◆アイリッシュチャンピオンS・愛G1(9月13日、レパーズタウン競馬場・芝2000メートル)

 今週末も凱旋門賞・仏G1(10月5日、パリロンシャン競馬場・芝2400メートル)を目指す日本馬が欧州で始動する。JRA海外馬券発売対象の第50回アイリッシュチャンピオンS・愛G1(日本時間13日深夜)のシンエンペラーは、矢作芳人調教師(64)=栗東=が「勝負の秋」と位置づけ、昨年3着のリベンジを期す。

 世界のYAHAGIに常識という文字はない。矢作調教師が今秋のシンエンペラーの目標と早くから明言していたのがジャパンC(11月30日、東京)。そのベストな過程を考え、最終的には愛チャンピオンSから凱旋門賞への転戦が決まった。

 「凱旋門賞に非常に失礼な言い方かもしれないけど、凱旋門賞が最終目標ではないという考えです。一戦一戦で勝負と思っていて、そのなかでジャパンCには行きたいと思っています。日本では凱旋門賞ばかりが騒がれるけど、愛チャンピオンSというのは昔から非常に種牡馬価値の高いレース。ここを勝つだけで価値が相当に上がるからね」

 昨年は仕上がり途上で迎えた凱旋門賞への前哨戦。それでも、3着と好走した。その昨年はフランスで調整したが、今年はアイルランドで調整。このレース後にはフランスへ移動する。愛馬の特長を踏まえ、一戦ごとに調教場を変える策に出た。

 「この馬はもともと、サボり癖のある馬なので、環境を変えて、精神的にフレッシュな状態に置いておかないといけない。

今、(アイルランドの)カラで調教しているけど、立ち上げに関しては去年よりはるかにいい。アイルランドは寒いぐらいということで、それもこの馬にはいい方向に向いているかなと思います」

 1歳時に仏アルカナ社のセールで自ら見初めた凱旋門賞馬ソットサスの全弟。3歳時から「緩い」「完成はまだ先」と繰り返しながら、国内外の多くの大一番に参戦し、経験を積ませてきた。

 「暑さに弱い馬で、今年は特に心配していたけど、去年よりは歩様もかなりいい状態だった。それだけ体幹が強くなったんじゃないかなと。内面の強さが出てきたことと、精神的な成長も強く感じますね」

 多忙な日々が秋の始まりを告げる。矢作師は先週水曜、夏に滞在していた北海道から栗東に戻ると、土曜朝には米国最大級と言われるキーンランドセプテンバーセール(8日~)へ出発。木曜にアメリカを出発し、レース前日にアイルランドへ入る。

 「去年はキーンランドに行っていないので、2年続けて空けるわけにはいかない。アメリカの馬も見ておかないといけないからね。仕方ない。世界の調教師なら当たり前のことです。

正直、体はしんどいですけどね」

 世界各地にアンテナを張り、常にアップデートを繰り返す。そんな矢作イズムの結晶体と言えるのが今年は違ったアプローチで国内外G13レースに挑むシンエンペラーと、今年もBCクラシックに挑むフォーエバーヤング。この“両輪”に寄せる期待はとてつもなく大きい。

 「2頭ともに決して満足していない。勝負の秋でしょうね。海外を意識とかではなくて、大きなレースを取って、種牡馬としての価値を高めたいという気持ちで常にレース選択をしています。特にシンエンペラーは種牡馬になることは決まっているような馬ですけど、箔(はく)をつけるためにも、今年の秋はどこかで必ずG1を取りたいと思っています」

 挑戦と位置づけた昨年とは違い、瞳の奥からあふれ出る確かな手応え。勝負の秋がもうすぐ幕を開ける。(山本 武志)

 ◆シンエンペラーの24年秋 欧州へ海外初遠征。日本ダービー3着以来だった初戦の愛チャンピオンSは本調子手前ながら、直線でしぶとく脚を伸ばし、3着と健闘した。続く凱旋門賞は重馬場の影響もあり、12着と見せ場なく敗れた。帰国後はジャパンCに参戦すると、先行策から最後は差し返すように脚を伸ばし、ドゥレッツァと2着同着。

G1を勝ち切れなかったが、存在感を示した。

 ◆矢作 芳人(やはぎ・よしと)1961年3月20日、東京都生まれ。64歳。05年3月に栗東で厩舎を開業。14、16、20~22、24年に最多勝利調教師、19~23年に最多賞金獲得調教師に輝く。JRA通算929勝。重賞はG1・14勝を含む59勝。海外ではG1・9勝を含む重賞16勝を挙げる。日本人調教師として、初めてブリーダーズC、サウジCを制した。

◇坂井瑠星騎手「去年より、『勝ちに行く』という気持ち」

 手応えと自信は深まっている。2年連続でシンエンペラーと愛チャンピオンSに挑む坂井。今年は挑戦者の姿勢ではなく、「去年より、『勝ちに行く』という気持ちで行ける」と、さらなる意欲を持っている。

 昨年は決して本調子ではなかったが、直線でしぶとく脚を伸ばしエコノミクス、オーギュストロダンに続く3着と健闘した。「びっくりした。最後に伸びる、伸びるって」と、驚きとともに振り返る。今年は帰厩時から歩様が良く、予定通りに調教メニューを消化。「去年の走りを考えれば、勝負になっていいのかな」と手応えを得ている。

 この秋は凱旋門賞、ジャパンCと大舞台が続く。まだG1タイトルがないシンエンペラーにとっては、全てが“本番”だ。「人も馬も2回目だし、不安なく臨める」。1年ぶりのレパーズタウンで、人馬ともに進化を示す。(水納 愛美)

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