ナイトメアズ・オン・ワックス(NOW)と言えば、名門〈WARP〉最初期から属し、1995年、トリップホップの完成形とも言える出世作『Smokers Delight』にて、ダビーでソウルフルなブレイクビーツ・ダウンテンポ・サウンドを確立。以来、マイペースに現在まで作品をリリースし続けている。
そんなNOWの通算5枚目、2006年にリリースされた人気作『In A Space Outta Sound』の20周年企画として、このたびエイドリアン・シャーウッドによるダブ・アルバム『In A Space Outta Dub』がリリースされた。NOWのディスコグラフィのなかでも特にレゲエやルーツ・ダブの影響などが強いサウンドを、UKダブの先輩格とも言える巨匠が手がけた形となった。

ここ数年のエイドリアン・シャーウッドと言えばリリースも活発だ。自身が率いる〈ON-U Sound〉からは、意外なことに初コラボとなったシンガー、ホレス・アンディの作品、長年のレーベルを支えてきたアフリカン・ヘッド・チャージやクリエイション・レベルといったベテラン勢のひさびさの新作をプロデュース。またスプーンやソニック・ブーム&パンダ・ベアなど、ロック畑のアーティストのダブ盤を手がけるなどしている。50年に達そうかというそのキャリアにおいて、アーティストとして、いままた新たなピークを迎えつつあるようなエネルギッシュな活動を行っている。その証拠に2025年には13年ぶりのソロ名義『The Collapse Of Everything』をリリースしたばかりだ。

こうした旺盛な活動は本作にももちろん良いフィードバックを与えているのだろう。それを端的に表すのが、これらのプロダクションを支えたミュージシャンたちによる、ダブ・ミックスだけに留まらない「リアレンジ」が本作のサウンドの肝だ。そのアレンジ、そのミュージシャンの差配は、単なるダブ・エンジニアだけに留まらないプロデュース力は、いわばUKダブの名将ここにありと唸るばかりのサウンドを生み出している。なにより本作をより生々しく、オリジナルとはまた別のグルーヴによってダブ・ミックスの魅力をさらに高めているのが全曲できこえるダグ・ウィンビッシュのベースラインだ。ダグの他にはアレックス・ホワイトなど昨年のライブで帯同したミュージシャンたちを中心に、敏腕ミュージシャンたちの演奏とNOWの原曲をまとめあげ、昨今の〈ON-U Sound〉なサイケデリックな音像を生み出している。
もちろん、作風は違うが、よりダウンテンポなサウンドに特化した『The Collapse Of Everything』を考えると、その音の趣向性からして本作を手がけるのにベストなタイミングだったというのもあるのではないだろうか。

※エイドリアン・シャーウッド、ナイトメアズ・オン・ワックスを迎えた来日公演「DUB SESSIONS 2026」が9月に開催決定。詳細は記事末尾にて

単なるダブ・アルバムではない、SF風の再構築

─今回、このアルバムを手がけることになった経緯を教えてください。

エイドリアン:ちょうどあのレコード(『In A Space Outta Sound』)のアニバーサリーで、ジョージ・エヴリン(NOW)と僕はお互いの作品を気に入っていたから今回の話が出たんだ。ジョージに話したら、彼が俺を信頼してくれて、あのレコードを再解釈するのを任せてくれたんだよ。

─ということは、ジョージとは以前から交流があったんですね?

エイドリアン:個人的な付き合いはなかったんだ。お互いの存在は知ってたけどね。共通の友達もいたし、お互い尊敬はしあってた。でも彼は俺からすごく離れた場所に住んでいるし、実際に会ったことはなかったんだ(※現在ジョージは地元リーズを離れ長らく、スペインのイビザ島に住んでいる)。

─今回のプロジェクトに際して、ジョージとはコミュニケーションを結構とりましたか?

エイドリアン:かなり話したよ。彼とは常に確認をとり続けた。俺が目指している方向性を示すためにね。
彼が気に入ってくれたものもあれば、あまり気に入らなかったものもあった。完成した結果にお互いが満足できるまで作業を続けたんだ。

─結構自由にやらせてくれたのでしょうか?

エイドリアン:具体的な指示はなかったな。ただ自分のスタイルで、普段通りにやってくれと言われた。それで彼に聴かせた時、一つ気に入らないところがあったからやり直したら、今度は気に入ってくれた。やり直しに関しては、そういう感じだったんだ。要は、自由にやりながら、正しい結果が出るまでやり直すという感じの流れだったね。

─今回はオリジナルのLP収録に合わせたものだと思いますが、ダブ・リミックスされた楽曲を選んだのはあなたですか?

エイドリアン:そうだよ。

─選曲のポイントは何だったのでしょう?

エイドリアン:他のダブ・アルバムをやるときと同じく、自分が本当に何かを加えられると思うもの、自分の好みに合うもの、自分の雰囲気に合うものに基づいて選んだよ。

─ 『In A Space Outta Sound』のオリジナルを今回、聴き込んだと思いますが、どのような感想を持たれましたか?

エイドリアン:あのレコードのことはすでに前から知っていたんだ。あのレコードの感想と言えば、まずは俺の周りにいる素晴らしいプレイヤーたちを使ってこのレコードを作りたい、と思える内容だった。例えば、ダグ・ウィンビッシュとかね。
作業は本当に楽しかった。基本的には、俺のアルバム『The Collapse of Everything』で使ったのと似たような手法で、古い素材を俺たちのスタイルで甦らせていったんだ。

エイドリアン・シャーウッドが語る、Nightmares On Waxの名盤「ダブ・ミックス」の裏側、故スライ・ダンバーの記憶

ナイトメアズ・オン・ワックス

─NOWのサウンドは、あなたがやってきたダブ・ミックスをレゲエだけでなく、さまざまな音と音の接着剤として使うということを、ヒップホップやブレイクビーツ、ジャズやソウルといったサウンドにて展開したものだと思います。ある意味で現代のダブステップなどにしても、UKサウンドのお家芸とも言えそうですが、その大きなルーツにあなたの存在があると思うのですが、その意見についてどう思いますか?

エイドリアン:ダブステップは違うと思う。ダブステップが流行り始めたとき、俺はそこにいて、皆がやってることにすごく感銘を受けたんだ。ルーツというより、お互いに刺激し合っているんだよ。正にジャマイカの「Each one Teach one」(お互いに教えあう)っていう格言の通りさ。偉大なプロデューサーの1人、マーラは、俺自身大ファンだったし、彼も〈On-U Sound〉を気に入ってくれていたしね。そうやって全ては進化するんだ。ダブもジャングルやダブステップへとあらゆるものへ進化していったけれど、俺はそれに貢献したなんて言えない。ただ、パイオニアとして初期の頃からレゲエ、つまりジャマイカの音楽に携わっていたというだけさ。

─今回、ダブ・アルバムに際して、どのようなサウンドにしようと考えていたんですか?

エイドリアン:これは単なるダブ・アルバムではなく、ピュアなダブ技術を用いて、オリジナルを完全にSF風に再構築したものなんだ。
つまり、とにかく本当に美しいサウンド作品を作りたかったんだよ。

─ダブ・アルバムとして、まずはじめに聴いたときにすべての楽曲において、ベースラインが特に印象的で、あとからクレジットを確認したらあなたの長年のコラボレイター、ダグ・ウィンビッシュだったので納得しました。打ち込みやパーカッションなどドラムはあなたが手がけているようですね。こうした制作スタイルを選んだのにはなにか理由はありますか?

エイドリアン:選んだというか、それが俺のスタイルなんだ。そして、俺はそのスタイルを維持して進化させてきた。そうしてきた理由は、継続性だと思う。ダグにアルバム全体で演奏させたり、ギタリストのマーク・バンドーラを起用したり、様々な要素を組み合わせて俺の独自のテクニックと融合させることで、ひとつの作品としてまとまるようにしているんだ。それが俺の目指すところなんだと思う。

─今回特に意識したことは?

エイドリアン:今回は、とにかく新鮮に聴こえるようにした。つまり、オリジナルに十分近いけれども、同時にレコードを買った人たち、誰をも虜にするような、オリジナルとは十分違いを持った作品を作りたかったんだ。

─難しそうですね。

エイドリアン:いや、実はそうでもない。
オリジナルで特定の部分を強調したい時があるとするだろ? オリジナルでは後ろに隠れていた部分をダブ・アルバムのほうで前面に出したくなったり、逆に前面にあった部分を少し控えめにしたり。メロディのパーツを再構築したり、グルーヴの作り方を少し変えたり。これらの作業は本当に楽しいんだ。この作業は喜びだよ。まあ、何事も多少の苦労は伴うけど、嫌な苦労じゃないんだ。楽に物事が進むことなんて滅多にないしね。それに、一緒に働いている人のために良い仕事をしたくなる。今回は彼との共同作業だったから、コミュニケーションをとり続け、最終的にお互いが納得のいく作品を作り上げることができたんだ。

─その他にも今回多くの部分をあなたの作品によく関わっているアーティストたちが生演奏でアレンジしています。こうしたアレンジのときは、それぞれの演奏者と綿密にやりとりをしますか? それとも彼らに比較的まかせて数テイクとり、そこから再構築する感じなのでしょうか?

エイドリアン:ミュージシャンとは当然全工程を通じてコミュニケーションを取って自分の要望を伝える。そして、同時に彼らにも自由を与え、俺が思いもよらなかった要素を取り入れられるようにもしている。それこそがプロデュースという仕事だと思うんだ。
創造的な人々を縛り付けたくはない。彼らには素晴らしいものを生み出してほしいからね。

─原曲はもともとサンプリング・ループなどが元になっていますが、いわゆる生演奏のバンドをダブ・ミックスするときと比べて、アレンジなどで苦労した部分などはありますか?

エイドリアン:既存の要素を追加要素の適切なバランスを取ること。特定の曲はかなり特徴的で有名でもあったから、フックの部分は残しつつも何かを加えるということが課題だった。でも、それほど難しくはなかったけどね。それを超えて楽しかったから。

故スライ・ダンバーの記憶

─ここ最近でいえば、スプーンやパンダ・ベア&ソニック・ブームのようなロック・バンド作品の再構築などの作業での経験が生かされた部分はありますか?

エイドリアン:確実に助けにはなったと思う。特にスプーンは大きな挑戦だったんだ。今までやったこととは全く違っていて、他のどの作品よりも時間がかかったからね。でも俺に取ってはすごく良い練習になったし、スプーンのブリット(・ダニエル)はなかなか満足させにくい人だから、それがよかった。冒険みたいな経験だったんだ。ソニック・ブームとパンダ・ベアはもっとサイケデリックで、トリップした感じだった。あれは楽しかったな。どの作品も、ダグもそうだし同じチームか似たメンバーで制作しているんだ。そしてその結果、素晴らしい作品が生まれていると思う。

─本作で最も気に入っている曲はどれでしょうか?

エイドリアン:それは選べないな。全曲好きだから。ライブでは「Flippin Eck」をよく演っている。あの曲はすごく迫力があるからね。でも必ずしもあの曲が一番のお気に入りというわけじゃない。「On Purpose」も好きだし、全部好きだな。

─最後に質問で、今回の作品とは関係ありませんが、先日ついにスライ・ダンバーが亡くなりました。あなたと言えばやはりダブ・シンジケートを通して、ジャマイカのドラマーでいうと故スタイル・スコットとの仕事が多い印象があります。スライは初期のソロ作で共演をしていますが、彼のことはどう思いますか?

エイドリアン:スライとは本当に素晴らしい思い出がある。彼の音楽への貢献は、信じられないほど重要で偉大だった。彼とは少しだけ仕事をする機会があって、あの経験を得ることができたのは本当に幸運だったよ。俺は17歳の時に、スライの初の作品をUKでリリースしたんだ。だからスライに会うたびに「君の初のプロデュース作品をリリースしたのは俺だ」と言っていた。彼は本当に素晴らしい人間でね。ある週は、世界中のスーパースターのために演奏して大きなセッションで高額な報酬を得ていたと思えば、その次の週にはキングストンの貧しい地区に行き、金銭的に苦しむ人々のために安いギャラでセッションに参加していた。金、金、金な人間では全くなく、彼が仲間を見捨てたことは一度だってない。ボブ・マーリー亡き後、ジャマイカ音楽の旗を誰よりも高く掲げたのが彼だった。あのグルーヴと音楽を貫き、絶対的な尊敬を集めたのがスライだったんだ。

─以上です。ありがとうございました!

エイドリアン:こちらこそありがとう。

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エイドリアン・シャーウッドが語る、Nightmares On Waxの名盤「ダブ・ミックス」の裏側、故スライ・ダンバーの記憶

Nightmares on Wax VS Adrian Sherwood
『In A Space Outta Dub』
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エイドリアン・シャーウッドが語る、Nightmares On Waxの名盤「ダブ・ミックス」の裏側、故スライ・ダンバーの記憶

DUB SESSIONS 2026
feat. ADRIAN SHERWOOD VS NIGHTMARES ON WAX
2026年9月9日(水)東京・Spotify O-EAST
2026年9月10日(木)大阪・Yogibo META VALLEY
OPEN / START 18:00
チケット:前売8,000円(税込 / 別途ドリンク代 / オールスタンディング)
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15671
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