高市内閣のもとで改憲の現実味が高まっている。4月12日の自民党大会で「時は来た」と憲法改正への意欲を示した高市早苗首相だが、憲政史研究家の倉山満氏は「本当に意味があり効果が最も大きい改憲をするならば、9条だ」と論じる(以下、倉山氏による寄稿)
効果が最も大きい改憲をするならば9条だ
高市内閣になって、憲法改正が現実味を帯びてきた。仮にこのまま高支持率が続き、2年後の参議院選挙で自民党が勝利。今年の総選挙で、護憲を旨とするリベラル勢力に対し、日本国民は強烈な拒否反応を示した。これがたった2年で解消するだろうか。もちろん何かの拍子に風向きが変わり、高市改憲勢力に逆風が吹くかもしれない。それよりはるかに高い確率で、日本人が護憲派リベラルを見捨てる可能性は高い。
衆議院で自民党単独で三分の二の議席を有する。参議院は選挙制度上、一つの党派が三分二を占めるのは難しいが、改憲勢力全体で三分の二を超えるのは可能だ。というより、護憲派勢力が嫌われているので、彼ら全体で三分の一を占めるのが至難の形勢だ。
実際、’16年参院選では、当時の岡田克也民進党代表が「三分の一を目指す」などと改憲の阻止を高らかに掲げたが、見事に失敗した歴史もある。むしろ情勢が明確になった段階で政府高官が「(当時は連立与党の)公明党は改憲勢力ではない」などと発信するマヌケな有様だった。つまり自民党の方に改憲をやる気が無かった……。
高市首相、次の参議院選挙でも大勝するようなら、今度こそ改憲から逃げられまい。では、どの条文を変えるべきか。
本当に意味があり効果が最も大きい改憲をするならば、9条だ。といっても、普通の人は、なぜ憲法9条が問題なのか、わからないであろう。
アメーバのように伸びたり縮んだりした解釈
そこでまず、小学生の国語的に要約してみる。1項「戦争はしません」
2項「戦力は持ちません。戦う権利を放棄します」
もちろん、一国の憲法が小学生レベルの要約で通じる訳が無い。ただし1項は簡明で、「侵攻戦争はしません」の意味である。仮に誰かに侵攻された時、「黙ってやられてろ」式の不条理不可能を日本国憲法とて要求しない。自衛は否定しない。似たような条文は世界中に転がっている。言ってしまえば、9条1項は人畜無害な条文なのだ。
問題は第2項、特に後段である。
まず、憲法が禁止する戦力とは何か。「自衛の為の最小限度を超える力」である。
最初は「竹槍より強い武器」などと恥ずかしい解釈が罷り通っていた。その時は米軍に占領されているので、日本に何かあれば米軍が戦うので、不都合が無いと思われていた。
ところが朝鮮戦争が起こると、アメリカは日本に「自分の身は自分で守れ」と言い出した。そして日本は再武装の道を歩み出す。
アメリカに対し「最低限の義務を果たせる力」
この頃、憲法で禁止された以上の戦力とは「アメリカさんにお帰りになっていただけるような実力」と定義されていた。要するに、いつかは自主憲法を持ち、自主防衛ができる独立国家になるとの気概が、政界の合意だったのだ。ところがいつしか平和に慣れ、アメリカに守ってもらうのに慣れ、自主憲法自主防衛は死語と化した。そして、「アメリカの防衛戦略の中で、最低限の義務を果たせる力を持つこと」が防衛政策の要となった。憲法解釈は、その時々のアメリカの要請にこたえられる範囲で、伸び縮みした。この前提は、いつか自主防衛をする前提を捨てていることである。最近では、トランプ大統領が一期目に当選した時、当時の安倍首相は即座にアメリカに飛び、帰国後は「日本の自主防衛は現実的ではないと説得した」と嬉々として語っていた。
9条2項前段は、昔の日本人のような気概があれば運用できないことは無いのだが、望むべくもない。
深刻なのは後段だ。「国の交戦権はこれを認めない。」とある。どういうことか。「国際法上認められた権利の一部を行使しないこと」である。さすがに、小学生的要約では、意味がわからない。
国際法は、要するに戦争のルールである。戦争は悲劇である。しかし、現実には無くならない。ならば少しでも悲劇を軽減しようとの趣旨から、国際社会で合意された掟が、国際法である。たとえば、「すべての国は軍隊を持つ権利がある」「すべての国はどの国と同盟を結ぶも自由である」「すべての国は自衛の為に戦う権利がある」「国際法を守って戦った戦闘員には、保護される特権と名誉がある」のように。
放棄したと解釈される範囲も伸び縮み
ただ、このようにすべての国が認め合っている権利を放棄する国もある。我が国も、国際法の権利の一部を放棄していると解釈していた。その放棄した範囲が、これまたアメーバのように伸び縮みしている。
最初は「ICBMの保持」「戦略爆撃機の保持」「戦時における中立国船舶の拿捕」のような、言ってしまえば「やらんでいい」ことに限定していた。裏を返せば、それ以外はなんでもやってよかった。
ところがいつのまにか、やっていいことを限定し始め、「小銃(ライフル)は戦力に当たらない」「原爆保有は不可」「軍艦は中間で不明」と言い出した。これでは、やっていいことと悪いことが曖昧で、軍隊として動きようがない。
今さら憲法解釈を元に戻せまい。ならば、どのように憲法9条を変えればよいか。2項削除が最もすっきりする。
ただし、その後も解釈論争を続けるのでは意味が無いが。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。
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