Why Japan? 私が日本でプレーする理由

アントワーヌ・ブリザール/大阪ブルテオン
インタビュー中編(全3回)

サッカーのJリーグやプロ野球だけでなく、バレーボールのSVリーグにも、さまざまな国からやってきた外国籍選手が在籍している。彼らはなぜ、日本を選んだのか。

そしてこの国で暮らしてみて、コートの内外でどんなことを感じているのか。シリーズふたり目のバレーボール選手は、直近の五輪を2連覇したフランス代表のセッターで、今季から大阪ブルテオンに加わった正真正銘のワールドクラス、アントワーヌ・ブリザールだ。

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【最初は日本人の所作を真似てみようと】

 幼少期にポケモンやドラゴンボールと親しんだアントワーヌ・ブリザールは、プロのバレーボール選手になってから、何度か来日してさらにこの国に興味を持ったという。そして昨夏に大阪ブルテオンの一員となって移住し、日々、本当の日本を経験している。

「多くの人が言うことだと思うけど、まずなによりも日本人の他者を敬うところが新鮮だった。ヨーロッパ、特にフランスでは個々を重んじる人が多いから、義務でもないかぎり、あまり他の人に気を使ったりしないんだ。

 だからここに住み始めたばかりの頃は、妻と共に"日本人らしく"振る舞おうとした。公共の乗り物の中では静かにしたり、できるかぎり誰にも迷惑をかけないようにしたり。でも少し経った時に、こう思ったんだ。これは僕らが完全に真似しなければならないものではない、と。自分たちには到底理解できないものもあるし、それは文化の違いとして受け入れるだけでいいのではないか、と。

 それからは肩の力を抜いて、楽に過ごせるようになったよ。やはりどんなにすばらしい国にも、よいところとそうでないところがある。

フランスも日本も、その点では同じだ」

 この1年弱で、様々な形のカルチャーショックを受けたというが、それらは必ずしもネガティブなものばかりではなかったようだ。

「例えば、食事。朝食の摂り方や種類、時間など、ヨーロッパとはかなり違う。特に夕食の時間がとても早くて驚いたよ。これらはショックというほどのものではないかもしれないけど、大きな違いだね。

 あとこれはいい意味だけど、フランスで食べていた寿司と、日本の本物の寿司は、まるで違う。もちろん、圧倒的にこっちの寿司の方がおいしいよ」

【ティリさんはかなりの"日本通"】

──フランスが恋しくなることはありますか?

「もちろん。家族や友達に会いたくなる。最近、僕らの親しい友人に子どもができているんだけど、なかなか会いに行けない。時差もあるから、気軽に電話で話せるわけでもないしね。これは辛いけど、逆にいうと、自国の良さに気づくこともできたわけだ。

 ただきっと、いつか日本を離れることになれば、その時にはこの生活を懐かしむことになると思うんだ。僕らは、日本での日々を心から楽しんでいるから」

 大阪ブルテオンが本拠を置く大阪府枚方市は京都に近いこともあり、休日は日本の古都で過ごすことが多いと明かす。

「妻も僕も京都が大好きなんだ」とブリザールはにこやかに言う。

「日本語のレッスンを受けに行っているし、フランス語を話す日本人の友達もできた。それからティリさん(日本代表のロラン・ティリ監督)に、色々なことを教えてもらっている。僕の恩師でもある彼は日本に5年以上住んでいて、ここの伝統や文化を愛しているから、毎週のように寺や神社を巡っているんだ。かなりの"通"だよ。

 だから例えば、桜のシーズンにあまり混んでいないところで花見をしたいと言ったら、本当にそんな場所を教えてくれたんだ。観光客の少ない静謐な寺も紹介してくれたよ。僕らの最近のお気に入りの場所は、鞍馬だね。電車で向かい、駅を降りてから気持ちよくハイキングができるんだ」

 では、日々の生活の違いだけでなく、バレーボールにも異なるところはあるのだろうか。五輪を連覇した真のワールドクラスは、SVリーグをどう見ているのか。

「包括的に比較することはできないので、側面ごとに説明したい」とブリザールは真顔に戻って続ける。

【「SVリーグのレベルはどこにも引けを取らない」】

「まず、運営やマーケティング、ビジネスの面では、ヨーロッパのどのリーグよりも、日本が完全に優れている。

僕はトルコを除き、ヨーロッパのトップリーグのすべてでプレーしてきたけど、この点に関してはSVリーグの完勝だね。試合には常に多くのお客さんが来てくれるし、ショーの見せ方も上手だと思う。まさに完璧な運営だ。

 それからスポーツ面でも、偉大なリーグだと思う。ヨーロッパのトップリーグと比較して、甲乙はつけがたいけど、ここでは観ていて楽しいバレーボールが展開されている。例えば、世界一のリーグと言われるイタリアのセリエAでは、よりフィジカルを重視したスタイルを持つチームが多い。リスクを犯してサービスエースを狙ったり、パワフルなアタッカーが好まれたり。

 かたや、SVリーグには全般的にテクニカルな選手が多く、目の離せないラリーが続くこともあり、守備のシステムは明確で理にかなっている。それぞれのリーグに長所と短所があるけど、SVリーグはプレーレベルでも、どのリーグにも引けを取らないと思う。実際、僕らは(昨年12月の)世界クラブ選手権でヨーロッパ代表のポーランドのチーム(ヴァルタ・ザビエルチェ)に勝ち、決勝ではイタリアのチーム(ペルージャ)に敗れたものの、準優勝したわけだし」

 バレーボールの頂点を知るブリザールは一呼吸して、さらに日本のバレーボールの印象を偽りなく語り続けていった。

(つづく)

後編を読む >>> 「日本人選手にはネガティブなエゴがない」ブリザールが明かす日本バレーの特長

アントワーヌ・ブリザール Antoine Brizard
1994年5月22日生まれ、フランス・サン=ジャン=ド=リュズ出身。2021年にフランス代表の正セッターとして、東京五輪を制してフランス男子初の金メダルを手にした。

以後、2022年と2024年ネーションズリーグ(大会MVPとベストセッター)を連覇し、パリ大会で五輪も連覇し(大会ベストセッター)、フランス黄金時代を築いた一員に。クラブレベルでは、パリ・バレー(フランス)、スペシアズ・ドゥ・トゥルーズ(フランス)、プロジェクト・ワルシャワ(ポーランド)、ピアチェンツァ(イタリア)でタイトルを獲得。2025年6月に大阪ブルテオンに入団し、自身初の日本での生活を始めた。

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