とくに注目すべきは、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞、最優秀新人賞からなる主要4部門を女性アーティストが独占した点だ。
ミーガン・ジー・スタリオンも歴史的快挙を成し遂げた。というのも、女性ヒップホップアーティストが最優秀新人賞を受賞するのは、1999年のローリン・ヒル以来なのだ。さらにテキサス州ヒューストン出身のミーガンは、ビヨンセとのコラボ曲「Savage」のリミックスで最優秀ラップ・ソング賞と最優秀ラップ・パフォーマンス賞を受賞。受賞後は、タップダンサーとともにハリウッドの黄金時代を彷彿とさせる「Body」と「Savage」の見事なパフォーマンスを繰り広げ、カーディ・Bとの大ヒットコラボ曲「WAP」を初めてライブで披露した。
3月14日は、ビヨンセにとっても歴史的な夜となった。最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞した「ブラックパレード」をはじめ、4部門に輝いた彼女の累計受賞回数はなんと28回。これは、31回という最多記録保持者である指揮者のゲオルグ・ショルティに次ぐ記録だ。それだけでなく、ビヨンセとジェイ・Zの愛娘ブルー・アイビーも母ビヨンセとともに初のグラミーを受賞。
生中継の授賞式で発表されたほかのアワードも紹介しよう。ハリー・スタイルズの「Watermelon Sugar」が最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞し、スタイルズにとって記念すべき初グラミーとなった。さらには、バッド・バニーのアルバム『YHLQMDLG』が最優秀ラテン・ポップ/アーバン・アルバム賞に輝いた。デュア・リパは、アルバム『フューチャー・ノスタルジア』で最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞を受賞した。
当然ながら、新型コロナのパンデミックによって2021年のグラミー賞授賞式は例年とはかなり違うものになった。授賞式のオーディエンスは主要部門にノミネートされたアーティストのみで、彼らはカリフォルニア州ロサンゼルスのステープルズ・センター近くの屋外スペースに設置されたテーブル席にソーシャルディスタンスを保ちながら着席した。それでも、昨夜の授賞式にはいつもと変わらない点もあった。平時であっても、グラミー賞は実際の受賞の場面に30分以上を割くことはなく、残りの3時間もパフォーマンスでぎっしり埋められている。
それでもはやり、今年の授賞式は無駄のないすっきりとした印象を与えた。お決まりの「グラミー・モーメント」という、ときには感動的だが、総じてヤラセっぽい退屈なコラボ演出もなく、ノミネートされたアーティストに焦点が当てられる一方、実際のオーディエンスがいないことで親近感のあるパフォーマンスとなった。
授賞式は、コメディアンのトレバー・ノアによるテンポの良い独白でスタート。
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授賞式には事前に収録されたパフォーマンス映像もいくつか含まれていたものの、プロダクション全体はスムーズな印象を与えた。テイラー・スウィフト、ジャック・アントノフ、アーロン・デスナーは手の込んだセットを舞台に『フォークロア』の楽曲を披露し、ダベイビーはダイヤを散りばめたようなグローブをはめ、バイオリニストと連邦最高裁判所の判事のようなローブ姿のバックコーラスを携えてロディ・リッチと「Rockstar」を披露した。キラー・マイクと活動家のタミカ・マロリーとともに警察による暴力を非難するリル・ベイビーのプロテストソング「The Bigger Picture」のパフォーマンスは、とくに胸に迫るものがあった。
ミッキー・ゲイトンは、カントリー部門で初めてグラミー賞にノミネートされた黒人女性として歴史を刻んだ(ヴィンス・ギルが最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンスを受賞したため、受賞は逃した)。ゲイトンによる美しい「Black Like Me」のパフォーマンスによってカントリー部門のパフォーマンスが幕を開け、ミランダ・ランバートが「Bluebird」を披露した。ジョン・メイヤーをギタリストに迎えたマレン・モリスの「Bones」がカントリー部門のトリを飾った。
その後、ポスト・マローンが息をのむほどスタイリッシュなステージで「Hollywoods Bleeding」を披露し、ドージャ・キャットがヒット曲「Say So」で観る人を未来へと誘う。BTSは韓国・ソウルの屋上から「Dynamite」を披露した。ラストを飾ったのはロディ・リッチ。
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追悼コーナー「イン・メモリアム」では、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークのシルク・ソニックがリトル・リチャードの「Long Tall Sally」と「Good Golly Miss Molly」を披露し、故人を偲んだ。ライオネル・リッチーは、友人ケニー・ロジャースとブランディ・カーライルとともにカントリー・フォークシンガーのジョン・プラインが生前最後にレコーディングした楽曲「I Remember Everything」を歌った。アラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードとコールドプレイのクリス・マーティンによる感動的な「Youll Never Walk Alone」によってイン・メモリアムは幕を下ろした。1945年のミュージカル『回転木馬』のために作曲された同楽曲を有名にしたのがジェリー&ザ・ペースメイカーズだ。バンドのフロントマンのジェリー・マースデンは、2021年1月に他界している。
3月14日の夜のハイライトはアーティストたちによるパフォーマンスだった。それに対し、歴代の最優秀レコード受賞者をフィーチャーし、いたるところに散りばめられていた短編ドキュメンタリーは精彩を欠いた(アカデミー賞やゴールデングローブ賞から拝借した穴埋め的な要素にしか思えない)。だが、ニューヨークのアポロ・シアター、テネシー州ナッシュビルのステーション・イン、ロサンゼルスのトルバドールやザ・ホテル・カフェなど、パンデミックによって危機的状況に陥った独立系ライブ会場のオーナーや従業員に受賞者を発表してもらうという主催者のレコーディング・アカデミーの試みは、こうしたライブハウスの現状に人々の目を向けさせるという点で素晴らしかった。
例年どおり、実際の賞の大半は生中継前に手渡されている。14回にわたるノミネーションを経て、ナズの『Kings Disease』が最優秀ラップ・アルバム賞を受賞。念願のグラミーを手に入れた。
その他のグラミー賞初受賞者には、次のアーティストが含まれる。ナイジェリアの人気シンガーソングライターのバーナ・ボーイ(『Twice as Tall』が最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞を受賞)、ティファニー・ハディッシュ(『Black Mitzvah』が最優秀コメディ・アルバム賞を受賞)、ザ・ハイウィメン(「Crowded Table」が最優秀カントリー・ソング賞を受賞)、シンガーソングライターデュオのギリアン・ウェルチ&デヴィッド・ローリングス(『All the good Times』が最優秀フォーク・アルバム賞を受賞)。有名プロデューサーのケイトラナダは、『Bubba』で最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞と、シンガーソングライターのカリ・ウチスとのコラボ曲「10%」で最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞し、2冠を達成した。
ほかにも、フィオナ・アップルの『Fetch the Bolt Cutters』が最優秀オルタナティブ・アルバム賞を、同作に収録されている「Shameika」が最優秀ロック・パフォーマンス賞を受賞。サンダーキャットの『It Is What It Is』が最優秀プログレッシブ・R&B・アルバム賞、レディー・ガガとアリアナ・グランデのコラボ曲「Rain on Me」が最優秀ポップ/グループ・パフォーマンス賞、ジョン・レジェンドの『Bigger Love』が最優秀R&Bアルバム賞、ミランダ・ランバートの『Wildcard』が最優秀カントリー・アルバム賞に輝いた。
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今年は、他界した数名の大物アーティストにも死後受賞という形でアワードが贈られた。ジョン・プラインの「I Remember Everything」が最優秀アメリカン・ルーツ・ソング賞とパフォーマンス賞を、レゲエ界のレジェンド、トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズのリーダー、トゥーツ・ヒバートの『Got to Be Tough』が最優秀レゲエ・アルバム賞を、ジャズ界の巨匠チック・コリアの「All Blues」が最優秀インプロバイズド・ジャズ・ソロ賞を、コリアとクリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドのトリオによる『トリロジー2』が最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞を受賞した。
From Rolling Stone US.