最近、徳島県徳島市で、過去5年間で国に対し生活保護費の国庫負担金を約5093万円も過大に請求していた問題が発覚し、それに関連して現市長が刑事告発される事態に至ったことが話題になりました。
生活保護の財源は国が4分の3(国庫負担金)、地方自治体が4分の1の割合で負担しています。
そのなかで、受給者に対する過大な支給金があった場合は、国庫負担金に対して過大な請求をしているという図式になります。
徳島市の件がことさらに大きくクローズアップされていますが、会計検査院の決算検査報告や各地の実情を調べると、そこには単なるミスでは片付けられないであろう、すべての国民が知るべき大問題が浮かび上がります。
自治体による生活保護費の過大支給と、それに起因する国庫負担金過大請求は、決して徳島市にとどまらず、日本全国の多くの自治体が抱える構造的な問題であることを、認識する必要があります。(行政書士・三木ひとみ)

会計検査院が指摘する不当事項

会計検査院は毎年、国の予算が適正に使用されているかを検査した報告書である「決算検査報告」を公表しています。その中で、生活保護費(生活扶助費等負担金)の過大交付は、毎年のように「不当事項」として挙げられる常連の項目です。
現時点での最新版である令和6年(2024年)度の決算検査報告によれば、岩手県宮城県東京都福井県長野県静岡県愛知県滋賀県京都府熊本県大分県の11都府県、計13の事業主体(自治体)において、それぞれ複数年にわたり国庫補助金の過大交付が行われ、その額の合計が9781万7226円であったことが認定されました。
具体的な事例を挙げると、愛知県名古屋市では2016年から2024年にかけて、年金受給権の調査不足などにより約2651万円が過大に交付されていました。また、長野県長野市では約1149万円、京都府宇治市では約1012万円、福井県敦賀市では約797万円の過大交付が指摘されています。
ちなみに、その前年である令和5年(2023年)度の決算検査報告では、過大交付された国庫補助金は合計3億8545万4317円にのぼりました。
東京都墨田区では2016年~2022年に、年金受給権の調査および裁定請求の指導が不十分であったために、約4199万円もの過大交付が発生していたことがわかります。同様に他にも、千葉県市原市で約2126万円(2016年~2022年)、大阪府豊中市で約2145万円(2017年~2022年)、沖縄県沖縄市で約3583万円(2016年~2022年)といった「不当交付」の事実があり、会計検査院が表に出した形となりましたが、大々的な報道は行われませんでした。
これらの数字は、氷山の一角に過ぎないと推察されます。なぜなら、会計検査院の検査は抽出調査であり、全国の全自治体を網羅しているわけではないからです。
この膨大な「払いすぎ」の裏側には、どのような現場のミスが隠れているのでしょうか。

「年金受給権」に関する調査・指導が不足

上記の資料の中の会計検査院が指摘する過大支給の原因の一つに、被保護者の「年金受給権」に関する調査および指導の不足があります。
生活保護法では、利用し得る資産や能力を活用することが保護の要件となっており、他の法律(年金など)で保障を受けられる場合は、まずそちらを利用しなければなりません。
本来、ケースワーカーは受給者が年金を受け取れる年齢に達した際、速やかに「裁定請求(受給の手続き)」を行うよう指導し、支給される年金額を収入として認定して、その分だけ保護費を減額する必要があります 。
ところが、その調査や指導が十分に行われず、年金受給権があるにもかかわらず、それを見過ごして保護費が支給されていた事例が多発しているのです。
福井県敦賀市の事例では、世帯主に2008年や2017年に年金受給権が発生していたにもかかわらず、市が適切な指導を行わなかったため、数年間にわたり年金が未受給のまま保護費が全額支給されていました。その後の是正指導により、受給者が遡及して約523万円の年金を受け取ったことで、結果として同額の保護費が「支給不要なもの」となり、国庫負担金約392万円が過大であったと認定されたのです。
このようなケースが全国で頻発している背景には、年金制度そのものの複雑さと、ケースワーカーの専門知識と人手不足、そして関係機関(日本年金機構など)との連携の不足があります。

障害者加算の認定誤り

事務的な確認漏れだけでなく、制度の解釈そのものを数十年間にわたり誤り続けていたという事例も報告されています。特に「障害者加算」を巡るミスが目立ち、被害額も大きいです。
岩手県盛岡市の「60年の空白」】
岩手県盛岡市では、1965年から約60年近くにわたって、誤った認定条件で障害者加算を支給していた可能性が浮上しました。本来、障害年金の受給権を確認すべきところ、障害者手帳の等級のみで認定していたことが原因とされています。令和4年(2022年)度の会計検査院の検査でようやく発覚したこの事態に対し、盛岡市は時効にかからない過去5年分について、66世帯に対し約2201万円の返還を求める決定を下しました。
TBS NEWS DIG 2023年12月4日記事)

秋田県秋田市の3100万円過大支給】
秋田県秋田市でも、同様に精神障害者への加算認定ミスが発生しました。
120人に対して認定ミスがあり、そのうち79人に合計約3100万円の返還を求める事態となりました。この問題では、後に市長が「市のミスで不安な時間を過ごさせた」と謝罪し、返還請求を取り下げるという異例の決断を下すことになります。
朝日新聞 2025年7月30日記事)

北海道北広島市における認定誤り】
最近の事例では、北海道北広島市において、2025年12月に障害者手帳の更新手続きをきっかけとして、約4年間にわたる加算の認定漏れと、逆に2世帯に対する約109万円の過大支給が発覚しています。
(北広島市HP「生活保護費における障害者加算の認定誤りについて」2026年1月28日)

これらの加算ミスは、組織内で「前任者がこうやっていたから」という引き継ぎが長年繰り返され、誰も制度の根拠資料に立ち返って確認しなかったという「思考停止」の結果とも言えます。

現場職員の職務懈怠と心理的ハードル

大規模な組織ミスとは別に、個々の職員の業務態度や、追い詰められた末の不正も見過ごせません。
【京都府京都市山科区の台帳隠匿】
2024年7月に判明した京都府京都市山科区の事例は衝撃的です。担当ケースワーカーが、受給者から提出された大量の就労収入資料(レシートや領収書など)の算定を「面倒」だとして放置。約3年間にわたり、本来停止すべき保護費を支払い続け、約800万円の過払いが発生しました。この職員は上司に報告せず、人事異動まで生活保護台帳を私物化して隠し持っていたことが明らかになっています。
(京都市HP「生活保護事務に係る不適切な事務処理について」2024年7月9日」

【長野県(上伊那)の家庭訪問の怠慢】
長野県の上伊那福祉事務所では、職員が家庭訪問などの基本業務を怠り、収入を把握しないまま支給を続けた結果、8世帯に対して約750万円の過払いが生じました。2021年度から2022年度にかけて発生したこのミスは、職員の異動に伴う引き継ぎでようやく発覚しました。
TBS NEWS DIG 2024年9月17日記事)

静岡県掛川市の「3年間の連鎖」】
掛川市でも前任者から引き継いだ職員が、2023年3月の算定を行う際に前任者のミスに気づき、令和2年4月から令和5年3月まで過去3年間で約630万円の過大支給があったことが判明しています。
静岡朝日テレビニュース 2023年5月11日)

これらの事例から透けて見えるのは、ケースワーカー1人あたりの過重な業務負担と、「ミスを認められない」組織体質です。
一度処理を溜めてしまうと、それを報告すれば叱責される。ならば隠してしまおう。そんな個人の弱さが、組織のガバナンスの欠如と合わさったとき、取り返しのつかない事態を招くことになります。
過大支給が発覚した際、自治体は通常、生活保護法63条に基づき、払いすぎた分の返還を受給者に求めます。
しかし、受給者の多くは最低限度の生活費でやりくりしており、手元にお金があるわけではありません。行政のミスで過大に交付されたお金を、後になって「数十万、数百万単位で返せ」と言われることは、生活を脅かすだけでなく、大変な精神的ストレスになります。

過大支給はなぜ起こり、どう防ぐべきか

これまでの事例を分析すると、過大支給が起こる原因は、大きく以下の3点に集約されます。
①制度の複雑さと、それに追いつかない現場の専門性
生活保護制度は、年金、税、障害福祉など広範な知識を必要としますが、多くの自治体では数年で担当が変わる「一般事務職」がこの任に当たっています。専門性の欠如は、必然的に誤った運用を招きます。

②属人化した業務とチェック機能の形骸化
京都市の事例のように、一人の職員が台帳を抱え込む状態は、組織体としてあまりにずさんで異常です。上司による「生活保護記録の早期回覧」や「進行管理台帳の確認」がルール化されていても、それが実質的に機能していない現場が多く存在します。

③心理的安全性の欠如と隠蔽を許す文化
ミスを報告することが不利益になる環境では、職員は問題を隠し、次へ回そうとします。

これらに対しては、以下のような対策が必要かつ有効であると考えられます。
【DX(デジタルトランスフォーメーション)の断行】
年金受給情報や就労所得の自動連携、チェックシステムの高度化により、職員の記憶や手作業に頼る部分を極限まで減らすべきです。もちろん、個人情報の取り扱いに万全を期することが前提です。
特に、異なる官公庁間での情報の共有は、この生活保護費の過大支給の問題に限らずかなりの手間を省けるのではないかと思います。
【福祉職の専門職化と継続雇用の促進】
頻繁な人事異動を避け、専門的な知識を持った職員が長期的にケース管理を行える体制を構築する必要があります。
ただし、長期的に同じ部署に同一人物が勤務し続けることには、不正の温床となるリスク、不祥事の隠ぺいを招くリスクがあるので、次に述べるチェック体制の整備とともに行う必要があります。
【監査機関による定期的なチェック】
会計検査院の検査を待つのではなく、自治体内部、あるいは外部の監査機関が、定期的に事務処理のプロセスそのものをチェックする仕組みを導入すべきです。
【ミスの早期申告を評価する組織風土の構築】
不祥事を隠すことのリスクを教育し、同時にミスを早期に見つけ、共有したことをポジティブに評価する「心理的安全性の高い職場」を作ることが、結果として大きな不正を防ぐことに繋がります。

生活保護制度は、私たち一人ひとりにとっても無関係ではありません。いつか自分や家族が頼ることになるかもしれないこの制度が、適正かつ公平に運営されることは、社会全体の安心に直結します。
同時に、国庫からの無駄な出金を抑えることは、節約だけでなく、国の土台を強くするために非常に重要な役割を果たします。
生活保護費の過大支給の問題を改善することは、将来に向けて重要な意味を持つ話なのです。



■三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)、社会保険労務士(ひとみ社労士事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に『わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)』(ペンコム)がある。


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