8月12日にHey! Say! JUMP・八乙女光が結婚を発表した。これでSTARTO ENTERTAINMENT所属アイドルの結婚は、なんと今年に入って6人目となる。
旧事務所時代は年間3人が最多だったが…
「SMILE―UP.(スマイルアップ、旧ジャニーズ事務所)」の所属タレントらを引き継いだ新会社「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」が本格的に業務を開始して、早5か月弱。激変するアイドル業界で、STARTO ENTERTAINMENT所属のアイドルの結婚ラッシュが続いている。
1月/KinKi Kids・堂本剛がももいろクローバーZ・百田夏菜子と結婚
1月/KAT-TUN・中丸雄一が元日本テレビアナ・笹崎里菜と結婚
3月/NEWS・加藤シゲアキが一般女性と結婚
3月/NEWS・小山慶一郎がAAA・宇野実彩子と結婚
6月/Hey! Say! JUMP・有岡大貴が俳優・松岡茉優と結婚
8月/Hey! Say! JUMP・八乙女光が一般女性と結婚
旧事務所時代、所属タレントの結婚は2021年の嵐・櫻井翔、相葉雅紀、V6(当時)・坂本昌行の年間3人が最多だったことを考えると、過去最多を更新した。
STARTO社となって社風や契約内容が変わったことで、タレント個人の意思が尊重されやすくなったことは想像に難くないが、アイドルが自由意思で恋愛・結婚できるという環境には賛否両論あるだろう。
まず人権問題の見地から論ずるなら、恋愛・結婚を禁止することは憲法上の幸福追求権を侵害しているという考え方があり、自由に認められて当然という答えになる。
ただ、それが前提ではあるものの、アイドルマネジメントというビジネス、そしてアイドルという職業は特殊であるのも事実で、忌憚なく言うならば疑似恋愛相手としての需要と供給で成り立っている側面も否定はできないはず。
「疑似恋愛を提供するサービス」だと仮定するなら、恋愛スキャンダルが出てしまったり、ましてや結婚が発表されたりすれば、サービスのバリュー(価値)が下がってしまうので、ファン離れを引き起こしかねない。そのため経営側が、タレントの結婚は利益の減少リスクが非常に高いと考えるのも当然だろう。
「疑似恋愛」以外で利益を生み出す“別の柱”の必要性
では、どういった状態ならば減益リスクを最小限にとどめられるのかと言えば、そのアイドルが「疑似恋愛」以外のジャンルで大きく利益を生み出せる“別の柱”を持っているか否かが、分水嶺になってくる。
“別の柱”の代表例を挙げるなら俳優業や司会業。
役者やMCとしての実力・実績が高いレベルに達していれば、結婚をしてもビジネス的なダメージは最小限に抑えられるはずだ。
俳優業で成功を収めているSTARTO社の既婚タレントと言えば、まずは元SMAP・木村拓哉。また昨年に退所してしまったが、元V6・岡田准一や嵐・二宮和也も映画やドラマで数々の代表作を持っており、旧事務所所属時代に結婚をしても役者としての地位は揺らがなかった好例である。
司会業で言えば、元V6・井ノ原快彦、TOKIO・国分太一あたりが挙がってくる。
今年結婚を発表した6人のうちで考えると、独自のアーティスト路線を切り開いている堂本剛や、小説家としても活動している加藤シゲアキらも、“別の柱”を確立していると言えるのではないだろうか。
さて、「アイドルの結婚」の是非を考える際、やはり2000年12月に歌手・工藤静香と結婚した木村拓哉のケースは特筆しておくべきだろう。
彼が結婚したのは28歳。SMAPというグループが国民的な人気を誇り、アイドルとして全盛期だった頃である。
俳優としても数々のドラマに主演しており、結婚当時の代表作は『ロングバケーション』(1996年/山口智子とダブル主演/フジテレビ系)、『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(2000年/常盤貴子とダブル主演/TBS系)。役者としてキャリアを築き上げてはいたが代表作が恋愛ドラマだったので、その実績は「疑似恋愛を提供するサービス」の延長線上にあるとも思われていた。
そのため彼が結婚を電撃発表した際、人気が急落し、ビジネス的に大損失になるのではとの見方は少なくなかった。
ファン感情が“好き”を超越して“推す”に変わった?
しかし、木村はそんな周囲の予想をあっさりと覆して見せた。
結婚発表の翌月に主演ドラマがスタート。2001年1月から始まったのが、月9ドラマ『HERO』(フジテレビ系)だったのだ。
木村が型破りな検察官を演じた『HERO』は、全話平均の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)が34.3%と驚異的な記録を叩き出し、社会現象を巻き起こす。
もちろん結婚の影響で離れたファンもいたかもしれないが、人気が急落するどころか、結婚直後の主演でドラマ史に名を刻む超名作を生み出し、ファンを拡大していたのである。恋愛ドラマではなくお仕事ドラマで有無を言わせぬ結果を叩き出したのも、大きなポイントだったろう。
その後も旅客機パイロットが主人公の『GOOD LUCK!!』(2003年/TBS系)など、数々の主演ドラマを大ヒットさせ、現在も第一線の主演俳優として活躍しているのはご存知のとおり。
木村の場合、当時も多大なる「疑似恋愛」需要があったはずだが、それ以上のスター性で男女問わずファンを魅了していき、俳優として確固たる地位を築いたため、ビジネス的損失を最小限に抑え込めたのかもしれない。
木村拓哉をはじめとした“結婚後も人気が衰えないアイドルたち”は、ファンの感情が恋愛的な“好き”を超越して、いつしか応援して支えたい“推す”に変わったのではないだろうか。
けれど“好き”を“推す”まで成長させるのは、言うは易く行うは難し。
確かな実力で“別の柱”を築き上げていないと、結婚によって自身の商品価値が暴落してしまうおそれがある。いくらSTARTO社タレントは以前と比べて結婚がしやすくなったとは言え、どのように生計を立てていくかというビジネス的見地で考えるとリスクは高い。
「アイドル」という職業は、かなり人生設計を難儀にする肩書きのようだ。
文/堺屋大地 サムネイル/Shutterstock