トランプ大統領が推奨している未承認薬、抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」。米南部テキサス州の医師が、共和党のコネを使い入手し、年配の新型コロナウイルス患者へ"同意なし"に投与していたことがわかった。
「これは本当にに由々しき事態です」と医薬品化学者のキャサリン・シーリー=ラッドキ博士は、警鐘を鳴らす。

米南部テキサス州の医師が共和党の政治家とのコネを利用して抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」を確保し、高齢者福祉施設の新型コロナウイルス陽性患者への投与を開始した。患者と家族のなかには、トランプ大統領が強く推奨している未承認薬が投与されていることを知らない者もいる。

テキサス州テキサス・シティにある高齢者福祉施設、ザ・リゾート・アット・テキサス・シティの院長で自らも医師として勤務するロビン・アームストロングは、今月初めに同施設で起きた新型コロナウイルスのクラスター感染を受け、「観察研究」と呼ぶ試みを始めた。米公共ラジオネットワークNPRが報じたところによると、同施設では患者ひとりが亡くなり、87人が新型コロナウイルス陽性となった。そのうち、56人が同施設の入居者で、31人がスタッフだ。


2006~2010年にわたってテキサス州共和党(RPT)の副議長を務めたアームストロングは、同州のダン・パトリック副知事(共和党)に連絡を取り、副知事は数回にわたって応じた。その2日後に「アームストロングは患者に投与し始めるのに十分な量の薬を受け取った」とNPRは報じている。

「実際のところ、順調ですよ。患者たちは快方に向かっています」と新型コロナウイルスの治療薬としてアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認していない薬を投与された39人の患者についてアームストロングは述べた。

さらにアームストロングは「ほとんどの」入居者にヒドロキシクロロキンの錠剤を与えることを伝えていると付言する一方、患者または家族の明白な同意が「不要」なだけでなく、入居者のなかには中等度の認知症を抱えている人もいると言い添えた。

アームストロングは患者の健康をモニターしており、「何らかの報告書」として結果を提出すると述べた。


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「これはほんとうに由々しき事態です」と米メリーランド州ボルチモア・カウンティにあるメリーランド大学の医薬品化学者キャサリン・シーリー=ラッドキ博士は述べた。

「この件の問題点は、正当な科学的手順を踏んでいないことです」とシーリー=ラッドキ博士は言った。「管理されたやり方でもなければ、厳しい検査規程にもとづいておらず、しかるべきガイドラインにも準拠していません」。

「大統領をはじめとするすべての人が(検査などのプロセスは)大した問題ではないと考え、この薬を飲んでいることにただただ驚いています」と博士は言い足した。

大統領、ヒドロキシクロロキン、アームストロング医師の「研究」の欠点だらけの方法論に関するシーリー=ラッドキ博士の見解は正しい。免疫学者で米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長を務めるアンソニー・ファウチ医師をはじめとする医療スペシャリストがヒドロキシクロロキンの効果に関する事例証拠を受け入れることに警鐘を鳴らし続けてきたにもかかわらず、米NBCの言葉を借りれば、トランプ大統領はヒドロキシクロロキンを熱心に勧める「テレビショッピングMC」のように使用を推奨しているのだ。
これは危険なことである。それだけではない。FDAによると、すべての臨床試験は、厳格なガイドラインを順守しなければならない。人権保護とプライバシー保護に関するインフォームド・コンセント(説明を受け納得したうえでの同意)もそのひとつだ。さらに、人体を使用した試験は、安全性かつ倫理的であることを保証するため、施設内倫理委員会(IRB)によって承認されなければならない。

アームストロングと彼の高齢者福祉施設に関して言うなら、NPRは施設を調査し、その結果が安心させられる内容とは程遠いと述べた。
2019年7月に最後に調査が行われた際、14件の違反を指摘されているのだ。そのなかには、安全基準に準拠していない建築デザインと、調理場やほかのエリアでの衛生問題も含まれていた。さらに、報告書は「同施設は、特殊なサービスを必要としている入居者に適したケアを提供していません」と主張し、高齢者福祉施設であれば本来は問題なく対応しているべき衛生面でのニーズをいくつかリストアップした。

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