先日、都内にある英国風パブの公式アカウントが「ご飲食されるテーブルの上に人形やグッズの類を置かない様お願いします」とXに投稿し、話題を呼んだ(現在は削除済み)。
また5月13日には茨城県のラーメン店が「本日、待ちのお客様がいる中で食後に、ちいかわをテーブルで広げて遊び始めたお客様がいたので、今後、ちいかわの入店を禁止いたします」と投稿し、議論を招いた。

これらの投稿の背景にあるのは、お気に入りのぬいぐるみを家の外に持ち出して、好きな場所でぬいぐるみを撮影したり衣装の着せ替えなどを楽しんだりする「ぬい活」という行為が、店側や他の客にとって迷惑になることがある、という問題だ。
店側にとっては、長時間の撮影でテーブルを独占されることによる回転率の低下、卓上にぬいぐるみを置かれることによる衛生面の問題、写真に他の客が映り込んでトラブルが起こるなど、客による「ぬい活」はデメリットやリスクとなり得る。
しかし、「推し活」の一種であるぬい活はいまや全国的なブームとなり、市民権を得た趣味ともいえる。それでも飲食店が客のぬい活を禁止することに、法律上の問題はないのだろうか。

「ぬい活」禁止ルールは合法だが…

民法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所)によると、飲食店が「ぬい活」そのものを全面的に禁止する、または「ぬいぐるみを卓上に置かない」「撮影は着席したままに限る」など細かく制限するルールを設けることは、法律上、基本的に認められる。
その根拠となる考え方は2つある。1つめは「契約自由の原則」だ。飲食店と客の間には、店が飲食を提供し客が代金を支払うという契約関係があるため、店側にはどのような条件で契約を結ぶかを決める自由があることが、民法の基本原則として認められている。
2つめは「施設管理権」である。店舗という空間を管理している経営者は、「その空間で客にどう振る舞ってもらうか」について、ルールを定める権利を持っているのだ。
「席回転率の確保、衛生管理、他のお客様への配慮といった合理的な理由がある限り、店側がルールを設けることに法的な問題はありません。
ただし、後々のトラブルを避けるためには、ルールを入店前から分かる場所に掲示しておくこと、またホームページやSNSなどで事前周知をしておくことが重要です。後出しでルールを伝えてしまうと、客側との感情的な対立を招きやすくなります。

なお、人種や性別、障害など、自らの意思や努力ではどうにもならない属性を理由とした入店拒否は差別にあたり、公序良俗に違反し許されません。しかし、今回は『ぬい活』という趣味や行動を対象としたルールであるため、差別に関する問題は、基本的には生じません」(荒川弁護士)

退店を拒めば「不退去罪」や「威力業務妨害罪」の可能性も

ルールを設定しているにもかかわらず、ぬい活のために長時間撮影を行う、店内を歩き回るといった行為をする客がいた場合、店側は、前述の「施設管理権」を根拠に退店を求めることが可能だ。
そして、店側に要請されているにもかかわらず退店しない客は「不退去罪」(刑法130条後段)に問われる可能性がある。退去するように要求されたにもかかわらず、正当な理由なくその場に居座った場合に成立する犯罪であり、法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金だ。
また、長時間にわたって店の営業を妨害したような場合には、「威力業務妨害罪」(刑法234条)が成立する可能性もある。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。
さらに、ぬい活によって売り上げが減少するなどの損害が生じた場合、店側が客に対して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することも、理論上は可能だ。ただし、実際には、「この客のこの行為のせいで、これだけの損害が出た」と立証するのは容易ではない。
「現実的な対応としては、まずは口頭で注意し、改善されなければ退店を求め、それでも居座る場合は警察に通報する……という流れが基本になります」(荒川弁護士)

損害賠償やトラブルのリスクを下げるための対策は?

売り上げや客層を考慮して、飲食店が「ぬい活」を許容するケースもあるだろう。その場合には、ぬい活に関連して発生し得るさまざまなトラブルについて、事前に予防することが重要となる。
たとえば冒頭のパブは、人形やグッズを並べることを禁止する理由のひとつとして、「飲食物の提供時に誤ってグッズを汚損する可能性」を挙げていた。
荒川弁護士によると、原則として、客が自分で持ち込んだ私物は、客自身が管理する責任を負う。そのため、「料理の汁がはねて汚れた」「隣の客がぶつかって壊れた」といった場面で、店側が当然に賠償責任を負うわけではない。

ただし、「店員が不用意にぬいぐるみを触って汚した」「片付けの際に落として破損させた」などの場合には店側の過失が認められ、賠償責任が生じる可能性もある。したがって、トラブルを予防するためには、「持ち込まれたぬいぐるみ等の汚損について店は責任を負いかねます」といった旨を事前に掲示しておくことが望ましい。
また、ぬい活をする客が撮影する際に他の客が映り込んだ場合、撮影された側の肖像権やプライバシー権が問題となり得る。この場合、通常なら店側に直接の法的責任が生じることはないが、店内の雰囲気やレビューサイトに書かれる評価への影響を考えると「他のお客様が写り込む撮影はご遠慮ください」といったルールを設けておくのが無難だ。
また、どのようなルールを設けるにせよ、すべての客に対して同じ基準で対応するという、運用の一貫性が重要となってくる。「ある客には注意したが、別の客の同じ行為は黙認した」といった運用をしてしまうと、注意された方の客から「なぜ自分だけが」と反発されて、感情的なトラブルに発展しやすくなるためだ。
さらに、通常はぬい活を原則禁止としながらも、経営上可能であれば「ぬい活OKの日」などを定めて、料金を調整しながらぬい活や推し活を趣味とする人にも開放することで、店側と客側とでウィンウィンの関係を築く……という施策も検討できるだろう。
「総じて言えば、ぬい活をめぐる問題は、ほとんどがルールの事前の明示と一貫した運用で予防できるものです。
客側を一方的に悪者にするのではなく、店側がどのような利用を想定しているかを明確に伝える姿勢が、双方にとって最も穏当な解決につながると考えられます」(荒川弁護士)


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