吉田正尚(レッドソックス)や千賀滉大(メッツ)がメジャーに挑戦。近藤健介が日本ハムからソフトバンクへ、森友哉が西武からオリックスへFAで移籍するなど、影響力を持った選手たちが動いたパ・リーグ

果たして今年、覇権を握るのはどのチームなのか。
 
 1980年代から1990年代に黄金時代を築いた西武のチームリーダーとして活躍し、11度のリーグ優勝と8度の日本一を達成した石毛宏典氏に、今年のパ・リーグの順位予想と展望を聞いた。

【石毛宏典のパ・リーグ順位予想】西武は昨年10敗の左腕に期待...の画像はこちら >>

西武2年目の隅田(左)とオリックスに移籍した森

【1位予想:ソフトバンク】

――ソフトバンクを1位と予想した理由は?

石毛宏典(以下:石毛) 打線では近藤健介の加入が大きいです。WBCでも選球眼がよかったし、バッティングの技術も高い。心配なのは故障ぐらいで、期待どおりの活躍をするはずです。柳田悠岐の力がちょっと峠を越えてきた感があるので、いい補強をしたと思います。


 あと、昨年の開幕直後に負った膝の大ケガから復帰した栗原陵矢の調子がいいですね。近藤や柳田らとともに主軸を任されるでしょうし、彼が元気に試合に出続ければ得点力も上がりそうです。

――ピッチャー陣では千賀投手が抜けましたが、どう見ていますか?

石毛 千賀がいなくても、大関友久はふた桁くらい勝てる球の力を感じますし、中継ぎから先発に転向した藤井皓哉も期待できます。新加入の有原航平がどれくらい投げられるか不透明ですが、それでも先発ピッチャーはある程度揃っている。

 何よりも(リバン・)モイネロと(ロベルト・)オスナが、先発ピッチャーに勝ち星をつけてくれると思います。あまり調子がよくなくても、勝ち星がつけば気分的に乗っていけることもありますからね。
そういう意味でもモイネロとオスナがいる効果は出ると思います。

 周東佑京や三森大貴、牧原大成ら走れる選手も多いですし、投げる・打つ・守る・走るといった各面で能力のある選手が揃っていて、チームの総合力を感じます。

【2位予想:オリックス】

――2位予想のオリックスは吉田選手、伏見寅威選手が抜けた一方、森選手の加入などがありましたが、どう見ていますか?

石毛 吉田は類い稀な技術を持った特別な選手ですし、打線が少し"細く"なるのは仕方がありません。杉本裕太郎はちょっと安定感に欠けますが、杉本や森が打線を引っ張っていかなければいけない。中嶋聡監督がキャッチャー出身なので、森はキャッチャーとしても成長できるチャンスだと思います。打つほうも守るほうも大変だと思いますが、「自分がチームを引っ張るんだ」という気概を持って頑張ってほしいです。



――ピッチャー陣はいかがでしょうか?

石毛 若い中継ぎのピッチャーたちが、昨年の経験を経て自信を持ったはずです。若いだけに、今年どうなるかがわからない部分もあると思いますが、ほとんどのピッチャーが150km台中盤の球をどんどん投げている。山崎颯一郎も、長身(190cm)から投げ下ろす速球が魅力ですし、宇田川優希はすごいフォークを投げますよね。

 今永昇太(DeNA)や平良海馬(西武)などもそうですが、意識して高めの直球を投げて空振りを取っています。山崎や宇田川も球威があるので、そういった攻め方ができますし、相手にとっては脅威です。

【3位予想:西武】

――松井稼頭央新監督で臨む西武は3位と予想。
先発ピッチャー陣の層は厚みが出てきましたが、WBCで右手小指を骨折した源田壮亮選手を欠いてのスタートとなります。

石毛 先発ピッチャー陣は、昨年ふた桁勝利を挙げた髙橋光成、與座海人、(ディートリック・)エンスをはじめ、松本航や今井達也など、ある程度計算できるピッチャーが少しずつ増えてきました。そこに平良海馬も加わりますね。オープン戦ではいい成績を残しましたが、シーズンでも同様のピッチングを期待しています。

――昨シーズンは1勝10敗と苦しみましたが、石毛さんは以前より隅田知一郎投手を評価していますね。

石毛 投げている球は悪くないんです。
バッターを打ち取る術みたいなものも感じますし、コンビネーションを変えたりだとか、きっかけを掴めば試合を作れて、勝ち星がついてくるピッチャーだと思っています。彼が10勝近く勝てると、チームもいい位置にいけるんじゃないでしょうか。先発ローテーションに左腕の枚数を増やしたいところなので、期待も大きくなりますね。

――森選手が抜けたキャッチャー陣はどう見ていますか?

石毛 柘植世那、古賀悠斗、岡田雅利を競争させてレギュラーを決めるのか、併用していくのか......。いくつか考え方はあると思いますが、強いチームはある程度キャッチャーが固定されています。それが正解だとは一概には言えないですけど、固定したほうが試合運びを落ち着かせられると思います。


――打線はいかがですか?

石毛 外崎修汰に頑張ってもらいたいですが、ここ数年は打率が.250にも届いていない。ベテランの中村剛也も栗山巧も峠は越えていますが、彼らの経験と技術に頼らざるをえない場面は多くなるでしょうね。新外国人の(デビッド・)マキノンや(マーク・)ペイトン次第とも言えるかもしれませんが。いずれにせよ、「山川穂高だけが頼り」という状況は避けたいところです。

【4位予想:楽天】

――楽天は4位と予想されました。どう見ていますか?

石毛 昨年は開幕ダッシュに成功していましたが、長くは続きませんでした。先発ピッチャー陣が安定しなかったことが要因のひとつだと思いますが、なかでも田中将大が貯金を作らないと。メジャーから復帰して2年連続で負け越していますが、彼の活躍は上位を狙う上での絶対条件だと思います。

 あとは若い先発ピッチャーが出てきて、岸孝之や則本昴大などのベテランを休ませるぐらいにしないといけないですね。

――左バッターが多い打線はどう見ていますか?

石毛 浅村栄斗と島内宏明はある程度はやってくれる計算が立ちます。なので、その前を打つバッターがポイントになると思います。辰己涼介や小深田大翔らがシーズンを通して安定した働きを見せられるかがポイントです。キャッチャーの安田悠馬あたりがある程度打つと、打線に厚みが出ますし面白いと思います。

【5位予想:日本ハム】

――日本ハムは、昨年に多く起用された若手がどんな成長を見せるか楽しみです。

石毛 清宮幸太郎や野村佑希など将来の主砲候補はいますが、現状は主砲がいません。確かに松本剛は昨季、首位打者を獲りましたが、返すバッターがいなければ得点力は上がりません。清宮や万波中正は当たれば飛ぶけど確率が悪いですし、彼らはあと1年くらいかかる気がします。

 今年のキャンプの時期、たまたま私も(日本ハムのキャンプ地の)沖縄にいて、八木裕打撃コーチと話す機会があったのですが、「万波の長打力は魅力だから、打てなくても8番くらいでどんどん使ってみたら?」と言ったんです。三振は多くなると思いますが、あのタイプのバッターを育てるには我慢が必要です。

 あとは新しく本拠地になるエスコンフィールドHOKKAIDOが以前の札幌ドームよりも狭く、ホームランも出やすくなるので、そこがどう影響してくるかでしょうね。

【6位予想:ロッテ】

――ロッテを最下位に予想されましたが、どんな課題が挙げられますか?

石毛 山口航輝は昨年にある程度の成績を残しましたが、安田尚憲と藤原恭大が当初の予想よりも成長していません。ドラフト1位で入団してからもう4、5年経っていますし、中心選手としてバリバリやっていてほしいところ。安田は調子がいい時期もあるのですが、あまり長続きしませんし、シーズンを通じての安定感がありません。

 巨人から来た(グレゴリー・)ポランコが、パ・リーグの力のあるピッチャーの球にどれくらい対応できるかもあやしいですし......そうなると若手のブレイクが必須です。

――山口選手は、オープン戦でも力強い打球を飛ばしていました。

石毛 長距離砲になり得る逸材だと感じています。逆方向にも大きいのが打てるのは彼の強みですね。中村奨吾はバッティングのうまさがある巧打者ですし、荻野貴司もしぶとさがある。髙部瑛斗も昨年ある程度の成績を残して自信を持ったはず。ただ、巧打者は多いのですが、長打を期待できる打者が少ないのが懸念点です。

――佐々木朗希投手には、今季にどんな活躍を期待していますか?

石毛 今年はシーズンを通してローテーションの中心で回ることを期待されていますが、WBCで早く仕上げたことで、疲労度がどう影響してくるか。いずれにせよ、彼が投げる試合では勝ちを拾っていかないといけない。それが、ロッテが上位を狙うための条件になると思います。

【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)

1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。