盗んだ自転車を線路上に放置し、電車と衝突させたとして、4月7日、大阪府堺市の中学教師が電汽車往来危険と窃盗の疑いで逮捕された。
報道によると、教師は3月下旬の深夜、路上に駐輪されていた大学生の自転車を盗み、南海電鉄高野線(こうやせん)の踏切内(中百舌鳥(なかもず)駅―白鷺駅間)に放置したという。
その後、普通電車の先頭車両が自転車と衝突し、自転車は約26メートル引きずられたが、乗客や乗員にけがはなかった。
事件当時、教師は育児休暇中であったという。容疑を認め、「自宅までの足代わりに自転車を盗んだ」「自宅近くに(自転車を)置きたくなかったので、軽い気持ちで線路上に置いた」などと供述したとのことだ。
「置き石」をはじめとして、踏切に障害物を放置するのは大惨事にもつながりかねない危険な行為だ。そして窃盗行為も関係してくる本件であるが、罪や刑罰はどうなるのだろうか。

「併合罪」が成立する可能性

刑法に詳しい荒川香遥弁護士は「電汽車往来危険罪(刑法125条)は、公共交通機関の安全性、ひいては大勢の人々の命を守るために立法されたものです」と語る。
「この犯罪は、電車や汽車に衝突や脱線の危険(いわゆる『往来の危険』)を生じさせると成立する、と考えられています。
往来の危険を生じさせる方法に、特に限定はありません。つまり、線路の破壊はもちろん、線路内への置き石などの方法でも成立し得る犯罪となっています。
また、この犯罪のポイントは、脱線等が生じるおそれ(『具体的危険』)が発生すれば成立するところにあります。例えば、線路に置き石などをしたことが『電車が脱線する危険性がある』と評価できれば、置き石によって実際に電車が脱線したという結果がなくとも犯罪が成立するのです」(荒川弁護士)
窃盗罪(刑法235条)の法定刑は、10年以下の有期拘禁刑または50万円以下の罰金。一方、電汽車往来危険罪の法定刑は、2年以上の有期拘禁刑(上限20年)であり、後者のほうが重い犯罪である。
そして、本件では「自転車を盗んだ」ことと「自転車を踏切内に放置した」ということ、2つの行為についてそれぞれ異なる犯罪が成立する。
このようなケースでは「併合罪」(刑法45条前段)が適用される。
「刑法45条前段は、確定判決を経ていない2つ以上の独立した罪について裁判をする場合には、重い罪の長期の1.5倍の刑に処することができる、ただし2つ以上の罪の長期合計を超えてはいけない、ということを定めたものです。
今回のケースでは電汽車往来危険罪のほうが重いですが、この犯罪では最長で20年の有期拘禁刑を科すことができます(刑法12条)。
そして、窃盗罪と電汽車往来危険罪が併合罪である結果、20年の1.5倍である30年の有期拘禁刑を科すことが、理論上は可能と考えられます。なお、窃盗罪の有期拘禁刑は最長で10年であるため、2つの犯罪の長期合計は30年を超えません。
以上から、結論としては、窃盗と電汽車往来危険罪が成立し併合罪になる結果、両罪の法定刑の単純な合計ではなく、両罪の成立を考慮した刑罰が科されるということになると考えられます」(荒川弁護士)

もし電車が脱線していた場合には「無期懲役」や「死刑」の可能性も

前述のとおり、電車は自転車に衝突したものの脱線はしておらず、けが人なども出ていない。今回の事件の「被害者」といえるのは、自転車を盗まれた大学生だけといえる。
もし、実際に脱線などが生じていた場合には「汽車転覆等及び同致死罪」(刑法126条)が成立していたことになる。その法定刑は無期懲役または3年以上の有期拘禁刑、さらに人を死亡させた場合には無期懲役または死刑と、電汽車往来危険罪よりもさらに重い。
また、自転車を他の場所ではなく踏切内にわざわざ放置したという行為は、量刑を重くする理由になり得る。
「他の場所に放置するなど、電車の往来の危険を生じさせない別の手段も選べたのに、あえて踏切内に自転車を放置したという点、また電車の脱線やさらには乗客等の命の危険を無視するような身勝手さがあるという意味で、悪質な行為であると評価できるためです」(荒川弁護士)


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