中国が自主開発した第5世代ステルス戦闘機J-35。米F-35の対抗馬とも目され、輸出市場に本格投入されれば、中東の戦闘機商戦を揺さぶる存在になるかもしれない
2月28日に開戦したイラン・アメリカ戦争は、まだ終わる気配を見せない。
評判を落としている米国製戦闘機。その隙を狙う商売上手な中国製戦闘機。この空戦ならぬ"空商戦"を制するのは、いったいどの国なのか。
【米国製戦闘機の〝無敵神話〟にヒビ】いまだ出口が見えないイラン・アメリカ戦争。和平協議の先行きも不透明で、中東は緊張状態が続いている。
しかし、その一方で、各国はすでに〝戦後〟を見据えて動き始めている。狙いは、湾岸諸国のオイルマネーが流れ込む軍需市場。中でも、熱視線を集めているのが戦闘機だ。
中東情勢を長年追うフォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。
「開戦前から湾岸諸国へのアプローチは始まっていました。戦争が始まる約2週間前、2月8日から12日まで、サウジアラビアでワールド・ディフェンス・ショー(国際防衛装備品展示会)が行なわれており、各国が輸出したい戦闘機を持ち込んでいました。
その会場で、米ボーイング社の関係者と話をしたら、『われわれはF-15EXを売りたい』『特にサウジが買ってくれるといいんだけど』と話していたのです」
F-15EXは1機約141億円、決して安い買い物ではない。それでも米国製戦闘機は長年、特別な意味を持ってきた。世界最強の米軍が使う兵器であり、豊富な実戦経験に裏打ちされた技術力の象徴でもある。多少高くても、それだけ払う価値があった。
しかし、今回のイラン戦争でその評判が変わりつつあるという。米軍のF-15Eが、イラン軍の携帯式地対空ミサイルによって撃墜されたと報じられたのだ。
F-15Eは1機約160億円。一方、撃墜に使われた可能性のある携帯式地対空ミサイルは、1基約1400万円。最強と名高い戦闘機が安価な地対空ミサイルにやられたかもしれないという報道は衝撃を与えた。
今年2月の国際防衛装備品展示会での米ボーイング社のF-15EXのブース。サウジはすでにF-15系列を運用しており、同社関係者も売り込みに意欲を見せていた
しかし、航空自衛隊でF-2戦闘機に乗っていた元パイロットのA氏は、機体の性能が劣っているわけではないと分析する。
「F-15Eが通常の飛行で、携帯式地対空ミサイルの射程内に入ることはまずありません。
しかし、もし発進情報や進入ルートがイラン側に漏れていたなら、地上部隊は待ち伏せできてしまいます。今回のF-15Eも、待ち伏せに遭い赤外線でエンジンを探知され、携帯式地対空ミサイルを撃たれたのかもしれません」
追い打ちをかけるように、米ステルス機F-35にも不穏な情報が流れた。イランが撃墜したF-35の残骸だとする写真を公開したのだ。しかし、専門家は「F-35ではなくF-15ではないか」と指摘。米軍側も「F-35は損傷を受けたが、無事に基地まで戻った」と説明している。
撃墜か、損傷か。不確かな部分も残るが、ステルス機が損傷を受けた可能性があるだけでも、〝無敵の米国製戦闘機〟というブランドは揺らぐ。
米国製戦闘機F-35Aは高いステルス性能を誇るが、イラン戦争で損傷したという報道が出たことで、"無敵の米国製戦闘機"というブランドに揺らぎが生じている
A氏は、米軍機が被害を受けた背景についても「発進基地の違い」を指摘する。
「イスラエル空軍基地の離発着情報は外に漏れにくい。一方で、湾岸諸国から出撃する米軍の場合、その情報がイラン側に伝わってしまう可能性があります」
つまり、どちらの場合も、米国機が弱かったというより、イラン側が地上の情報戦で上回った可能性がある。
米国製だけではない。中東で〝高いが信頼できる西側戦闘機〟として人気を誇ってきたフランス製ラファールにも異変が起きている。
きっかけは、昨年5月7日のインド・パキスタン国境での大規模空戦だ。パキスタン空軍は中国製戦闘機J-10CEでインド空軍のラファール3機を撃墜したとされている。
フランス製のラファールはエジプト、インド、カタール、UAEなどに輸出実績がある。中東市場で築いてきたブランドに、印パ空戦の評価がどう影響するかが焦点
戦果には異論もあるが、「中国製戦闘機がラファールを撃墜したらしい」という噂だけでも、市場を揺さぶるには十分だ。しかもJ-10CEは1機約44億円。ラファールの1機350億~400億円との価格差は圧倒的だ。
J-10はパキスタン空軍も運用する中国製戦闘機。2025年の印パ空戦では輸出型のJ-10CEが活躍。
高額な西側戦闘機の地位が揺らぎ、安価な中国製戦闘機が実戦で存在感を示す。その結果、中国が中東の軍需市場へ割って入っているという。
柿谷氏は、そこで重要な役割を果たしているのはパキスタンだと語る。
「中国は今回、パキスタン空軍を使って、サウジに自国産戦闘機を売り込んでいます。ワールド・ディフェンス・ショーには、中国とパキスタンが共同開発したJF-17(1機35億~55億円)が2機参加していました。
中パ共同開発のK-8カラコルム練習機も、すでにエジプト、スリランカ、ミャンマー、ベネズエラ、スーダンなどで採用されています」
JF-17は、中国とパキスタンが共同開発した軽量戦闘機。パキスタン空軍の主力のひとつで、ミャンマーやナイジェリアなどにも輸出実績を持つ
中国は、自ら前面に出るのではなく、イスラム圏とのつながりが深く、実戦経験もあるパキスタン空軍を〝営業部隊〟として使うことで、中東の受注競争に食い込もうとしているのだ。
さらに柿谷氏は、4月11日にパキスタンがサウジへ戦闘機部隊を派遣したニュースにも注目する。
「表向きにはサウジとの相互防衛協定に基づく軍事支援です。しかし、パキスタン空軍が中国製戦闘機を運用する姿を湾岸諸国に見せつけること自体が、ひとつのショーケースでもあったはずです」
そんな中、軍事大国が見据える次の巨大市場がある。イラン空軍の再建だ。
今回の戦争で、イラン空軍とイスラム革命防衛隊は大きな被害を受けたとされる。
「主に狙っているのは中国とロシアでしょう。ロシアのステルス戦闘機Su(スホーイ)-57が導入される可能性はあります。
しかし、やはり本命は中国です。実際、米イラン和平交渉のためにパキスタンを訪れたイラン代表団の旅客機を、パキスタン空軍は中国製早期警戒機ZDK-03とJ-10CEを含む20機以上でエスコートしたといいます。
イラン高官たちは、その光景を機内から目撃している。中国製戦闘機が飛ぶ姿は、深く印象づけられたはずです」
Su-57はロシアの第5世代ステルス戦闘機。ウクライナ戦争の制裁でロシアの防衛輸出は逆風下にあるが、"米中以外の選択肢"として存在感を示そうとしている
では、この空商戦を最終的に制するのは中国なのか? 柿谷氏は「本当の勝負は第6世代機です」と強調する。
第6世代機で言えば、中国は2030年代以降の配備を目指して開発を進めている。
F-2の主任設計者である故神田國一氏の下で開発初期からF-2計画に携わり、現在は航空コンサルタントを務める陶山章一氏はこう語る。
「中国の第6世代機は、ステルス性の極限化を狙った無尾翼機で、AIや無人機との連携、さらに対米戦を前提とした長距離戦を意識しているとみられます。
対抗する米国はF-47を開発中だが、実戦配備は2040年代になるとの報道もある。
そこで注目を集めているのが、日本、イギリス、イタリアが進める次期戦闘機計画「GCAP」だ。現在、サウジ、ドイツ、オーストラリア、カナダなどが関心を示している。では、日本も参加するGCAPが、戦闘機商戦の主役になる可能性はあるのか。
2035年頃の実用化を目指している、日英伊が共同開発を進める次期戦闘機計画「GCAP」のモックアップ
「私は依然として、米国製戦闘機が世界最高水準の性能を持つと考えています。米国の実戦経験に基づく技術や運用ノウハウが反映されているためです。湾岸諸国が金に糸目をつけないなら、間違いなく世界最強の戦闘機になるであろうF-47を選ぶでしょう。
ただし、今は戦闘機調達そのものが国家戦略として位置づけられる時代です。性能だけでなく、技術移転、政治的柔軟性、調達の自由度、長期運用コストや持続可能性まで含めた総合競争になっている。だからこそ、GCAPのような多国間共同開発プログラムに各国が関心を示しているのでしょう」
各国は複数の選択肢をよりシビアにてんびんにかける時代に入った。高いから強い、米国製だから安心という単純な時代は終わりつつある。ポスト・イラン戦争の〝空商戦〟は、まだ始まったばかりだ。
取材・文/小峯隆生 撮影/柿谷哲也
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