いよいよ資産運用の核心、「リスク」の管理に迫ります。前回は投資の痛みである「ドローダウン」を確認しましたが、それにただ耐える必要はありません。
資産運用における「リスク」の考え方とは?
日常会話で「リスク」といえば「危険」を指しますが、投資の世界では、資産価格が上下にブレる「振れ幅」を数値化した尺度を指します。
図表1:リスクのイメージ
この振れ幅をあらかじめ理解しておけば、仮にリターンが少々マイナスになったとしても、想定内の値動きとして冷静に受け止めることができます。楽天証券が取り扱っている投資信託であれば、過去のリスクやリターンの実績をウェブサイトで確認することができます。
図表2:「楽天・全米株式インデックス・ファンド」のリスク・リターン実績
資産によって異なるリスク・リターン
図表3のとおり、投資する資産によってリスク・リターンの水準は異なります。
図表3:各資産のリスク・リターンのイメージ
全世界株式や米国株式の指数に連動するインデックス・ファンドは、この図表では外国株式に分類されます。外国株式は、株価に加えて為替の変動も影響することから、比較的高いリターンが期待できる一方で、リスク(標準偏差)も高くなります。
一方で債券(信用力の高い投資適格のもの)については、リスクは低い一方で、期待できるリターンも株式に比べて低いことが分かります。また、注意したいのが不動産投資信託(REIT)です。よくミドルリスク・ミドルリターンと語られがちですが、実際には株式と大きく変わらない、あるいはそれ以上のリスク水準を示すこともあります。
従って、リスクをふまえて資産配分を考えるときは、「株式と不動産の配分を合計した割合≒リスク性資産の割合」と捉えるのが賢明です。
ドローダウンとの使い分けは?
前回ご説明した「ドローダウン」は、直近の最高値からどの程度下落したかを確認する、「相場急変時」の最大被害を測る指標でした。一方、今回の「リスク(標準偏差)」は、平均からのブレ具合を示すため、下落だけでなく上昇の可能性も含んだ「普段の変動水準」といえます。
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もう少し詳しく解説すると、リスク(標準偏差)は、リターンの分布が「正規分布」という統計的な特性に従うと仮定して算出されます。
これを3倍した「3σ」まで広げると、相場急変時のリスクシナリオの目安として活用できます。例えば、米国株式の年率標準偏差(1σ)は一般に10%台後半~20%台前半ですが、これを3倍した3σは50~60%程度になります。この数値は、前回確認した最大ドローダウンともおおむね整合的です。
図表4:リターンの振れ幅と発生確率のイメージ
このように日常的な変動の目安と、相場急変時の下落水準の両面を事前に理解しておくことが、投資を続けるための冷静な備えとなります。
資産の組み合わせで「不確実性の波」を小さく
資産ごとにリスク・リターンの水準が異なるだけでなく、値動きの傾向もそれぞれ異なります。例えば同じ市況下でも、資産ごとに反応が異なるため、上昇する資産もあれば下落する資産も出てくるのです。
この性質をうまく利用すれば、図表5の下側のように、異なる資産を組み合わせることで価格の波を打ち消し合い、保有資産額の変動を穏やかにすることができます。
図表5:資産の組み合わせで変わる値動きのイメージ
そして、この二つの値動きがどの程度似ているかを定量化したものが「相関係数」です。マイナス1から+1の間で値をとり、マイナス1に近いほど反対の動きをし、+1に近いほど連動性が高まります。
図表6:相関係数が示す値動きのイメージと主要資産の相関係数
リターン追求とのバランスはどうする?
では、リスクを抑えるために債券ばかりを組み入れればよいのでしょうか。それでは、自身が求めるリターン水準に届かないという課題が生じます。
そこで用いられるのが、1952年にハリー・マーコヴィッツ氏が提唱し、後にノーベル経済学賞の受賞対象となった「現代ポートフォリオ理論」です。この理論の核となる「平均分散法」は、現在でも年金基金をはじめとする機関投資家の実務において、資産運用の根幹を成す考え方として活用されています。
平均分散法とは、各資産のリターン、リスク、相関関係を基に資産の組み合わせを導くアプローチです。この計算を繰り返すことで、目標リターンに対してリスクを最小化する組み合わせが導かれ、それらを線で結んだものを「効率的フロンティア」と呼びます。
この曲線上の点は、一定のリスクの下でリターンを最大化(あるいは一定のリターンに対してリスクを最小化)できる、運用効率が最も高いポートフォリオの集合体です。
図表7:資産の組み合わせで変化するリスク・リターン(年率)のイメージ
効率的フロンティアは、無数の選択肢から理論的に無駄のない運用を実現するための合理解といえます。自分自身の目標リターンや許容できるリスク水準を前提に、最も効率よくリターンを獲得する道筋を探ることこそが、平均分散法の本質です。
「分散投資は意味がない」といわれるゆえん
分散投資はリターンを一定調整する代わりに、ポートフォリオ全体のリスクを低減させることが狙いです。
しかし、私たちが投資の成果を評価する際、どうしても目につきやすいのはリターン水準です。相場が堅調な局面では、分散によるリスク低減の効果は実感しづらく、単にリターンを薄めただけのように見えてしまうことが、「分散投資は意味がない」という誤解を招いている一因でしょう。
また、直近の株高のように耳目を集めやすい情報ばかりがニュースやSNSで注目され、リスクやドローダウンといった、本来必要な情報に目が向きづらくなっている側面があるのかもしれません。
直近のリターンだけに目を奪われるのではなく、その背後にあるリスクを冷静に見極めることこそが、流行に左右されない「ぶれない投資」を形成することにつながります。
現実的な落としどころと、投資家としての備え
平均分散法によって効率性を追い求めることは理にかなっている一方、前提となる数値の推計や煩雑な計算などを行う必要があり、個人が実践するには少々荷が重いのが実情です。生成AIを利用してそれらしい答えを導き出すことは可能ですが、基となるデータが信頼できるものでなければ、導き出される配分も不確実なものとなります。
さらに、組み入れる資産クラスの決定や為替リスクの扱い、運用上の制約など、実際には考慮すべき点が多岐にわたります。
こうした計算の複雑さや不確実性をふまえると、機関投資家と同様の手法を完璧に実践しようとするのは現実的ではありません。むしろ大切なのは、理論を完璧に追うことではなく、今の資産配分が「どの程度の振れ幅を許容するものか」を自分自身で把握しておくことです。
次回は、今回学んだ内容をふまえ、無理なく実践できる「現実的な落としどころ」について、より具体的に踏み込んでいきます。
(上源 悠詞)

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