昨年優勝したソフトバンクに42ゲーム差をつけられ、ダントツ最下位だった西武が西口文也新監督のもと、ここまで(5月21日現在、以下同)23勝18敗で首位の日本ハムに1ゲーム差の2位。はたして、西武の快進撃の理由は何なのか? かつて西武監督時代に優勝経験がある伊原春樹氏に、今シーズンの西武の戦いを分析してもらった。
【渡部聖弥は若き日の清原和博を彷彿】
── 昨年のパ・リーグは、チーム総得点がそのまま順位に反映されました。
伊原 昨年、西武が低迷した理由は明らかでした。山川穂高がソフトバンクに移籍し、打撃陣の補強は急務でした。しかし、大砲候補として期待した両外国人(ヘスス・アギラー、フランチー・コルデロ)がまったく機能しませんでした。その結果、投手陣に負担がかかり、いい投球をしても勝ちにつなげることができませんでした。
── 今年はドラフト2位ルーキーの渡部聖弥選手がオープン戦から中軸で起用されるなど、「育てながら勝つ」という意識を強く感じます。
伊原 今年は宗山塁(楽天)や麦谷祐介(オリックス)、西川史礁(ロッテ)といったように、パ・リーグにはいい新人打者がいますが、渡部は彼ら以上の成績を残しています。ここまで打率.310はリーグ2位です。1日1本どころか、マルチ安打(1試合2安打以上)を4月終了時点で12度もマークしています。
── 伊原さんはこれまで多くの好打者を見てきたと思いますが、渡部選手のどこがいいのでしょうか。
伊原 バットに当てるミート率が高いですね。強引に引っ張らないで、センターを中心に打ち分けています。器用さと力強さを兼ね備えた打者です。
── 渡部選手のほかに、打線を牽引している選手はいますか。
伊原 新外国人のタイラー・ネビン、そして西川愛也ですね。ネビンは、大谷翔平選手がエンゼルス在籍時のフィル・ネビン監督の息子ですよね。ここまでチーム最多の20打点を挙げており、勝負強さが光っています。推定年俸2億5000万円なら、もっと打ってほしいところですが、昨年のふたりに比べれば雲泥の差です。それに一塁の守備もよく、幾度となく好守でチームのピンチを救っています。
── 西川選手についてはいかがですか。
伊原 過去に62打席連続無安打という不名誉な記録をつくったこともありましたが、昨シーズン104試合に出場した経験が生きているのでしょう。今年はすでに猛打賞(1試合3安打以上)を5回記録するなど、リードオフマンとして打線を引っ張っています。盗塁も小深田大翔選手(楽天)の12個に次ぐ11個をマーク。「機動力の西武」の象徴となっています。
── 守備では、昨年までセカンドだった外崎修汰選手がサードにコンバートされ、二塁手を誰にするのか不安がありましたが......。
伊原 このまま滝澤夏央選手でいいでしょう。源田壮亮選手がケガで離脱中はショートを守り、サードに就くこともありますが、セカンドで固定してもいいと思います。球界最小兵の164センチながらパンチ力もあり、5月17日のオリックス戦ではサヨナラ安打を含む4安打と大活躍しました。2番打者としていい働きを見せてくれています。
【投手力は12球団随一】
── 投手陣はいかがですか? 髙橋光成投手がようやく"連敗地獄"を脱出しました。
伊原 3年連続2ケタ勝利のエースが、昨年はまさかの0勝11敗......そして今年も開幕から2連敗で、トータル13連敗でしたからね。昨年の結果については、肉体改造的なこともあったのですが、体を大きくしすぎだと思いますよ。今年は体を絞って、球のキレが出てきました。
── 先発投手陣は駒が揃っています。
伊原 ピッチングスタッフは12球団随一ですよ。先発は髙橋のほかに、今井達也、渡邉勇太朗の右がいて、左も隅田知一郎に、昨年新人王の武内夏暉がケガから復帰し、菅井信也もここまで4勝を挙げる活躍。さらに、2022年に10勝をマークした與座海人も控えていますからね。
── 先発陣だけでなく、リリーフ陣も質量ともに豊富です。
伊原 左の佐藤俊輔、右の甲斐野央、山田陽翔、新外国人のトレイ・ウィンゲンターが抑えの平良海馬につなぐ「勝利の方程式」ですね。増田達至、アルバート・アブレイユら実績あるリリーバーが退団したので、そこがひとつの懸念事項でしたが、いい方向に回っています。
── 山田投手が出てきたのは大きいですね。
伊原 近江高(滋賀)時代に甲子園で活躍し、今年でプロ3年目です。最速152キロのストレートと大きく曲がるカーブ、台湾のウインターリーグでマスターしたというシュートを駆使し、一軍デビューから12試合連続無失点。5月17日にプロ初勝利を挙げました。
【優勝の可能性は?】
── 西武の新指揮官となった西口文也監督は、伊原さんが監督として優勝した2002年に15勝を挙げたエースでした。西口監督はどのような人物ですか?
伊原 現役時代は、華奢な体で淡々と自分の仕事に徹してくれました。ふだんは物静かですが、内に秘める闘志というか、気持ちの強い男です。そうでなければ、大卒からプロに入って通算182勝もできるはずがありません。
── さっき名前が上がった滝澤選手、菅井投手は育成上がりで、開幕スタメンを果たした外野手の長谷川信哉選手も育成出身です。
伊原 西口監督は、昨年まで3年間ファームの監督を務めていました。ファーム監督時代に一緒にやっていた選手をうまく使っていますが、彼らの特徴をしっかり把握していますよね。
── 西武といえば、広岡達朗さん、森祇晶さん、伊原さん、伊東勤さん、渡辺久信さんと「監督就任1年目に優勝」の系譜があります。
伊原 昨年最下位のチームが、いきなり優勝するのは容易ではありません。打線が好調とはいえ、得点はリーグ5位と決して多いとは言えません。投手を中心とした守りの野球に重きを置いていますが、そのなかで西口監督は機動力を絡めて、いかに1点をもぎ取るかをテーマにやっていると思います。
── 昨年はソフトバンクの小久保裕紀監督、巨人の阿部慎之助監督が就任1年目でリーグ優勝を果たしました。
伊原 西武は投手陣が充実しているので優勝の可能性はありますが、昨年のソフトバンク、巨人は、なんだかんだ言って選手層が厚かったですからね。それに比べると、西武はそこまで選手層が厚いとは言えません。特に打線のなかで誰かが故障した時にどうするか。レアンドロ・セデーニョあたりが爆発してくれて、打線の好調さを持続できるかがカギになるでしょう。
伊原春樹(いはら・はるき)/1949年1月18日、広島県生まれ。北川工高(現・府中東高)から芝浦工大を経て、71年にドラフト2位で西鉄に入団。76年巨人に移籍し、78年ライオンズに復帰。80年限りで現役引退。81年から99年まで西武で守備走塁コーチなどを務め、黄金期のチームを支えた。2000年に阪神コーチ、01年に西武コーチを経て、02年西武監督就任、1年目でリーグ優勝を果たす。04年にオリックス監督、07年から10年まで巨人ヘッドコーチを務め、 14年に西武の監督に2度目の就任を果たした。現在は解説者として活躍中