◆日本生命セ・パ交流戦 2025 日本ハム5―0広島(14日・エスコンフィールド)

 日本ハムの細野晴希投手(23)が6回2安打8奪三振、無失点でプロ初勝利をマークした。23年ドラフト1位左腕は昨季から6度目の登板で1勝目を挙げ「ホッとした気持ちの方が大きい」と息をついた。

首位のチームは広島を5―0で下し、貯金は今季最多タイの10。強力な先発陣を誇る新庄ハムにまた一人、最速158キロのロマンあふれるスター候補が加わった。

 勝利の瞬間、頬が緩んだ。ウィニングボールを手にした細野は新庄監督と記念撮影。ピースサインの左手を指揮官から初勝利の「1」に直され、初々しい笑顔を見せた。6回2安打無失点、8奪三振でプロ初勝利。「試合前は不安と崖っ縁という気持ちが入り交じっていた。うれしい気持ちよりホッとした気持ちの方が大きい」。昨季から6度目の登板。苦しんだ先につかんだ1勝は格別だった。

 軽く投げているようで、最速は152キロを計時した。東洋大4年時に158キロをたたき出し、23年ドラフト1位で入団。

アマ最速左腕として注目されたが、昨季は左肩の故障もあって2登板のみに終わった。「球速のアベレージを追い求めすぎていた」。今季は同じ左腕で技巧派の山崎や加藤貴を参考に「フォームと球のギャップをつくりたい」と意識し「5割程度」と語る力感で投げる感覚を習得。2年目の成長を示す78球だった。

 剛球の礎は兄と築いた。東亜学園(東京)時代は甲子園出場経験なし。最速は140キロほどだった。そこで、アスレチックトレーナーとして働く兄・晟哉(せいや)さんにメニューを依頼し、高3の夏から本格的にウェートトレーニングを開始。兄は「体を大きくしたいとか、キレを出したいとか、彼が提示する条件に合うように、種目、セット数、重さを調整しながら」と要望に合わせた細野専用メニューをつくり、弟の住む大学の寮に送った。スクワットは100キロから200キロ、体重は75キロから87キロに。「気軽に相談できる」という兄と二人三脚で進化を遂げた。

 前回登板となった5日の阪神戦(エスコン)は、初回から3者連続など7四球の大乱調。

「ロン毛は野球に向いていなかった」と昨年オフから伸ばしていた襟足をバッサリ切った。「思い切って気持ちを切り替えた」と散髪効果もあり、ようやく記念の1勝にたどり着いた。

 1年目のキャンプで新庄監督から「インコースに入ってくる真っすぐはほれぼれする」と絶賛された逸材。登板機会がなく次戦は交流戦明けとなるが、強力な先発陣の仲間入りを果たした。「いい流れで次の試合も抑えられるように」。ロマンあふれる北の剛球左腕が新たな一歩を踏み出した。(川上 晴輝)

 細野晴希(ほその・はるき)あらかると 

 ▽生まれ 2002年2月26日、東京都。23歳。独身

 ▽サイズ&投打 180センチ、87キロ、左投左打

 ▽家族 両親と兄、妹

 ▽年俸 1300万円(推定)

 ▽球歴 小2から野球を始め、東海大菅生中では軟式野球部。東亜学園では最高で都4強。東洋大を経て23年ドラフト1位で日本ハム入り

 ▽最速158キロ 東洋大4年時、大学日本代表として高校日本代表との壮行試合で自己最速158キロ。日本人左腕の最速は元ソフトバンク・古谷優人の160キロ

 ▽同学年 24年パ新人王の武内(西武)や古謝(楽天)、西舘(巨人)ら

 ▽好きな言葉 「無駄なことは結局無駄じゃない」。

イチロー氏の名言で「挑戦することに恐怖心を抱かなくなった」

 ▽元ロン毛 昨季途中から「平成のキムタク」を意識し、髪を伸ばし始めた。「私服の時はめちゃくちゃいいんですけど、野球の時はすごい邪魔だった」

 ▽あだ名 めっちゃ細かったという中学時代は「もやし」

◆マウンドを降りれば 蚊も逃がす優しさ

 細野にはマウンドでの強気の姿からは想像できない“ギャップ”がある。幼少期を苦笑いで振り返るのが、母・綾子さん。「物心ついた時から『虫を殺さないで!』とよく怒られて…。蚊が飛んできたら『血を吸ったらどこか行くから潰さないで』。アリがいれば『下を見て歩いて』。家にいる虫は『ティッシュでくるんで生きたまま外に逃がして!』と。優しくもあり、周りからは『変わってる』と言われてましたね」

 肌が弱く、虫刺されでかぶれることも多かったが「生きているからかわいそう。蚊も息でフッて払うか(血を)吸い終わるまで待つか」と本人は笑う。大学時代は帰省すると「たんぱく質が足りない」と料理でなく毎回栄養素でオーダーして母を驚かせた。ちょっぴりヘン?で心優しい23歳。現地観戦できない日はいつも、東京の実家で正座して願ってくれていた綾子さんにも勝利の報告ができた。

(24年日本ハム担当・堀内 啓太)

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