宮城県石巻市――。世界三大漁場の1つで三陸金華山沖の恵みに栄えた日本有数の港町だ。
(株)ヤマニシ(TSRコード:141012153、石巻市)も大震災で窮地に陥り、会社更生法の適用を申請したが、不屈の再建を果たした。
東日本大震災による被災と会社更生法の申請、そして再生に至るまで、同社はどのようなプロセスを歩いてきたのか。再生を決定付けた要素は何だったのか。
東京商工リサーチは、ヤマニシの鈴木正己・代表取締役社長に事業再生までの道のりをインタビューした。
ヤマニシのドック(提供写真、以下同)
株式会社ヤマニシ
1920年、創業者が海運業を営んでいたことから、所有する船舶の修理、製造を目的として設立。
その後は新造船事業を中心に業容を拡大した。
現在は、修繕船事業と造船技術を応用した鉄構造物事業を中心に手掛ける。
東北屈指の大規模なドライドック(陸地で船を修繕する設備)を擁し、小型漁船から大型貨物船まで多種多様な船を扱う。
代表取締役社長・鈴木正己氏
1965年生まれ
石巻高等技術専門学校機械科を卒業後、1982年に(株)ヤマニシ(当時の商号は(株)山西造船鉄工所)入社
生産部船装課でキャリアを積み、2014年執行役員生産部長
2020年取締役生産部長兼営業部長
更生手続き中の2021年1月、代表取締役、事業家管財人に就任
東日本大震災で被災した会社の立て直しにあたった
東日本大震災で船も設備も流された
2011年3月11日。ヤマニシのドック横の海岸には、眩しい春の日に輝く商船が1隻つないであった。完成引渡しを待つ2万5000トンの貨物船だ。華々しい進水式を終え、1週間後には船主に引き渡されるはずだった。
船台(陸上設備)には同型の貨物船が1週間後の進水式を待っていた。
「工事は順調に進んでいた。引き渡しや進水の日を楽しみに、社員みんなが仕事にまい進していた」(鈴木社長)
だが、午後2時46分。最大震度7の地震が東北地方を襲った。津波が押し寄せ、ヤマニシのドックは瞬く間に海水に飲み込まれた。
工事中の船舶はすべて流された。そのとき船上には、作業中の社員、協力会社の従業員、約130名がいた。船は波にもまれ、押し流され、うち1隻は防波堤に乗り上げてようやく停止した。河口の橋に突き刺さった船もあった。進水を待っていた船も、損傷により石巻湾内で着底した。
船上の全員は奇跡的に救助され無事だった。
津波の第一波が襲来、壊滅的な被害を受けた
手作業で復旧、微かに希望は見えたが…
震災の被害は甚大だった。完成目前だった船は引き渡せる状態にない。
「まさに壊滅的だった。被害総額は数十億円にのぼり、とても営業できる状態ではなかった。だが、社員は誰一人欠けることなく生きている。その事実が、復興に向き合う気概につながった」(鈴木社長)
社員同士、お互いに声を掛け合い、復旧作業にあたった。泥をかぶった備品を一つひとつ水で洗い、油で洗った。こうした作業を経て、震災から1年8か月後、新造した漁船1隻の進水式を迎えることができた。被災前に引き受けていた県外の水産高校からの依頼だった。
たった1隻だが、船の引き渡しを終えた時には、「いけるよ。まだやれる」こうした空気が社内にひろがった。
とはいえ、状況は依然として厳しかった。手作業でのカバーには限界がある。
会社更生法の適用申請へ
取引先の信頼を取り戻すため、ヤマニシはメインバンクを中心に再建計画を相談していた。債務カットと補助金を得ることができ、2013年2月、新造船設備が復旧する。
これで以前のような営業ができる――。誰もがようやく再スタートをきれると思った。だが、多額の設備投資を実施したにもかかわらず、ヤマニシを待っていたのは、深刻な受注低迷だった。
被災で2年近くまともな事業活動ができない間、顧客離れが進んでいた。一時的な復興需要に支えられたが、リーマンショック後の需要減少などによる造船不況も逆風となり、新造船の受注は目に見えて減っていった。
円高で受注を国内船(内航船)に絞るなど、業容転換を図ったが、追い詰められると採算に合わない案件も受注せざるを得なくなる。会社の負債は膨らんでいった。
ヤマニシは弁護士に相談し、2020年1月、東京地裁に会社更生法の適用を申請した。
申請時の負債総額は約120億円。
ヤマニシ代表取締役社長・鈴木正己氏
スポンサー募集はコロナ禍で難航
再建計画を作るにあたり、スポンサー支援を得たいヤマニシは、全国でスポンサー候補を探し回った。しかし、コロナ禍でスポンサー募集は暗礁に乗り上げた。
「当時、コロナは本当に『得体のしれない恐怖のウイルス』だった。膝詰めで話したいが、対面での面談を制限している企業もあった」(鈴木社長)
どの企業もコロナ対応に追われ、余裕がなかった。その時、抱えていた仕掛り中の船もあり、これ以上は時間がかけられない。そこで自力再建を決断した。
「高収益体制」を築く大胆な再建計画
自力再建するためには、会社の強みを徹底的に洗い出し、持てる設備、技術をフル稼働し、高収益体制を目指さなければならない。
ヤマニシの再建計画はこうだ。
資金的な問題から、これまで会社の柱だった新造船事業を停止する。そして、東北最大規模の修繕設備であるドライドックを使っての修繕船事業と、新造船事業設備を有効活用できる鉄構造物事業に集中する。
修繕船事業は、1隻あたりのドライドックの占有期間を短縮することで、既存顧客に加え新規顧客の取り込みが可能になる。ヤマニシの立地は、三陸沖漁場及び大阪から苫小牧までの航路のちょうど中間地点にあたる。
鉄構造物事業は、造船技術を生かして船体ブロックなどの鉄構造物の製造を手掛ける。日本の造船方式は、大半が「ブロック建造法」だ。まず、船の各パーツ(船体ブロック)を作り、それらを組み立てて溶接し、大きな船の形を作り上げていく。この船体ブロック製造を、新造船を手掛ける他企業から請け負う。
「船体ブロックだけでなく、橋梁や原発関連工事、洋上風力発電施設に使う鋼製タワースタンド製造など大型の鋼構造物も手掛けられる。精密さの求められる造船業で培われた技術は、様々な分野に応用が効いた」(鈴木社長)
洋上風力発電のタワースタンド、秋田港へ16基設置
苦渋のリストラ
再建にはリストラも避けられなかった。新造船事業の社員を中心に人員削減を実施した。苦渋の決断だったが、経費の大半を占める人件費の削減は不可欠だった。
一方で、修繕船、鉄構造物事業に関わる社員は絶対に残ってもらわなくてはならない。どうしても引き留められない社員もいた。だが、動揺する社員に迷わずアタックした。鈴木社長は改めてヤマニシの強みを社員に説き、「復興を手伝ってほしい」と頼んだ。
鈴木社長をはじめ、営業担当は無我夢中で顧客のもとを回った。船会社、他造船所、橋梁会社等すべてを引き受ける勢いで案件獲得に奔走した。
会社更生法適用から約5年で弁済完了
社員の頑張りで納期厳守の仕事を積み重ねるうちに、取引先からの信頼回復を肌で感じられるようになった。
売上は徐々に伸びた。鉄構造物事業は、大手ゼネコンから原発及び洋上風力発電関連の大口案件を受注し、修繕船事業は年間100隻前後の引き渡しができるようになった。
2025年3月期の売上高は25億7632万円、最終利益1億5717万円をあげるまでに回復した。こうして同年12月、ヤマニシは計画より1年早く弁済完了を果たした。
再生を成功に導いた3つの要素とは
経営破綻から再生に挑む会社は少なくない。だが、そのすべてが成功するわけではない。
ヤマニシの再生が成功した「決め手」は何だったのか。鈴木社長は、第1にコストコントロールの徹底を挙げる。
「一日も早く弁済を終える。そのためには、売上が拡大する分だけ出ていくコストを意識することが重要だ。単純に言えば、売上-費用=利益。こんな当たり前の図式を胸に刻み、日々の事業活動に臨んだ。細かいが、社屋の電気も無駄遣いしないように気をつける。堅実な意識が会社全体で共有できていた」と明かす。
2つ目は、必要な場面では迷わずプロの力を借りたこと。
ヤマニシは、企業再生に詳しい弁護士事務所に再建の道筋を仰いだ。慎重さが求められるリストラ策でも、現実的に収益を確保できるラインを専門家に相談した。「財務面ではとくに専門家の知見を頼りにした。もし会社だけで決めていたら、間違いなく道を誤った分岐点がいくつもあった」(鈴木社長)。
3つ目は、地域が築いてくれた協力網だ。
「商工会議所の紹介で、次第に多くの方が当社の株を取得してくれるようになった。そして、そのつながりでさらに受注が増えた。石巻に造船業の火を絶やしてはならないと、地域一丸となって応援していただいた」(鈴木社長)
鈴木社長は、「再建計画を早期に実現できたのは、社員の高い技術力あってこそ」と強調する。経営が軌道に乗ったことで、2025年度は中途採用で5名の社員が入社した。
造船業界の課題をカバーして社会に寄与する
2025年12月、政府が「造船業再生ロードマップ」を公表した。2035年までに官民で1兆円規模の投資実現を目指すとしている。
これに対して鈴木社長は、「新造船事業への関心度は確かに上がっている。しかし、修繕船事業はどうか。新しく船を1隻仕上げるには年単位の時間がかかり、いまある船を長く安全に使うことも視野に入れなければならない。注目のAIを始め、最新のIT活用も既存の船のシステム改修で対応できる場合がある」と見解を述べる。
海運や造船を支える重要なポジションとして、存在をアピールしていく――鈴木社長は意を強くする。
「この先はとくに、取り巻く環境の変化を捉えることが課題だ。支えていただいた皆様にお礼ができるよう、社会貢献度の高い事業体制を築いていく」(鈴木社長)
地域への恩返しのためにも、強固な事業基盤と収益体制が肝心だ。創業100年以上の歴史を背負うヤマニシ。石巻の造船業の火は、次世代につながっていきそうだ。
漁船を陸上に引き揚げて修繕を行う様子
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月27日号掲載「再生への軌跡」を再編集)

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