米コグニザント・テクノロジーは、北米の金融・医療業界向けサービスに強い世界トップ10レベルのシステムインテグレーターです。継続的な利益蓄積によって過去10年間で株主資本は1.6倍になった一方、時価総額は0.7倍とむしろ減少し、同業他社と比較しても割安です。
北米金融・医療業界向けITサービスが事業の柱
コグニザント・テクノロジー・ソリューションズ(CTSH NASDAQ)(株価57.16ドル、時価総額270億3700ドル:6月1日終値)(以下、コグニザント・テクノロジー)は、米国ニュージャージー州に本社を置く、世界トップ10レベルのシステムインテグレーターです。
1841年創業で企業の信用情報分析を提供する米情報サービス企業、ダン・アンド・ブラッドストリート(Dun & Bradstreet)(非上場)の社内IT部門として1994年に誕生しました。当初から米国で営業、インドで開発という、コスト競争力を重視した二拠点モデルを採用しています。
1997年にダン・アンド・ブラッドストリートから独立して1998年にNASDAQへ上場。ダン・アンド・ブラッドストリートの主要顧客である北米金融・保険向けITサービス事業を拡大するとともに、米国の複雑な医療保険制度に対応するITサービス提供も拡充し、巨大な米国医療IT市場でリーディングプレーヤーとしての地位を確立してきました。
コグニザント・テクノロジーの競合システムインテグレーターには、日立製作所(6501 東京)、アクセンチュア(ACN NYSE)、IBM(IBM NYSE)、NEC(6701 東京)、富士通(6702 東京)、インフォシス(INFY NYSE)、キンドリル・ホールディングス(KD NYSE)などの企業があります。
アクセンチュアは戦略コンサルティングを起点にDXを推進する「上流・高付加価値」モデルの頂点と言えます。一方、IBMはハイブリッドクラウドとAI(Watson等)を武器に、企業システムの中核を担っており、キンドリル・ホールディングスはそこから分離したインフラ運用・保守のスペシャリストとして巨大な基盤を支えています。
大規模開発拠点をインドに有するコグニザント・テクノロジーとインフォシスは、圧倒的なコスト競争力と大規模な開発リソースを武器に急成長してきました。特にコグニザント・テクノロジーは、インフォシスの効率性にアクセンチュアが強みとするようなコンサル能力を融合させることで、北米の金融・医療分野で強固な顧客基盤を築いている状況です。
対照的に、日立製作所、富士通、NECの日本勢は、ハードウェア製造からシステム構築までを一体で提供する「垂直統合型」のシステムインテグレーターです。近年はデジタル事業への転換を急いでいますが、国内の製造業や公共インフラという強固な顧客基盤を背景に、現場密着型のソリューションを提供し続けている点が特徴です。
継続的な利益積み上げにも関わらず株価は低迷
コグニザント・テクノロジーの過去10年間の純利益は、2020年まで20億ドルを下回る水準でしたが、以降は20億ドル超で安定推移しています。この転換の背景には、従来の労働集約型モデルから、生成AIやクラウド等の高付加価値なデジタル領域へのポートフォリオ転換があります。
また、不採算事業の整理や業務自動化によるコスト構造の最適化、コロナ禍で急増したヘルスケアDX需要の取り込みが収益性を高めました。専門的知見とインド拠点の効率性を融合させ、高単価案件へシフトしたことで、薄利多売からの脱却と安定的な利益成長を実現しました。現在も投資を継続しながら、強固な収益体質を維持しています。
<コグニザント・テクノロジーの当期純利益推移(2015年12月期以降)>
コグニザント・テクノロジーの過去10年間の株価は、緩やかな上昇基調を辿りつつも、市場環境の変化や成長鈍化への懸念から一定の変動を繰り返しています。
2010年代半ばまでは堅調でしたが、2017年頃からはITサービス業界の競争激化や成長率の鈍化が意識され、株価は停滞気味となりました。2020年のパンデミック以降は、DX需要の急増を背景に一時回復したものの、競合他社と比較して成長スピードが緩やかであるとの見方から、株価はボックス圏内での推移が続いています。
<コグニザント・テクノロジーの株価推移(2015年12月期以降)>
PBRが過去平均水準に回復すれば株価は101ドル
過去10年間の変化で見ると、売上高が1.7倍、当期純利益は1.4倍に拡大しました。この期間、株主資本蓄積は順調に進んで1.6倍となりましたが、時価総額はむしろ約3割減少しています。
結果的にPBRは3.9倍から1.6倍へと低下しており、割安感が出ている状況となっています。この割安感が解消され、PBRが過去10年間の平均水準である3.2倍にまで上昇した場合には、株価は101ドルとなります。
<コグニザント・テクノロジーの業績推移(2015年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2015年12月期 2025年12月期 変化(倍) 売上高 12,416 21,108 1.7 売上総利益 4,976 7,117 1.4 営業利益 2,142 3,327 1.6 当期純利益 1,624 2,230 1.4 株主資本等合計 9,278 15,015 1.6 時価総額 36,496 27,037 0.7 PBR(倍) 3.9 1.6 - PER(倍) 22 12 - ※時価総額は、2015年12月期は期末時点値、2025年12月期は直近値
出所:コグニザント・テクノロジーの資料等より楽天証券経済研究所が作成
コグニザント・テクノロジーの過去10年の業績をセグメント別で見ると、「製造・小売・物流・エネルギー」のセグメント(セグメント名はプロダクツ・アンド・リソーシズ)の売上高が最も増加しました。
これは、米中摩擦やコロナによる物流混乱に見舞われた北米メーカーがサプライチェーンを全面的に見直す中、コストに敏感な製造・小売・物流・エネルギー業界の企業にとって、コスト競争力を有するコグニザント・テクノロジーのサービスの魅力が高かったことによるものです。
また、「医療・ライフサイエンス」のセグメント(セグメント名はヘルスサイエンス)も、米国の複雑な規制環境下でコグニザント・テクノロジーが圧倒的な専門性を有する中、コロナ禍以降の医療DX需要の高まりを背景に売上高が増加しました。
コグニザントの過去10年間の業績を地域別で見ると、北米市場が圧倒的な収益の柱であり続けています。売上高の約7割を占める北米では、ヘルスケアや金融分野を中心にDX案件の需要が根強く、成長の主戦場となっています。
一方、欧州市場は、英国やドイツを中心としたデジタル変革需要を捉え、安定的な拡大を維持しています。成長市場である「その他(主にアジアやラテンアメリカ)」については、グローバル企業のオフショア拠点としての機能に加え、現地企業のDX需要取り込みにより重要性が増しています。
<コグニザント・テクノロジーのセグメント別業績推移(2015年12月期と2025年12月期)> (百万ドル) 2015年12月期 2025年12月期 変化(倍) セグメント別売上高 12,416 21,108 1.7 ヘルスサイエンス 3,668 6,347 1.7 金融サービス 5,003 6,173 1.2 プロダクツ・アンド・リソーシズ 2,344 5,285 2.3 通信・メディア・テクノロジー 1,402 3,303 2.4 地域別売上高 12,416 21,108 1.7 北米 9,759 15,780 1.6 イギリス 1,188 1,922 1.6 欧州 820 2,090 2.5 その他 648 1,316 2.0 出所:コグニザント・テクノロジーの資料等より楽天証券経済研究所が作成
今後については、生成AIやデジタル・エンジニアリングへの注力により、緩やかな増収増益を見込んでいます。特に、米国の医療分野でのDX需要は引き続き堅調で、収益の柱として機能する見通しです。株価水準がこのまま変わらなければ、PBRはさらに低下していくことが見込まれます。
<コグニザント・テクノロジーの業績予想> (百万ドル) 2025年12月期
実績 2026年12月期
予想 2027年12月期
予想 売上高 21,108 22,379 23,494 当期純利益 2,230 2,687 2,871 株主資本等合計 15,015 16,297 17,910 時価総額 27,037 27,037 27,037 PBR(倍) 1.8 1.7 1.5 PER(倍) 12 10 9 ※時価総額は直近値
出所:コグニザント・テクノロジー、FactSetの資料等より楽天証券経済研究所が作成
システムインテグレーター同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は78ドル
一般に株式の評価と収益性はおおむね、下図のような比例関係にあります。
<株価評価と収益性はおおむね比例関係>
この関係を活用し、コグニザント・テクノロジーと上場同業他社について、収益性についてはROEを、株価評価についてはPBRを適用した散布図を作成すると、概ね比例関係にあることがわかります。
その中で、コグニザント・テクノロジーについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があると言えます。この割安感が解消された場合のコグニザント・テクノロジーのPBR(下図の青破線に乗る水準)は2.5であり、相当する株価は78ドルです。
<主なシステムインテグレーター企業のROEとPBRの関係>
<主なシステムインテグレーター企業10社のROEとPBR> 社名 証券コード 取引所 売上高 ROE PBR 百万ドル % 倍 日立製作所 6501 東京 70,352 13 3.6 Accenture ACN NYSE 69,673 26 3.7 IBM IBM NYSE 67,536 35 9.5 Tata
Consultancy TCS インド 30,243 49 8.3 Capgemini CAP パリ 25,386 14 1.4 NEC 6701 東京 23,808 13 2.6 富士通 6702 東京 23,278 24 3.1 Cognizant
Technology CTSH NASDAQ 21,108 15 1.7 Infosys INFY NYSE 20,158 32 5.5 Kyndryl
Holdings KD NYSE 15,092 17 2.4 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成
また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、コグニザント・テクノロジーは2.6%の利回り(一株当たり配当1.31ドルで計算)となっており同業他社比で遜色ない水準です。
<主なシステムインテグレーター企業10社の配当及び総還元利回り> 社名 証券コード 取引所 前年度 今年度 実績配当 総還元 予想配当 % % % 日立製作所 6501 東京 1.1 2.8 1.2 Accenture ACN NYSE 2.3 5.3 3.7 IBM IBM NYSE 3.0 3.2 3.0 Tata
Consultancy TCS インド 4.7 4.7 5.6 Capgemini CAP パリ 2.4 3.7 3.4 NEC 6701 東京 1.0 4.0 1.1 富士通 6702 東京 1.6 4.9 1.5 Cognizant
Technology CTSH NASDAQ 2.4 8.2 2.6 Infosys INFY NYSE 3.8 7.8 5.0 Kyndryl
Holdings KD NYSE 0.0 14.7 0.0 出所: 各社資料等より楽天証券経済研究所が作成
コグニザント・テクノロジーは今後も高水準収益継続が見込まれる中で、現在の株価57ドルには割安感があります。過去実績比で割安感が解消された水準は101ドル、同業他社比で割安感が解消された水準は78ドルです。
(西 勇太郎)

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