辻発彦が語る「走・攻・守」~攻撃編

 西武時代の1993年に打率.319でパ・リーグ首位打者、ヤクルトに移籍した96年にはリーグ2位の打率.333をマークするなど、球界屈指の好打者として名を馳せた辻発彦氏。90年の巨人との日本シリーズでは、1番打者として4試合連続して第1打席に出塁し"4タテ"の原動力となった。

そんな辻氏に打撃理論、好打者の条件について語ってもらった。

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現役時代、3度の三冠王を獲得した落合博満

【打撃向上のコツ】

── 社会人時代は4番打者だったのが、プロに入ってから1、2番に徹したと聞きました。

 それは間違いですね。社会人時代は、最初が7番で、最後は1番です。3番も打ったことがありましたが、4番を打ったことはありません。

── バットは34インチ、重さは920グラムから950グラムのものをひと握り短く持っていたのですね。

 バットの長さを短くして、グリップエンドいっぱいに持つよりも、34インチを短く持ったほうが振りやすかった。

バランス感覚の問題なのでしょうね。

── 10年目の93年に打率.319で首位打者のタイトルを獲得しました。

 私はヒッチ(打者がスイング前にグリップを下に動かす予備動作のこと)して打っていたのですが、一番大事にしていたのがトップの位置を早くつくることです。タイミングを早くとって、打ちにいくことが必要です。私はボールを引きつけて軸回転で打つというよりも、少し前に出て打ちにいくタイプでした。泳いで打つとはまた違います。

基本はストレート待ちで、変化球に対応していました。2ストライクと追い込まれたらスピードのある変化球を待って、ストレートならカットする。ファウルにする技術も必要なんです。

── 打撃を向上させるコツはありますか。

 絶対にバットのヘッドが遠回りしないように、"インサイドアウト"の軌道で内側からバットを出す。当然のことながら、自分のスイングをつくりあげる。

内角・真ん中・外角とありますが、バットに当たる角度が違うだけで、スイングは一緒。

【いい打者は引っ張れる】

── 辻さんは「引っ張れるのはいい打者」という持論があるとお聞きしました。

辻 バットのグリップエンドが、体の近くを巻きつくように出ていかないと引っ張れない。ヘッドが遠回りしなければ引っ張れるし、打球も上がる。そういう打者は自然と右にも打てます。そういう意味で、「引っ張れるのはいい打者」ということです。

── プロ入り時の源田壮亮選手にもアドバイスしたと聞きました。

 源田は打力が弱かったという人がいますが、そんなことないです。源田の打撃を初めて見た時、「コイツはいけるな」と思ったので、「反対方向に打つ必要はないよ。引っ張っていいんだよ」という話をしました。社会人時代(トヨタ自動車)は、反対方向への打撃を意識して打っていたそうです。源田は、内角はかなり強いですよ。

── 辻さんはヤクルト移籍1年目の96年に、打率.333でセ・リーグ2位の高打率を残しています。

セ・パの投手の違いはありましたか。

 西武が強かった時代は"包囲網"が敷かれ、阿波野秀幸(近鉄)、野茂英雄(近鉄)、伊良部秀輝(ロッテ)といったエース級との対戦が多く、打撃は鍛えられました。パ・リーグのほうが2番手、3番手でも球威のある投手が多かった。一方、セ・リーグは変化球を低めに集めるというイメージでした。96年に高打率を残せたのは、意地もありました。両リーグで首位打者を獲れば、江藤慎一さん(64年中日、71年ロッテ)以来だったそうなので、惜しかったですね。


※その後、内川聖一が08年横浜、11年ソフトバンクで達成

【辻発彦が選ぶ好打者8人】

── 最近は「フライボール革命」がもてはやされ、角度が26~30度で上がった打球が、本塁打を含むヒットになりやすいとされています。スイングのレベル、アッパー、ダウンの違いをどう考えられていますか。

 低めのボールは上から打てないです。逆に、高めのボールは下から打たないでしょう。だから、ふつうにレベルで振ることしか考えていませんでした。ボールの軌道、ラインに対してバットを入れてやるというイメージしかなかったですね。それにしても野球が変わってきましたよね。

── それ以外に、いい打者というのは? 西武の黄金期は辻さんのほかにも、秋山幸二選手、清原和博選手、デストラーデ選手、石毛宏典選手と好打者が揃っていました。

 人それぞれ役割が違います。私はクリーンアップの前に、いかに出塁するかが一番の仕事だと思っていました。要は、出塁する、つなぎ役、走者を還すなど、打順や状況によって役割が変わってくるので、その場面に応じてこなせるかどうかです。

── では、ポジション別に辻さんが選ぶ好打者を挙げてください。

捕手 野村克也(南海ほか)
一塁 王貞治(巨人)
二塁 落合博満(ロッテほか)
三塁 長嶋茂雄(巨人)
遊撃 松井稼頭央(西武ほか)
外野 イチロー(オリックスほか)
外野 張本勲(巨人ほか)
外野 金本知憲(阪神ほか)

 打者はすべて昔の選手になっちゃった(笑)。落合(博満)さんは86年までロッテに在籍していたので、プレーは見ています。三遊間のヒットも右中間のホームランもありましたが、バットが遠回りしない打ち方が印象深いですね。

── 辻さんが中日のコーチ時代、落合監督は打撃面においてどういう指導をしていましたか。

 私は守備コーチでしたので、打撃指導の場と重なることはありませんでした。ただ、室内練習場でマシンの球を打って選手に見せていたことは強く印象に残っています。おそらくバットの出し方の話をしていたんじゃないでしょうか。

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