数々の構想の舞台となってきた歌舞伎町だが、その「後処理」はかつてなく難しくなってきているという
歓楽街のビルの前で殴り合う男たち。襲撃のターゲットにされたのか、したたかに痛めつけられた男性が道路にうずくまる。
SNSやLINEなどの通信アプリを通じて広まったこれらの動画には、歌舞伎町の商業ビル前で発生した乱闘騒ぎの一部始終がとらえられていた。
「騒ぎがあったのは、5月16日午前3時40分ごろのことです。歌舞伎町1丁目の路上で、頭部出血などのけがを負った20代から50代とみられる男性4人が倒れているのが見つかりました。男性らを襲ったのは10人ほどの武装した集団で、現場から車2、3台で逃走。暴力団同士のトラブルが発端とみられ、警視庁が殺人未遂事件として捜査を始めています」(大手紙社会部記者)
「10人ぐらいの半グレが鉄パイプを持って襲撃した」「組員の一人が頭をフルスイングされ意識不明」-。暴力団関係者や警察関係者の独自のネットワークではそんな情報も出回ったが、「実際、襲われた男性一人が頭から出血する重傷を負ったとみられている」(同前)という。
【事件の背景に浮上した3組織】複数の関係者によると、事件には二つの指定暴力団の傘下にある3組織が関わった可能性があるという。
ひとつが2000人あまりの構成員を抱える関東最大級の組織「住吉会」、もうひとつが歌舞伎町に本部を構える古参組織の「極東会」で、事件はその極東会系団体が拠点にするビル前で起きたとされる。
5月16日の歌舞伎町での乱闘事件直後、その一部を映した動画がSNSで拡散された
「極東会系団体の組員と、住吉会系団体の組員との金の貸し借りをめぐるトラブルが発端のようです。当時、極東会系組員が所属する組の事務所内で、カネを貸した側の住吉会系団体側とトラブルの収拾に向けた話し合いが行われていたようです。極東会系組員と住吉会系組員との金銭のやり取りの間には、別の住吉会系組員が介在していたという話です。
極東会系組員は、金を借りていた住吉会系組員が別の事件で懲役に行っている間、間に入った別の住吉会系組員に返金したと主張していた。ところが、その返済金は債権者である住吉会系組員には渡っておらず、その件で両者が揉めたことが今回の襲撃騒動の遠因になったということのようです」(前出の捜査関係者)
関係者によると今回の一件では、暴行の一部始終が映った動画が拡散されたのにとどまらず、事件の背景に関わる関係者のものとみられる録音データまでもが流出しているという。真偽は不明だが、その内容から、極東会系組員と住吉会系組員との電話でのやり取りとみられている。
【トクリュウの台頭で複雑化する抗争処理】ここまでの流れを概観すると、暴力団同士のもめ事が暴力沙汰に発展した、というのが事件の大筋のようだが、今回の事件は、事態をより複雑にしかねない要素もはらんでいるという。
「実は今回の事件でカネを貸した側だとされる住吉会系組員は、警察庁指定の準暴力団『関東連合』のようなのです。しかも、同じく準暴力団と認定されている別の半グレ組織『怒羅権』にも顔が利く人物なのだとか。
これらの組織のOBの中には、現役のヤクザだったり、組の盃を受けずに裏のシノギをやっている連中もいる。横の連携もしっかりしているので、今回の暴行事件がさらなる衝突の呼び水にならないか、と懸念も広がっているのです」(同前)
事件直後には、この捜査関係者が指摘する2組織の関係者が事件に関与したことを示唆するような情報も出回ってもいる。
さらに名前が挙がった半グレグループの「関東連合」は、警視庁が1月、特別対策本部を立ち上げて摘発強化に乗り出した住吉会の傘下組織である「幸平一家」に多くの関係者が属していることでも界隈では知られているという。
警視庁が幸平一家への「頂上作戦」を仕掛けた背景には、彼らが半グレのみならず、警察庁が新たな組織犯罪の類型として捜査を本格化させている「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」との連携を深めているという疑いを当局側が抱いているという事情もあるようだ。
「トクリュウというと、いかにもマフィア化した集団のようにも捉えられるが、その実態は組織の盃を受けずに特殊詐欺やタタキ(強盗)などの犯罪行為を繰り返す不良連中のことです。地元の先輩後輩であるという地縁のつながりのほか、SNSを介するいわゆる『闇バイト』として少年らを集めて実行部隊として運用したりもしている。
そうした離合集散を繰り返す、不定形の犯罪集団を形成していたはしりともいえるのが『関東連合』や『怒羅権』といった半グレグループ。組織内に現在のトクリュウにつながる犯罪のノウハウを持った関東連合OBらをはじめとする構成員や準構成員を多く抱えていることが、警視庁が特に幸平一家への警戒を強める理由のひとつになっています」(前出の社会部記者)
警察庁の統計によると、全国の暴力団構成員と準構成員の合計は、ピーク時の18万人超から大幅に減少した。2025年末時点では約1万8000人前後とされ、暴力団排除条例や資金源対策が一定の成果を上げたことは間違いない。
その一方で、「暴力団」という枠組みからこぼれ落ちた人間たちが形成する新たな犯罪の地下茎が根を張りつつある現実は、栃木県で発生した強盗殺人事件など、相次ぐトクリュウがらみの事件報道が物語っている。
前出の捜査関係者は、「昔のヤクザは、悪い意味でも『看板』がありました。組織の上下関係があり、無秩序な暴力を抑える側面もあった。しかし現在は、半グレやトクリュウのように、組織性が曖昧で責任主体が見えない集団が増えている。警察からすれば、誰が指示役で、誰が実行役かも掴みにくい。それに彼らは単独勢力というより、暴力団や外国人犯罪組織と接続する『ハブ』のような存在にもなっている」と顔をしかめる。
【SNS拡散によるエスカレーション】今回の暴行沙汰については、多くの通行人が行きかう繁華街の一角で勃発し、暴行の映像がSNSを介して広く拡散したことも特筆すべきだ。この動画拡散が「報復」のエスカレーションを招く懸念もある。
「昔なら内々で済んだ話が、いまは動画で広まる。
情報戦、印象操作、動画拡散――。裏社会すら「見られること」を前提に動き始めており、それは暴力がかつて以上に過激化しやすい土壌を生み出しているとも言える。歌舞伎町で響いた真夜中の怒声は、市民社会が新たなリスクに直面しているという警告なのかもしれない。
文/安藤海南男 写真/ぱくたそ、Xより
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