大谷翔平の打撃に、興味深い変化が表われている。最も顕著なのは長打率だ。
だが、MLBのデータ分析サイト『Statcast』をもとにさらに掘り下げると、別の姿が浮かび上がる。スクエアアップ率(バットに当たった打球のうち、効率よく芯で捉えた割合)は37.3%と高く、スイートスポット率(理想的な打球角度とされる8~32度で捉えた割合)も38.7%とキャリア最高だ。これらのデータが何を示すのか、現場で大谷の打撃を見ているドジャースのアーロン・ベイツ打撃コーチに聞いた。
【1.パワー指標は下がるも、コンタクトの質を示す指標は上昇】
「基本的に、以前ほど強く振らなかったり、毎打席ホームランを狙うようなスイングをしなかったりすれば、そのぶん、ボールをしっかり芯で捉える回数は増えます。翔平はもともとものすごく力があり、バットも非常に速く振れる選手なので、多少スイングの強さを落としても十分な余裕があります。ただ、彼が意識的に出力を落としているのかはわかりません。対戦投手や、その日の感覚、体の状態など、さまざまな要因があると思います。
数字には間違いなく関連性があります。最大限のスピードでバットを振ろうとしなければ、そのぶん、ボールをスクエアアップ、つまりしっかり捉えられる確率は高くなります。私がわかっているのは、翔平は自分の状態がベストではない時でも『良い打者』であろうとすることです。
ここから浮かぶのは、単純な『パワー低下』ではなく、『パワーの使い方の変化』という可能性だ。以前のように「とにかく最大出力で振って破壊的な打球を作る」だけではなく、コンタクトの再現性を高めながら、それでも十分な長打力を残す方向へ動いている。
その変化を示す興味深い指標が、『Statcast』の「高速スイング率/Fast Swing Rate(75マイル=約121キロ以上の高速スイングが全スイングに占める割合)」だ。2024年は64.0%、2025年は61.9%だったが、2026年は49.7%。ちなみに2023年は74.1%だった。今季は75マイル以上の高速スイングが、ついに全スイングの半分を下回っている。
【2.大谷が実行するパワーの使い方の変化とは】
「選手によって違いますが、それぞれに『どれだけ余裕を持っているか』というものがあります。例えば、とても力が強くて、非常に速くバットを振れる選手なら、多少バットスピードを落としたとしても、それでもなおエリートレベルでいられるだけの余裕があります。ムーキー・ベッツを例にすると、ムーキーの場合は、常に彼らしい打者でいるためには、自分のトップレベルに近いスピードでバットを振る必要があると思います。でも翔平の場合は違います。
翔平なら、自分の75%くらいの力で振ったとしても、それでもまだエリートレベルの打者でいられる。それくらい、ほかの選手と比べても体が大きくて、力が強いからです。
例えば75%くらいの力で振って、それによってより優れた打者になれる。より多くのボールを芯で捉えることができる。そうであれば、そのほうが結果として生産性の高い打撃になると思います。もちろん、100%の力で振れば、シーズンでホームランがあと2本、3本増えるかもしれません。でも、その代わりに三振も増えるかもしれない。そうなると、"どちらの打者がいいのか"という話になります。例えば、打率3割で40本、あるいは37本のホームランを打つ選手。それとも、打率2割8分で57本のホームランを打つ選手。どちらがいいですかということです。
もちろん数字を詳しく分析すれば、どちらのほうが価値が高いかという答えは出せるでしょう。でも、打者自身に聞けば、おそらく前者を選ぶと思います。
【3.具体的な打撃のメカニック面での工夫】
「彼はこの2年半、ワイド、オープン、ナローとさまざまなスタンスやセットアップを試してきました。ただ、メカニックのなかで一貫していることがあります。
彼がボールを自分のところまで十分に引きつけて、ストライクゾーンの深いところで捉えられている時。そして、そのままセンター方向、球場の真ん中へ向かってバットを出し続けられている時。そういう時が、彼は最もいい打撃をしています。
それから、当然ですが、タイミングも非常に大きな要素です。いつ前足を地面に着けるのか。そこからどういう形で体重を前方向、ボールのほうへ移していくのか。そこは彼の打撃にとって非常に重要です。
おそらく、少し長い時間、体重を後ろ側に残すことになると思います。後ろ足側に、少し長く残る。そうするとボールをより深く、長く見ることができ、そのぶんだけスイングするかどうかを判断する時間も増えます。
ただ、私は、彼がそれを目的として"こういうメカニックに変えよう"と、意識的にメカニカルな変更を加えたとは思っていません。むしろ、彼が自分の置かれている状況に合わせて適応した結果として、そういう打ち方になっているのだと思います」
『Statcast』には「インターセプトポイント」という指標がある。大谷はホームプレートを基準にしたコンタクト位置が、2025年の−1.4インチ(約3.6cm)から2026年は−4.5インチ(約11.4cm)へと3.1インチ(約7.9cm)深くなった。打席での立ち位置も29.0インチ(約73.7cm)から30.8インチ(約78.2cm)へと1.8インチ(約4.6cm)捕手寄りになった。さらに、打者自身の重心を基準にしたコンタクト位置も27.6インチ(約70.1cm)から26.3インチ(約66.8cm)へと1.3インチ(約3.3cm)身体に近づいている。つまり、打者自身を基準にしても、昨季よりボールを引きつけて捉えている。
8月17~19日のコロラド・ロッキーズ3連戦では3本塁打。久々に大谷らしい破壊力を見せつけた。
「たまたま長打が出ていますけど、特にコンタクトをしっかりしながら、というのは意識したい」
75マイル以上で振る割合は減った。それでも30本塁打を超えるパワーは残る。より深くボールを見て、より確実に捉える。
100%で振らなくてもいい。
32歳を迎えた二刀流・大谷は、持てるパワーをすべて使う打者から、必要な時に必要なだけパワーを使える打者へと変わりつつある。
奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda










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