2月28日以降、ほぼ毎日、「ナフサ」という言葉を見聞きしています。米国とイスラエルがイランを攻撃してから軍事的攻撃の応酬が続き、ホルムズ海峡が事実上、封鎖されました。

そのことが、一部のポテトチップスの包装材の色を白黒にしたり、追熟したバナナの流通量が減る懸念を大きくしたりしています。今回その経路と今後の見通しを述べます。


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ポテチの包装材が白黒、追熟バナナが不足

 なぜ、一部のポテトチップスの包装材の色が白黒になったり、追熟したバナナが不足する懸念が生じたりしているでしょうか。図1のとおり、これらは世の中の川下(≒部分)で起きている事象です。その直接的な原因である川中に、「ナフサ」の不足や価格高騰があります。


図1:「白黒パッケージポテチ」「追熟バナナ不足懸念」の位置
ポテチの包装材が白黒、バナナの追熟が遅れ…ナフサと原油はどうなる!?
出所:筆者作成 イラスト:PIXTA

 ポテトチップスの包装材に使われているインク、バナナを追熟する(緑→黄色に変化)ために使われているエチレンガスはいずれもナフサ由来です。


 そして、一部のポテトチップスの包装材の色が白黒になったり、追熟したバナナが不足する懸念が生じたりしていることの間接的な原因であり、かつナフサの不足や価格高騰の直接的な原因である川上(≒全体)に、原油の不足や価格高騰があります。


 図2は、その川上に位置する原油の価格高騰を示しています。ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油価格は2026年2月から4月にかけておよそ1.5倍になりました。同年2月28日に勃発したイラン戦争の影響を強く受けた値動きです。


図2:WTI原油(月間平均)と日本の原油輸入単価(2026年3月まで)
ポテチの包装材が白黒、バナナの追熟が遅れ…ナフサと原油はどうなる!?
出所:財務省貿易統計およびInvesting.comのデータを基に筆者作成

 日本の原油輸入単価は、国際的な原油価格の指標の一つとされるWTI原油価格に追随するように、推移しています。日本の原油輸入単価は足元、3月分まで公表されています(5月17日時点)。4月、5月と大きく上昇したWTI原油につられ、今後公表される貿易統計を基に計算される原油輸入単価も大きく上昇する可能性があります。


 将来的にWTI原油価格の高止まりが続いた場合、川中に位置する石油製品の一つ「ナフサ」の価格高止まり、引いては川下に位置する一部のポテトチップスの包装材の色が今まで以上に幅広い品で白黒になったり、追熟したバナナが不足する懸念が今まで以上に大きくなったりする可能性があります。


改めて「原油は経済の血液」であると認識

 ナフサは、ガソリンに似た透明な液体です。ガソリン、ジェット燃料、灯油、軽油、重油などと同様、石油製品の一つです。図3は、石油化学コンビナート内のイメージと、石油化学基礎製品および石油化学誘導品(中間品)を示しています。


図3:石油化学コンビナート内のイメージと石油化学「基礎製品」と「誘導品(中間品)」
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出所:資源エネルギー庁のデータおよび各種情報源を基に筆者作成

 輸入された原油は、石油化学コンビナート内の石油化学工場の炉で加熱・蒸留されます。比較的低い温度でLPガスやガソリン、ナフサなど、比較的高い温度で重油、アスファルトなど、さまざまな石油製品が精製されます。


 これらは、一度の精製で複数の石油製品が精製される「連産品」故、特定の石油製品のみを精製することはできません。このため、輸入している石油製品もあります。ナフサもその一つです。


 原油を精製したり、輸入したりして獲得したナフサは、石油化学コンビナート内の分解工場にて、石油化学基礎製品と呼ばれる、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどになります。


 そしてこれらは、石油化学誘導品(中間品)と呼ばれる、各種メーカーが仕入れる、さまざまな製品を作る一つ手前の段階の品になります。図4は、ナフサが石油化学誘導品(中間品)を経て、どのような品に姿を変えるかの一例を示しています。


図4:ナフサの用途(一例)
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出所:各種情報源を基に筆者作成

 ナフサ由来の石油化学誘導品(中間品)は、最終的に人々の衣食住の深部に届いていることが分かります。


 原油は経済の血液と呼ばれることがあります。輸送に関わる燃料や、熱や音、光を発生させるためのエネルギー源という側面もありますが、ナフサ由来の石油化学誘導品が人々の衣食住の深部に届いていることもまた、原油が経済の血液と呼ばれるゆえんです。


ナフサの輸入単価は2倍、輸入量は4割減

 図5は、日本のナフサ輸入における単価の推移を示しています。財務省の貿易統計における、輸入額を輸入量で割った値です。イラン戦争が勃発する直前の水準は1キロリットル当たりおよそ6万円でした。


図5:日本のナフサ輸入単価(月次) 単位:円/キロリットル
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出所:貿易統計のデータおよび各種情報源の情報を基に筆者作成

 原油価格の国際指標の一つであるWTI原油価格は、先述のとおり、3月より大きく上昇していますが、やや遅れて追随する傾向がある日本の原油、ナフサの輸入価格(図5)について、3月はまだ大きく上昇していません。


 とはいえ、さまざまな報道やエネルギーに関わるさまざまな価格を評価する機関によれば、ナフサの輸入単価は、おおむね4月以降、WTI原油と同様に大きく上昇しているといわれています。中には、4月の価格は2月の価格に比べて2倍程度になっているとの情報もあります。


 ナフサの輸入単価の動向は、原油価格の国際指標の動向だけでなく、ナフサを輸出する国の事情や、国際的なナフサの需給動向、為替(ドル円相場)動向などの影響も受けます。


 ナフサを輸出する国(産油国とは限らない)や流通過程で在庫を持つ企業が出し渋りをしたり、奪い合いによって国際的なナフサの需給動向が急激に引き締まったりした場合は、原油の国際価格を上回る上昇を演じる可能性があります。


 図6は、日本のナフサ輸入量(地域別・各年3月)の推移です。中東産について、2026年3月は前年同月比、およそ4割減少しました。この点は、イラン戦争の影響が、如実に日本に及びはじめたことを示す例です。


図6:日本のナフサ輸入量(地域別・各年3月) 単位:千キロリットル
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出所:貿易統計のデータより筆者作成

 前年同月比だけでなく、10年前の2016年と比較すると、また別の示唆が得られます。2016年の輸入元の国の数は20で、中東依存度はおよそ50%でした。インドやロシアからの輸入シェアがそれぞれ10%を超えていました。


 2026年の輸入元の国の数は9で、中東依存度はおよそ70%でした。2016年に輸入量が確認できなかった南米のペルーからの輸入シェアが10%となりました。また、この10年間で輸入シェアが上昇した国は、韓国(5%→6%)、アルジェリア(2%→3%)、米国(1%→5%)でした。インドは大きく低下しました(12%→5%)。


 図3で述べたとおり、日本におけるナフサの供給源は輸入だけではありません。輸入した原油や備蓄を取り崩した原油から連産品の一つとして精製したりすることで、供給量を増やすことができます。


 とはいえ、原油の世界的な需給環境も厳しい状態にあり、なおかつ備蓄にも限りがあることを考えれば、まだしばらく、ナフサの供給が不安定な状態が続くと言わざるを得ないと、筆者はみています。


原油価格高止まり、ナフサ高は継続か

 図7は、日本のナフサの輸入単価(円建て)と、それをその時のドル円の相場を考慮してドル建てに換算した輸入単価の推移です。


図7:日本のナフサ輸入単価(各年3月、円建ておよびドル換算) 単位:円/キロリットル
ポテチの包装材が白黒、バナナの追熟が遅れ…ナフサと原油はどうなる!?
出所:貿易統計のデータなどを基に筆者作成

 グラフの直近の値である2026年3月は、まだ世界的な原油価格の大幅上昇の影響を受けていません。今後、先んじて急騰した原油価格に追随し、目立った上昇を演じる可能性があります。


 このグラフで注目すべき点は、2021年あたりから、二つの値に大きな乖離(かいり)が生じ始めたことです。まさに、ドル円が円安方向に急激に進み始めたタイミングです。この円安が、日本のナフサの輸入単価を上振れさせていると言えます。


 図8は、WTI原油先物の価格推移(月間平均)です。イラン戦争が勃発して以降、高止まりしています。足元の中東情勢は、鎮静化よりも悪化の方向を向き、原油価格を高止まりさせていると考えられます。


 米中首脳会談で目立った中東情勢の解決策が示されなかったこと、イランが保険料を課すなどホルムズ海峡の航行に関するルール作りを始め、同海峡を実効支配しようとしていること、それに対抗するように米国がイランを再び攻撃することを示唆していることなどは、中東情勢のさらなる悪化を招いていると言えます。


 また、石油輸出国機構(OPEC)を脱退し、減産の枠にとらわれず、増産することができるようになったアラブ首長国連邦(UAE)に対し、何らかの武装勢力がドローンによる攻撃を仕掛け、原油の供給増加を妨げるそぶりを見せていることなども、情勢悪化・原油価格高止まりを、後押ししていると言えます。


図8:WTI原油先物(期近)月間平均 単位:ドル/バレル
ポテチの包装材が白黒、バナナの追熟が遅れ…ナフサと原油はどうなる!?
出所:Investing.comのデータより筆者作成

 足元、一部のポテトチップスの包装材の色が白黒になったり、追熟したバナナの流通量が減る懸念が大きくなったりしていますが、今後、この傾向はさらに強まる可能性があると、筆者は考えています。


 川上(≒全体)に位置する原油の価格が高止まりしたり、原油の需給が引き締まったりするだけでなく、川中に位置するナフサを輸出する国(産油国とは限らない)や企業が出し渋りをしたり、奪い合いによって国際的なナフサの需給動向が急激に引き締まったりする可能性があるためです。


 ポテトチップスやバナナ、納豆、豆腐、カーペット、注射器、医療用手袋・ガウン、タイヤ、ボールは、ほんの一部にすぎません。ナフサが世界中の人々の衣食住の深部まで浸透していることを考えれば、「ナフサを持つ者」は大変に大きな影響力を持ちます。


 その者にとって「出し渋り」は、(1)自身のナフサの安定供給を維持し、(2)価格を上向かせて経済的メリットを大きくし、(3)相手に対して影響力を大きくすることができる、一度で複数のうまみがある行為です。


 まだしばらく、「ナフサを持たない者」は、知恵を絞り、工夫し続ける必要があると思います。


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[参考]エネルギー関連の投資商品(一例)

国内株式(NISA成長投資枠活用可)

INPEX(1605)
出光興産(5019)


国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)

NNドバイ原油先物ブル(2038)
NF原油インデックス連動型上場(1699)
WTI原油価格連動型上場投信(1671)
NNドバイ原油先物ベア(2039)


外国株式(NISA成長投資枠活用可)

エクソン・モービル(XOM)
シェブロン(CVX)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)


海外ETF(NISA成長投資枠活用可)

iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF(IXC)
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ETF(XLE)


投資信託(NISA成長投資枠活用可)

シェール関連株オープン
HSBC世界資源エネルギー オープン


海外先物

WTI原油(ミニあり)


CFD

WTI原油・ブレント原油・天然ガス


(吉田 哲)

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