有名なマーライオンは「1体」ではない…だと?

 シンガポールの象徴といえば、真っ先に思い浮かぶのが「マーライオン」でしょう。ライオンの頭と魚の胴体を持つこの像は、マーライオン公園に立つ姿が世界的に有名で、多くの観光客が訪れる定番スポットとなっています。

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 実はシンガポール政府観光局が公認するマーライオン像はこの1体だけではなく、現在、シンガポール国内には合計6体の公式マーライオンが存在しています。しかし、その事実を知っている観光客は少なく、それどころか現地住民ですらその存在を知らない人がほとんどです。

 実際、筆者がシンガポール人の友人の何人かに「公式マーライオンって6体あるんだよね?」と聞くと、ほとんどが「え?」と驚きの表情を浮かべます。

 今回は、シンガポール人ですら意外と知らない6体の公式マーライオンを巡ってみました。

 一番有名なマーライオン像は、マリーナベイにあるマーライオンパークに設置されたものでしょう。政府として公式に作られた最初の像であり、いわば“始祖のマーライオン”とも呼べる存在です。

 シンガポール人彫刻家 リム・ナン・センによって1972年に製作・設置され、2002年に現在のマーライオンパークに移設されました。

 高さ約8.6mで、重量はなんと70トンもあります。口から吐き出される水は給水ポンプによってくみ上げられていますが、そのユニットは運転用とバックアップの2組が設置されており、常に稼働できる体制が取られています。

 その背後には高さ約2mの小さなマーライオンが置かれています。これは「マーライオン・カブ(子マーライオン)」と呼ばれており、始祖のマーライオンを製作したリム・ナン・センが製作したものです。製作された理由については諸説あり、大小の異なるマーライオン像を並べて展示することでその大きさを実感させる狙いや、親子的な関係性を演出したなどいわれています。

住宅街に現れた「元・闇マーライオン」

 本家と子マーライオン以外で比較的アクセスしやすいのが、オーチャード地区近くのツーリズム・コート(旧観光局施設)にあるマーライオンです。

 庁舎の一階部分はシンガポール国内の観光資源をアピールする展示場として一般公開されており、その入り口には白いマーライオン像が鎮座しています。しかし、これはあくまでも展示場のオブジェであり、公式マーライオンは建物裏の茂みに置かれています。

 このマーライオンの高さは約3mで、全体的なデザインが始祖のマーライオンよりもスリムな感じで“細身のマーライオン”とも呼べる存在です。

 始祖のマーライオンと大きく異なる外見と、建物裏の茂みという分かりにくい設置場所のため、説明無しでこれを公式像だと分かる人は少なく、建物内の入り口にあるオブジェのマーライオンを“公式”と勘違いする人も多く、間違えて入り口のマーライオンを撮影して帰ってしまう観光客も少なくないようです。

 展望スポットとして知られるマウント・フェーバーにも公式マーライオンがあります。丘の上の展望広場に設置されており、港湾地区や高層ビル群を見渡すことができ、設置場所のロケーションは抜群の“高台のマーライオン”といえるでしょう。

 しかし、観光客の多くは展望そのものが目的で、マーライオン自体も展望台の脇に置かれているため、これが公式のマーライオンであることを知らずに通り過ぎてしまうことも少なくありません。マーライオンは公式像が存在する一方で、像自体はシンガポール中に無数に存在しており、それ自体が特別な存在というワケではありません。高台のマーライオンも、像よりも展望広場からの景色の方に魅力があり、それゆえに公式像であってもあまり注目されていないようです。

 そして最も意外な存在だったのが、住宅地として知られるアンモキオ地区に置かれた公式像です。ここにはペアのマーライオン像が設置されており、その見た目から“双子のマーライオン”とも呼べる存在です。

 周囲は高層の公営住宅が立ち並ぶ典型的なニュータウンで、観光地らしい雰囲気はほとんどありません。実際、筆者が訪れた際も周辺に観光客の姿は見当たらず、買い物帰りの住民や通勤途中の人々が行き交うだけでした。

 この双子のマーライオンは地区の住民組織が「シンガポールらしい象徴を」という要望から1999年頃に設置されたものなのですが、マーライオンの意匠権や商標権を管理するシンガポール政府観光局との事前承認手続きが終わる前に設置されたため、一時期は「公式認定を受けていないので撤去されるのでは?」という騒動もあったそうです。

消えた“超大型マーライオン” はビーム光線も装備

 マーライオンについて調べていると、「公式マーライオンは7体」と紹介する古い資料も見つかります。これは、かつてセントーサ島に存在し、解体された幻の7体目が存在していたからです。

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マーライオン自体は1966年に商標登録されており、そのデザイン利用には許可が必要とされている。一方で観光地では多種多様なマーライオングッズが販売されている。(布留川 司撮影)。

 セントーサ島のマーライオンは、像というよりも建物と呼べるものでした。その高さは約37mもあり、内部は人が入ることが可能で、展示スペースとエレベーター、さらに口の中と頭頂部には展望台まで設置されていました。

 その巨大さゆえに像でなく「マーライオンタワー」という呼び名が定着していましたが、政府によって他の像と同じように公式認定を受けており、それらと比較すると“超大型マーライオン” 像と呼べるでしょう。

 また、他の公式マーライオン像と決定的に違うのは、この像の目にはレーザー光線が照射できたことです。もちろん、これは超大型マーライオンが防空兵器だったのではなく、セントーサ島で夜に行なわれるナイトショーでの演出のためのものです。

 超大型マーライオンは1995年に完成し、その大きさから始祖のマーライオンと並ぶ観光地として人気となりましたが、建設されたセントーサ島の再開発に伴い2019年に解体されてしまいました。

 地元のメディア「ストレーツ・タイムズ」が当時配信したニュースでは、解体を残念に思う地元民の声が数多く掲載されていましたが、その中には「目からレーザー光線を発射できるマーライオン像は他にはないでしょう」という突飛なコメントも掲載されていました。

観光の象徴から国家の象徴へ

 この様なコメントは、シンガポール人にとってのマーライオンの位置付けをよく表しているともいえます。

 世界の国々にはその国を象徴するシンボル的な存在があり、国の象徴といえば高貴で敬うものというイメージがあります。しかし、実際には国ごとでシンボルが千差万別で、それに抱く国民のイメージも異なるのです。

 シンガポールのマーライオンの場合、そもそもの始まりは観光業を発展させるための象徴だったと言われています。それが現在の国を象徴するシンボルとなれたのは、これまで紹介してきた“7つのマーライオン”の存在や、そのデザインがさまざまな製品やキャンペーンに使われてきたからだといえるでしょう。

 現在、シンガポール政府が公式に認定したマーライオン像は、マーライオンパークの “始祖のマーライオン”と“子マーライオン”、ツーリズム・コートの裏の“細身のマーライオン”、マウント・フェーバーの “高台のマーライオン”、そしてアンモキオの“双子のマーライオン”の計6体です。

 これらの像はそれぞれが異なるデザインと場所にありますが、その違いはある意味でシンガポールの歴史と文化を象徴するものであり、これらを巡ることは単なる観光とは違う楽しみを感じられます。

【写真】えっ…これが「知られざる公式マーライオン」驚愕の全貌です

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