西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第99回 上田綺世
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回はオランダリーグ、エールディビジで得点王獲得間近の上田綺世を取り上げます。ゴールを量産できた明確な理由。そして献身的な守備が見せる未来のFWの姿について言及します。
【ダントツの得点王へ】
2025-26シーズン、上田綺世(フェイエノールト)の得点王獲得は間違いないだろう。エールディビジでは第33節時点で25ゴール。2位のミカ・ゴッツ(アヤックス)が17得点、3位はトロイ・パロット(AZ)が16得点。トップの上田とはかなり差が開いている。残り1試合でひっくり返らないと考えられる。
上田は典型的なセンターフォワード(CF)タイプだが、ゴッツはそうではない。それもゴール数と関連があるかもしれない。今や日本代表にとっても不可欠な存在になった。替えの効かないCFだ。
2019年コパ・アメリカの時に日本代表に初招集され、3試合に出場している。
ボールを持っている味方が顔を上げるタイミングともほぼ合っていて、パスを出す側もプレーしやすそうだった。ただ、受けるまでは完璧だったが、その先がやや物足りなかったものだ。
シュートが決まっていなかった。受け方がうまいので多くの決定機をつかんでいるのだが、肝心のシュートが入らない。受けるのがうまいFWが突き当たる壁だったかもしれない。多くのパスを引き出し、多くのシュートを打つけれども、それがことごとく外れてしまうと、チャンスを作っているのか、得点機会を浪費しているのかわからない感じになってくるのだ。
しかし、その問題もすぐに解決していた。鹿島アントラーズに加入すると体つきもひと回り大きくなっていて、シュートのパワーが増強されていた。多少無理な体勢でもゴール枠内へ持っていける技術と筋力は桁外れ。サークル・ブルッヘ(ベルギー)、フェイエノールト(オランダ)と移籍してもそれは変わらず。
自らの動きで決定的なチャンスを作るのがうまい。そしてチャンスを確実に決める決定力があり、さらにそんなにチャンスではなくても強引に得点する力もある。DFを背負ってのバトルにも強く、カウンターアタックの起点になれる。両足でパワフルなシュートを打てて、ヘディングシュートの打点の高さ、競り合いの強さも抜群。これ以上、得点王に相応しい選手を探すのは難しいだろう。
【ペナルティエリア内で得点する強み】
オランダで結果を出したことでプレミアリーグなどへの移籍も噂されているなか、上田の実力を疑問視する声もあるという。ライバルのPSV、アヤックスから得点できておらず、弱い相手から点を取っているだけではないか、というわけだ。
確かにそうかもしれない。ただ、得点王はだいたい弱いチームから得点してなるものだと思う。
強い相手から点をとるタイプには、スピードスターが多い。カウンターアタックでフィールドの半分くらいを駆け抜けて得点する。劣勢な試合でも得点できて、むしろ劣勢なほどカウンターのスペースは大きいので得点しやすい。
リーグの得点王を争うのは、成績上位のビッグクラブの選手になるのが普通だ。そうしたチームは相手に引かれる場合も多い。一芸だけのストライカーより万能型、あるいはより多くの得点パターンを持っているFWが有利になる。上田はまさにそのタイプであり、オランダの3強であるフェイエノールトで得点を量産しているわけだ。
得点になるシュートの大半はペナルティエリア内で、さらにゴールエリアの幅に集中している。つまり、この場所でシュートするFWが得点を量産するし、そういう状況の多いチームでプレーしていることが多いわけだ。
もし上田が移籍するなら優勝争いするようなビッグクラブか、ある程度攻撃力のあるクラブがいいと思う。もっぱら守備をしていて、カウンターのチャンスをひとりで何とかしてほしいというチームのFWにはあまり向いていない。
【全員守備を担うFW】
日本代表はアジアでは圧倒的な強豪だが、ワールドカップにおいては日本より強いところも弱いチームもある。いわば中堅グループ。ポット2なので中堅でも上位のほうではあるが、スペインやフランスと対戦したら劣勢に追い込まれるのはまず確実だ。
そこで日本代表のFWには守備力が求められている。
上田に限ったことではなく、日本代表のFWはいずれも献身的に守備をしている。これに関しては世界でもトップレベルだと思う。
強豪国を見れば、これまでチームにひとりやふたりは、あまり守備をしなくても許容される選手がいることが多かった。前回W杯で優勝したアルゼンチン代表のリオネル・メッシはほとんど守備をしていなかった。フランス代表のキリアン・エムバペもほぼ同じ。ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドもそうだ。
彼らは攻撃面で大きな貢献をしてくれるので、引き換えに守備は免除されている。まったく守備をしないわけではないが、最初に守備をやめる選手ではあった。
ただ、スーパースターを除くフィールドプレーヤー9人で守備をするより、10人のほうが守備は強くなる。これは自明なのだが、国民的スターがいるチームほど10人の守備を行なうのは困難なのだ。
日本は誰がFWでも守備免除ということにはならず、守備のメカニズムのなかに組み込まれている。
将来的に国民的なスターが現れたとしても、その選手を例外として扱うことはないような気もする。もしかすると、日本が示す全員守備のモデルを、これから各国が追随していくかもしれないからだ。
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