大相撲秋場所9日目(22日、両国国技館)

 横綱・大の里が、西前頭4枚目・若元春を寄り倒して勝ち越した。横綱初優勝へ、1敗を守った。

相手に背中を向ける危ない場面もあったが、土俵際から一気に押し返して逆転した。横綱・豊昇龍も先場所Vの東前頭5枚目・琴勝峰に攻め込まれたが、突き落として無傷9連勝。全勝の豊昇龍を1差で大の里、平幕・正代が追い、小結・安青錦と平幕・隆の勝、竜電が2敗で続く。

 館内の悲鳴が一瞬にして、大きなどよめきに変わった。もろ手突きで立った大の里は、バランスを崩して後ろ向きになる。背中を見せる大ピンチに、とっさにクルッと半回転。向き直ると右を差して寄りたて、豪快に寄り倒した。「背を向けた瞬間は危ないと思ったけれど、すぐにどっしりと腰を構えられた」。ヒヤリとはしたが、高い身体能力と馬力が詰まった6秒4の相撲で1敗を守った。

 昨年初場所の新入幕から11場所連続での勝ち越しを決めた。昭和以降では横綱・照国と並ぶ3位タイの記録。給金直しについて問われても「目の前の一番一番に集中する」と表情は崩さなかった。

ただ、取組内容には「(相手に身動きを取らせずに)挟みつけることが冴えている。腰も割って寄れた」と自信を口にした。

 類いまれなる運動神経は、日体大時代から周囲を驚かせた。相撲以外にバスケットボールなど多くのスポーツを経験する中、特に陸上の授業では160キロを超える巨体で50メートルを7~8秒台で走り抜けたという。また、ハードルが好きで「ハードル間の歩幅が合っていたので、レポートを免除してもらった。体重の割には足は速いと思う」と話す。場所前には東京世界陸上を見る予定はなく、本場所に集中する意向を示していた。陸上選手の俊敏性とは比べものにならないが、アスリート能力の高さを土俵で証明した。

 1敗を守り、全勝の豊昇龍と1差。優勝争いは「追う展開なので意識はしない。(優勝は)転がってくるものだと思って目の前の一番に集中する」と足元を見つめる。4日目に伯桜鵬に敗れたことを反省しつつ「前半戦の負けからしっかり立て直せている」と手応え。

昨年夏場所と今年春場所で逆転優勝の経験もある。横綱昇進後初優勝へ向け、大の里は最後までスピードを緩めず走り抜ける。

(山田 豊)

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