この記事をまとめると
■2023年に起きた自動車業界の出来事を振り返る■トヨタやマツダ、スバルの社長交代やBYDの参入、ダイハツの不正問題が話題になった
■ダイハツの信頼回復が2024年の注目ポイントとなりそうだ
2023年の自動車業界を振り返る
2023年の年末に、自動車業界を揺るがす大きな問題が起きた。言うまでもなく、ダイハツ工業による認証業務不正がそれだ。新型車を量産するには欠かせない型式指定の申請において、主に衝突試験領域で複数の不正が、それも30年以上の長きに渡って行われていたということが、第三者委員会による調査で明らかとなったのだ。
そのインパクトは大きい。経済産業省が同省のニュースリリースにおいて、『型式指定申請において不正を行うことは、自動車ユーザーの信頼を損ない、かつ、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、今回更なる不正行為が明らかになったことは極めて遺憾です』と記すほど、自動車業界全体の信頼を損なう不正だった。
また、過去にもリコール隠し、燃費(排ガス)計測、完成検査などさまざまな領域において不正があり、監督省庁から各社に同様の不正についての調査が指示されてきた。そうした状況のなかで、自社の不正を把握できなかったというのは、ダイハツのガバナンスが機能していなかったのでは、という疑問もわいてくる事案といえる。
それはさておき、2023年の自動車業界を振り返ると「変化」がキーワードとなるニュースが多かったという印象もある。
2023年4月にトヨタの社長が豊田章男氏から佐藤恒治氏へと交代。6月にはマツダの新社長として毛籠勝弘氏が就任、同じく6月にはスバルの社長/CEOに大崎篤氏が就任している。偶然とはいえトヨタと資本提携関係にある2社のトップが入れ替わるというのは変化の予兆を感じさせる出来事だった。

さらに遡ると、1月には中国の自動車メーカー「BYD」が日本に上陸したこともトピックスのひとつとして見逃せないニュースだった。いまやEVメーカーとして世界一の規模を誇るBYDが日本進出、しかも独自に販売網を整備するという力の入れ具合は、手ごろな量産EVにおいて遅れを取っている日系自動車メーカーにとっては脅威でしかないといえる。

とはいえ、2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の多くが停止している状況において、電気だけで走るクルマは、現時点の日本のエネルギーミックス(発電比率)的にCO2削減の最適解とは言い難いという指摘もある。
その意味では、外部充電に対応しつつ、エンジンでの走行もできるプラグインハイブリッドカーが、現状におけるバランスの取れた選択肢という見方もできよう。
日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたトヨタ・プリウスも最上級グレードとしてプラグインハイブリッドが用意されているし、2023年9月のフルモデルチェンジにおいてSUVフォルムに大変身したことで話題となったトヨタ・センチュリーは、V6エンジンのプラグインハイブリッドカーだ。
マツダが11年ぶりに復活させたロータリーエンジン搭載車であるMX-30 Rotary-EVもプラグインハイブリッドカーだ。

マツダの新世代モデルとしてFRレイアウトを採用したCX-60にもプラグインハイブリッドがラインアップされているのはご存じのとおり。
2024年はダイハツの再起に注目
また、元祖プラグインハイブリッドカーブランドとして認知される三菱自動車は、2023年秋に開催されたジャパンモビリティショーにおいて、次期「デリカ」を思わせるプラグインハイブリッドのコンセプトカーを展示していた。今後、国産プラグインハイブリッドカーの選択肢が増えることを期待したい。

とはいえ、実質的に日本の国民車となっている軽自動車においては、プラグインハイブリッドというメカニズムの採用は難しいといえる。
EVであれば駆動用モーター&バッテリーとインバーターなどを積めば成立するが、プラグインハイブリッドにはエンジンと発電用モーター、燃料タンクを追加する必要がある。EV仕様に対してバッテリー搭載量を減らしたぶんで、エンジンなどのコストを賄える車格であればプラグインハイブリッドの“コスパ”はよくなるが、軽自動車のようなコンパクトカーはひと足飛びにEVシフトするほうが合理的という見方が主流だ。
前述したジャパンモビリティショーでは、スズキが未来のハスラーを思わせる軽EVのコンセプトカーを展示、軽自動車のEVシフトを予感させた。

もっとも現実は異なる。三菱デリカミニ、ホンダN-BOX、スズキ・スペーシアと2023年に相次いで登場した魅力的な軽スーパーハイトワゴンは、どれもエンジンを積んでいる。
ちなみに2023年の平均気温は、1度以上上昇したという。
地球温暖化・気候変動を実感するなかで、ゼロエミッションのEVが普及することは必須と感じる一方で、どうしてもコスト高になってしまうEVへの乗り換えは庶民の懐事情からすると厳しいという実態を、日本の国民車である軽スーパーハイトワゴンは示しているといえるのかもしれない。
そうした状況を大きく変えるのが2024年という見方もできるだろう。
前述したBYDの日本進出によりEVの価格破壊が必然となってくることで、小さなEVが手ごろな価格となることも期待できるが、やはりキープレーヤーとなるのはダイハツだ。
冒頭で記したダイハツの不正は、ブランド価値を大きく毀損するもので、今回の報道を見た多くのユーザーには、ダイハツ車を積極的に選ぼうというインセンティブがなくなっているだろう。ダイハツにはブランドの再構築が必要となる。

過去に学ぶとすれば、「ディーゼルゲート」と呼ばれたディーゼルエンジン関連の不正でイメージを落としたフォルクスワーゲンは、EVシフトをすることでリブランディングを進めていることは、ダイハツの行く先を予想する上でヒントになる。
執筆時点では、ダイハツはすべての生産を停止しており、再開の目途はたっていない。国土交通省の調査結果次第では、生産再開となるかもしれないが、最悪のケースでは型式指定の取消(事実上生産不可能になる)になる可能性もある。まったく予想がつかない状況だ。
仮に型式指定を取り消されてしまった場合、クルマを量産するには新規に型式指定を申請する必要がある。
もし、ダイハツが軽自動車のEVシフトを一気に進めて、従来からのユーザーが買える価格帯の軽EVを続々と登場させることができれば、日本の自動車マーケットが大きく変わるきっかけになることは間違いない。

たしかに日本のエネルギーミックス的には性急なEVシフトは、CO2削減にはつながらないかもしれない。とはいえ、2050年には日本のカーボンニュートラル化を実現することは国家的目標だ。2050年のギリギリまでエンジン車が存在、燃料インフラを維持したまま、ある日突然ゼロエミッションになるという未来は現実的ではなく、徐々に化石燃料を使わない社会に変化していくと予想される。
その点からも、ダイハツがブランド再構築としてゼロエミッションのモビリティメーカーへと変身するということは意味があると思う。
もちろん、ダイハツの不正は個社の問題ではない。2023年には中古車販売や損害保険といった自動車ユーザーに関わるさまざまな企業において問題や課題が頻出した。ユーザーの不信感は自動車業界全体に及んでいるというのが事実だろう。
生産・販売を問わず、業界全体としてユーザーから信頼されるような変化が必要となるだろう。海外からの進出もある現状において、信頼回復ができなければ、日本の自動車業界は大きく衰退してしまうかもしれない。2024年は日本の自動車メーカーにとって自国マーケットにおける正念場となることは間違いない。