打者・大谷翔平は"100%"で振らなくてもいい 「75%でも...の画像はこちら >>

 大谷翔平の打撃に、興味深い変化が表われている。最も顕著なのは長打率だ。

2024年の.646から、2025年は.622、2026年は.546まで低下している。ハードヒット率もそれぞれ60.1%から、58.7%、52.3%である。数字だけを見れば、32歳を迎えた大谷のパワーが落ち始めたと見ることもできる。(データは現地時間8月26日現在、以下同)

 だが、MLBのデータ分析サイト『Statcast』をもとにさらに掘り下げると、別の姿が浮かび上がる。スクエアアップ率(バットに当たった打球のうち、効率よく芯で捉えた割合)は37.3%と高く、スイートスポット率(理想的な打球角度とされる8~32度で捉えた割合)も38.7%とキャリア最高だ。これらのデータが何を示すのか、現場で大谷の打撃を見ているドジャースのアーロン・ベイツ打撃コーチに聞いた。

【1.パワー指標は下がるも、コンタクトの質を示す指標は上昇】

「基本的に、以前ほど強く振らなかったり、毎打席ホームランを狙うようなスイングをしなかったりすれば、そのぶん、ボールをしっかり芯で捉える回数は増えます。翔平はもともとものすごく力があり、バットも非常に速く振れる選手なので、多少スイングの強さを落としても十分な余裕があります。ただ、彼が意識的に出力を落としているのかはわかりません。対戦投手や、その日の感覚、体の状態など、さまざまな要因があると思います。

 数字には間違いなく関連性があります。最大限のスピードでバットを振ろうとしなければ、そのぶん、ボールをスクエアアップ、つまりしっかり捉えられる確率は高くなります。私がわかっているのは、翔平は自分の状態がベストではない時でも『良い打者』であろうとすることです。

2024年は、今よりもっと『一か八かで思いきりいく』ようなスイングが多かったと思います。でも、ドジャースでさまざまな試合状況を経験するなかで、状況に応じて打撃を調整できるようになってきたと思います」

 ここから浮かぶのは、単純な『パワー低下』ではなく、『パワーの使い方の変化』という可能性だ。以前のように「とにかく最大出力で振って破壊的な打球を作る」だけではなく、コンタクトの再現性を高めながら、それでも十分な長打力を残す方向へ動いている。

 その変化を示す興味深い指標が、『Statcast』の「高速スイング率/Fast Swing Rate(75マイル=約121キロ以上の高速スイングが全スイングに占める割合)」だ。2024年は64.0%、2025年は61.9%だったが、2026年は49.7%。ちなみに2023年は74.1%だった。今季は75マイル以上の高速スイングが、ついに全スイングの半分を下回っている。

【2.大谷が実行するパワーの使い方の変化とは】

「選手によって違いますが、それぞれに『どれだけ余裕を持っているか』というものがあります。例えば、とても力が強くて、非常に速くバットを振れる選手なら、多少バットスピードを落としたとしても、それでもなおエリートレベルでいられるだけの余裕があります。ムーキー・ベッツを例にすると、ムーキーの場合は、常に彼らしい打者でいるためには、自分のトップレベルに近いスピードでバットを振る必要があると思います。でも翔平の場合は違います。

 翔平なら、自分の75%くらいの力で振ったとしても、それでもまだエリートレベルの打者でいられる。それくらい、ほかの選手と比べても体が大きくて、力が強いからです。

そして、年齢を重ねてきて、しかも投手としても打者としてもプレーするようになるなかで、彼自身も"毎回100%で振らなくてもいいんだ"ということに気づいてきたのだと思います。

 例えば75%くらいの力で振って、それによってより優れた打者になれる。より多くのボールを芯で捉えることができる。そうであれば、そのほうが結果として生産性の高い打撃になると思います。もちろん、100%の力で振れば、シーズンでホームランがあと2本、3本増えるかもしれません。でも、その代わりに三振も増えるかもしれない。そうなると、"どちらの打者がいいのか"という話になります。例えば、打率3割で40本、あるいは37本のホームランを打つ選手。それとも、打率2割8分で57本のホームランを打つ選手。どちらがいいですかということです。

 もちろん数字を詳しく分析すれば、どちらのほうが価値が高いかという答えは出せるでしょう。でも、打者自身に聞けば、おそらく前者を選ぶと思います。

なぜなら、アウトになってダグアウトへ戻ってくる回数が少なくなるからです。そして翔平の場合、パワーを出すということに関してかなりの"余裕"があります。つまり、少し出力を落とすことができる。いわばパワーのダイヤルを少し下げても、それでも十分に優れた打者でいられるんです」

【3.具体的な打撃のメカニック面での工夫】

「彼はこの2年半、ワイド、オープン、ナローとさまざまなスタンスやセットアップを試してきました。ただ、メカニックのなかで一貫していることがあります。

 彼がボールを自分のところまで十分に引きつけて、ストライクゾーンの深いところで捉えられている時。そして、そのままセンター方向、球場の真ん中へ向かってバットを出し続けられている時。そういう時が、彼は最もいい打撃をしています。

 それから、当然ですが、タイミングも非常に大きな要素です。いつ前足を地面に着けるのか。そこからどういう形で体重を前方向、ボールのほうへ移していくのか。そこは彼の打撃にとって非常に重要です。

では、例えば彼が"もう少し力を使わずに打とう"とか、"もっと確実に芯で捉えよう"とした場合、メカニックとしてどうなるか。

 おそらく、少し長い時間、体重を後ろ側に残すことになると思います。後ろ足側に、少し長く残る。そうするとボールをより深く、長く見ることができ、そのぶんだけスイングするかどうかを判断する時間も増えます。

 ただ、私は、彼がそれを目的として"こういうメカニックに変えよう"と、意識的にメカニカルな変更を加えたとは思っていません。むしろ、彼が自分の置かれている状況に合わせて適応した結果として、そういう打ち方になっているのだと思います」

『Statcast』には「インターセプトポイント」という指標がある。大谷はホームプレートを基準にしたコンタクト位置が、2025年の−1.4インチ(約3.6cm)から2026年は−4.5インチ(約11.4cm)へと3.1インチ(約7.9cm)深くなった。打席での立ち位置も29.0インチ(約73.7cm)から30.8インチ(約78.2cm)へと1.8インチ(約4.6cm)捕手寄りになった。さらに、打者自身の重心を基準にしたコンタクト位置も27.6インチ(約70.1cm)から26.3インチ(約66.8cm)へと1.3インチ(約3.3cm)身体に近づいている。つまり、打者自身を基準にしても、昨季よりボールを引きつけて捉えている。

 8月17~19日のコロラド・ロッキーズ3連戦では3本塁打。久々に大谷らしい破壊力を見せつけた。

それでも本人の視線は、本塁打そのものには向いていなかった。

「たまたま長打が出ていますけど、特にコンタクトをしっかりしながら、というのは意識したい」

 75マイル以上で振る割合は減った。それでも30本塁打を超えるパワーは残る。より深くボールを見て、より確実に捉える。

 100%で振らなくてもいい。

 32歳を迎えた二刀流・大谷は、持てるパワーをすべて使う打者から、必要な時に必要なだけパワーを使える打者へと変わりつつある。

奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

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