いま北米で日本の中古車が大人気といいます。しかも25年以上前の、80~90年代初頭のものが飛ぶように売れているとか。

そこには北米独自のルールと、日本ならではの自動車事情が絡み合っていました。

日本のかつての名車たちが北米へ流出している?

 近年、80年代~90年代の日本車が北米(カナダ・アメリカ)で大変人気が高くなっています。日本車といっても、当時北米で販売されていた車ではなく、日本で製造、販売され日本のユーザーが乗っていた右ハンドルの日本の中古車です。車種でいえば日産「スカイライン」や、マツダ「RX-7」、トヨタ「スープラ」や三菱「デリカ」、同「パジェロ」などの車種です。

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる...の画像はこちら >>

「SEMAショー2017」にて、デモランする日産のR30型「スカイライン」(公道ではない)。沖縄のナンバープレートにも、もちろん意味がある(2017年、加藤博人撮影)。

 本来、右側通行の国であるカナダやアメリカでは右ハンドル車の輸入は認められていません。理由は、右ハンドル車の走行は危険とされていること、そして、他国の自動車を簡単に流通させないための、関税の一種のようなものともいえるでしょう。日本はご存知の通り、左右どちらのハンドルでも輸入、登録、走行が可能です。そして、輸入車に対する関税もゼロです。

 そのようなわけで、北米では一般ユーザーが乗れないはずの右ハンドル車ですが、「25年ルール」(カナダは15年)と言われるとある規制緩和措置によって、80-90年代に登録された日本の中古車がスポーツカーや4×4を中心に、どんどん北米に流れて行っているのです。

 アメリカで25年ルールが適用されるのは、製造から25年が経過した車です。

また、カナダではそれより10年早く「15年ルール」が適用されます。前述のように、カナダやアメリカの北米では右ハンドル車の走行はできませんが、15/25年ルールの適用によって、輸入販売が可能になるというわけです(アメリカでは25年ルールをせめて20年に、できればカナダと同じ15年に短縮させよう、という動きが自動車メディアやユーザーのあいだで盛んです)。

 実は、25年ルールとはハンドルの位置に関する規制だけが緩和されるわけではありません。アメリカは車検の代わりに、「スモッグテスト」と言われる排ガス検査がありますが、そのような検査も関係なくなります。シートベルトがないクルマもOK。つまり製造から15/25年(カナダ/アメリカ)を経過すれば、北米で車を輸入、販売、走行に関わる全ての規制がなくなると言って良いでしょう。

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?

右ハンドル仕様のR32型「スカイライン GT-R」。日本国内では1989年発売で、北米の15/25年ルール適用対象(2017年、加藤博人撮影)。

 最近の日本車は製造から25年経過してもまだまだ現役で問題なく乗れる車が多いので、北米で引っ張りダコとなり、日本での中古車価格も高騰している状況にあります。ただし気を付けないといけないのは、合衆国政府は25年ルールでOKを出しても州ごとに、たとえば「シートベルトがないクルマはダメ」「州独自の排ガステストに合格しないとダメ」といった決まりを設けている場合もあります。その場合は州の規制が優先されます。

25年ルールで人気の日本車とは?

 すでに25年ルールが適用されて、大量の日本の中古車が海を渡って北米の地で元気に走りまわっています。

カナダではひと足早い15年ルールとなるため、現在は2002(平成14)年までに日本で製造された車なら輸入OKとなります。

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?

北米でも「ハイエース」のカスタムは盛んにおこなわれているという。写真は1982年発売の3代目(画像:トヨタ)。

 具体的には日産「スカイライン(R32)」「シルビア」、トヨタ「カローラレビン/スプリンタートレノ(AE85/AE86)」「スープラ」「ハイエース」「ハイラックスサーフ」、三菱「デリカ」「パジェロ」、スバル「インプレッサ」、スズキ「キャリイ」に代表される軽トラ、などなど。北米仕様が設定されなかった日本車に人気が集中しています。映画『ワイルドスピード』の影響も大きく、この映画によって80~90年代の日本製パフォーマンスカーの人気がぐっと高まりました。

輸出の現場の声は?

 熱狂的なJDM(Japanese Domestic Market、日本国内市場を意味し、転じて日本仕様の日本車のことを指す)ファンは、アメリカで新車時から販売されている左ハンドルのクルマではなく、よりホンモノの日本車を求めて、わざわざ右ハンドル仕様を輸入する人もいるようです。

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?

日本国内にて1989年9月発売の「CR-X SiR」は、搭載された1.6L DOHC VTECエンジンが最高出力160馬力を絞り出す(画像:ホンダ)。
80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?


 日本全国のオークションを経由して、北米向けに日本の中古車を輸出しているパシフィック・コースト・オート(横浜市都筑区)を経営するデレク・ウェルドンさんは、「自分の国で売っていないクルマに乗ることはとてもエキサイティングです」と話します。

「当社で人気があるのは90年代の日本製スポーツカーとディーゼルエンジンの4×4ですね。この時代の日本車はとくにスタイルが良いです。パフォーマンスも素晴らしく、JDMのアイコニックなクルマが豊富に揃っています。

また、例えば『CIVIC CR-X』など、北米で販売されていたクルマでも、日本仕様とはスペックが違うケースが少なくありません。北米では115馬力、日本では160馬力の仕様で、さらにフルグラスルーフと、後部座席もついています。北米の自動車愛好家はこのような日本仕様のクルマに憧れています」(パシフィック・コースト・オート デレク・ウェルドンさん)

 加えて、日本の中古車は走行距離が少ないことでも知られているそうです。たとえばドイツ車の流通も多い日本市場ですが、ほかの国より走行距離が少なくコンディションの良いものが見つかりやすいそうで、デレクさんは「BMW『M3』やポルシェなどのスポーツカーも手に入りやすいですね」と話します。

外国から日本の中古車はどう見られている?

 パシフィック・コースト・オート社のウェブサイトには、「WHY JDM?」と題し「なぜ、日本で使われていた日本車が中古車として優秀なのか? 人気があるのか?」について書かれています。もちろん、日本車そのものの性能が良いこと、壊れにくいし、古い車でも部品の供給がスムースであることなどは前提としてありますが、これらに加え、「日本における車の使われ方、所有のされ方」について言及されているのでご紹介します。

●パシフィック・コースト・オート「WHY JDM?」より抜粋
・日本は車を所有することに北米よりもはるかにたくさんの制限がある。ガソリン、税金、駐車場も高く、車庫証明なども必要なので、車を持てる層は限られている(つまり一定以上の収入がある人しか車を所有できないので、大切に扱われている車が多い)。
・2年に一度(新規登録時は3年)車検があるので、古い車であってもきちんと走れる車がほとんど。
・車の整備や点検は、ほとんどのユーザーが認証を得たプロの整備業者やディーラーに任せている。
・日本の都市部では公共交通機関が発達しているので都市部で所有されていた車は特に走行距離が少ない。
・10万キロ程度で抹消登録(廃車)にしてしまおうと考えるユーザーも多数。


・…などなど。

 つまり、日本で乗られていた車は、もともとの車の性能に加え、世界でも例を見ないほどコンディションが良く、それでいて値段もリーズナブル、人気が集まるのもわかりますね。

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?

日本国内で1995年に発売されたR33型「スカイラインGT-R」。カナダではすでに15年ルール適用対象(2017年、加藤博人撮影)。
80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?


 確かに、日本人の年間走行距離は1万km以下であるのに対して、アメリカでは年間3~4万kmの走行で、総走行距離が30万kmを超えて普通に走っている車も多々あります。日本における法定耐用年数も新車の場合、初度登録から4~6年で償却するのが原則となっていますから、5年経過すると途端に査定価格も下がってしまいます。

 日本ではスクラップになってしまう中古車でも、海外のユーザーに切望され、現地で大活躍するクルマがこれからも増えそうですね。

【写真】アメリカで生まれ変わったR33型「GT-R」

80~90年代日本車が北米で大人気のワケ 日本の実情にハマる「15/25年ルール」とは?

R33型「スカイラインGT-R」はカスタムの題材としても人気。写真は「SEMAショー2017」(米・ラスベガス)に出展されたもの(2017年、加藤博人撮影)。

編集部おすすめ