戦略の転換に向き合いたいと考えました。

Q. 企業が接点やイメージをコントロールできない時代において、ブランドはどうあるべきだとお考えですか?

以前であれば、「すべての人に同じ、画一的なイメージを持たれている状態」が、強いブランドの証だとされていたと思います。しかし今は、その常識が転換しています。むしろ、多様な文脈や様々な「界隈」の人たちから、異なる解釈を持たれている方が、結果としてに強いブランドになり得るのです。

企業側から見れば、自分たちが意図したイメージとは異なる形で受け取られたり、解釈が一人歩きしたりするのは、ある意味で「カオス」な状況であり、恐れを抱くのも当然だと思います。しかし、均一なイメージを無理に保とうとするよりも、多様な捉え方を許容し、さらには増幅(AMPLIFY)をさせていく度量が求められています。

すぐに答えが出ない不確実な状況に向き合い、耐え続ける「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念があります。

ブランドを企業が一方的に規定するのではなく、多様な生活者による解釈の中で育まれていく時代においては、時に自社が想定していなかった意味づけや文脈が生まれることもあります。
そうした状況に対して、拙速に一つの正解を求めたり、過度に統制したりするのではなく、多様な解釈が共存するカオスな状態を受け止めながらブランドの可能性を見守る。こうした姿勢こそが、これからのブランド戦略には不可欠になってくるのではないでしょうか。

「完成品でなくていいのかもしれない」宣伝会議 編集長が語る、AI時代のブランド戦略と「カオスの許容」——宣伝会議サミットが17年目に目指すもの


現場のスタンスはどう変わるべきか? 強い「意思」を起点に、生活者が関わりたくなるトリガーを仕掛ける

Q. そのような「カオスの状態に対する許容」が求められる中、実務担当者は具体的にどのようなスタンスで取り組めばよいのでしょうか?

「生活者の解釈に委ねる」「多様性を許容する」といっても、企業側に何も芯がない状態で放り投げてしまっては、単なるブランドの崩壊を招くだけです。大前提となる起点は、企業としての「私たちのブランドはこうあるべきだ」という強い意思や、核となる思想を明確に持つことだと思います。

その上でアプローチの一つとして考えられるのは、最初から「100%完成されたコンテンツ」を提示する形ではないのかもしれません。コミュニケーションやクリエイティブを、あえて「ベータ版」のような余白のある状態で世に出してみる。そして、そこに対して生活者が自らの文脈で関わりたくなったり、思わず発信したくなったりするような「トリガー(仕掛け)」を意図的に組み込むことが大事なのかな、と思っています。



例えば、ゲームなどのIT業界では、開発途中の「ベータ版」で公開し、プレイヤーの率直な意見を取り入れたり、コミュニティの中で起こる現象を参考にしながら、一緒にゲームをアップデートし続ける文化が根付いていますよね。これからは生活者等ステークホルダーを巻き込み、ブランドを一緒に育てていく感覚ですよね。

Q. 最後に、今回のサミットへの参加を検討されている方へメッセージをお願いします。

宣伝会議サミットでは、「これさえやればマーケティングが上手くいく」といった、一つの明確な正解や成功法則を押し付けるようなことはあえてしていません。

今や、ネットで検索しても、AIに聞いても、ビジネスの確実な正解など出てこない時代です。
だからこそ、最前線で悩み、挑戦を続けているトップマーケターやクリエイターたちの「頭の中にあること」を、その場でリアルに引き出すことが何よりも重要だと考えています。そこは、長年にわたり取材を通じてプロたちの本音に迫ってきた、私たち宣伝会議の編集長や編集者によるモデレートの腕の見せ所でもあります!

「完成品でなくていいのかもしれない」宣伝会議 編集長が語る、AI時代のブランド戦略と「カオスの許容」——宣伝会議サミットが17年目に目指すもの


オンラインの画面越しでは決して体感できない熱量や、その場でしか生まれない予定調和ではない議論がサミットにはあります。ぜひ会場に足を運んでいただき、多様な議論の中から、皆様ご自身のビジネスにとっての「正解」を見つけるヒントを持ち帰っていただければと願っています。

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