世界の競技人口は1000万人以上。2016年のリオデジャネイロ五輪でコパカバーナを舞台に高い人気を集めたビーチバレーは、世界的な人気スポーツとして親しまれている。
知られざるビーチバレーの世界
ビーチバレーはアトランタ五輪(1996年)で正式種目に採用されたものの、日本では長らく注目度が高いとは言えない“マイナースポーツ”のひとつだった。だが2004年、“ビーチの妖精”こと浅尾美和の登場によって、状況は大きく変わる。
モデルやタレント活動もこなすルックスで人気を集めた浅尾は、写真集が6万部、DVDが3万枚を突破するなど一躍スターとなった。それに伴い、ワイドショーやスポーツ番組でビーチバレーを取り上げる機会が急増し、一気に一般層へと浸透。
近年も、衣笠乃愛と菊地真結の「のあまゆ(2025年解散)」など、実力だけでなくルックスにも注目が集まる選手が台頭している。
とはいえ、日本での浸透はまだ十分とは言えず、バレーボール選手の「セカンドキャリア」という印象を持つ人も多いのではないだろうか。
「ビーチバレーは何歳になっても続けられる競技なんですよ! 40代でもトップで活躍している選手がいます。まさに生涯スポーツですね!」
そう笑顔で語るのは、ビーチバレー選手の白幡亜美。福田鈴菜と「あみすず」ペアを組み、「ジャパンツアー・ワールドツアー優勝」を目標に、国内外の大会へ継続的に挑戦している。
「(屋内の)6人制バレーボールに比べると、ビーチバレーは選手寿命が長いです。
そんなビーチバレーが日本で市民権を得たのはまだまだ最近のこと。2017年の愛媛で開催された「愛顔つなぐえひめ国体」から国体の正式競技となり、2019年の茨城国体(いきいき茨城ゆめ国体)から少年男女の部が追加され、ビーチバレーを専門とする選手も増えつつある。
「正式競技になったことで、強豪校だけでなく多くの学校でビーチバレーの練習が行なわれるようになりました。若手の競技人口も少しずつ増えていて、6人制を主にやっていた選手が社会人になってビーチバレーを選ぶケースもあります」(福田)
一見すると同じ“バレーボール”だが、向き不向きは異なる。インドアのバレーがポジションによる役割が重要である一方、ビーチバレーはすべてのプレーをこなす必要がある。
「私は身長が低く、バレーボール時代は悔しい思いもたくさん経験してきました。インドアバレーでは、何かに秀でている選手の方が注目されやすいと思います。一方でビーチバレーでは拾って、繋いで、打つ、全てをこなすオールラウンダーの選手が活躍しやすいです。
例えば、SVリーグで活躍していた選手が、ビーチに転向してすぐに勝てるというわけでもないんですよ。
変化し始めたビーチバレーの概念
そんなビーチバレーは観戦の敷居が低く、多くの大会が無料で観覧できる。
「通りすがりの人も気軽に観戦できる環境で、『海に来たついでにちょっと観てみる?』なんてことも。それが、競技普及へとつながっています」(白幡)
それゆえ、選手と観客との距離も物理的に近い。
「試合前などにファンに直接、話しかけられることも。戸惑うこともありますが、この距離感もビーチバレーの魅力の一つ。それだけではなく、暑い夏の日に、砂浜でビール片手に観戦できるのも良いところかもしれませんね!」(福田)
にこやかに話す福田選手。また、ビーチバレーというとそのビジュアルに注目されがちな競技でもあるが、本人たちはどう感じているのか。
「私もほかの競技を見ていて、かっこいい選手やかわいい選手は気になるので、ビジュアルで注目されること自体は悪いことではないと思います。ただ、ビキニ姿ばかりを狙って撮影する人が一部いたりするので、それは今後対策しなければいけないなと思います」(福田)
直射日光の元でビキニ姿で行われるビーチバレー。美容の天敵でもある日焼けについてはどのように対策しているのか。
「やっぱり女子としてはかなり気になりますね。私も中学生くらいまではかなり日焼けしていましたが、最近はシミも気になるので、日焼け止めはしっかり塗っています。汗で落ちてしまっていると思いますが……(苦笑)」(福田)
近年の猛暑は競技環境そのものに大きな影響を及ぼしているようで、練習は日の出から午前10時、遅くても11時までが限界。
「駅前などに特設コートを設けて試合を行なうこともあります。砂を持ち込んでコートを作って、階段を観客席として活用することで、大阪のグランフロントの広場などで開催されたこともあるんですよ! 『ビーチバレーは海辺で』というイメージも少しずつ変化してきています」(白幡)
そういった会場の変化について、白幡は「観客動員という現実的な課題もある」と推察する。
「海辺で開催すると人目にふれないことが多く、観客が集まりにくい。最近では、横浜の赤レンガ倉庫や名城公園tonarinoなど、都市型の会場でも開催が増えていて、利便性も考えられていると思います。協会側がより多くの人に観てもらえるようにと働きかけてくれているのでしょう」(白幡)
ビーチバレーはお金がかかる競技、だからこそ自ら発信する
協会が着々とビーチバレーの普及を進めている一方で、競技を取り巻く経済的な環境は決して恵まれているとは言えない。世界を転戦するためには、多くの自己負担が伴うと2人は明かす。
「例えば、オーストラリアの大会に50万円以上かけて出場し、仮に優勝したとしてもなかなかプラスにはなりません……。国内大会でも遠征費を考えると黒字になることは稀です。それでも大会に出続けて、勝ち続けなければなりません。そうしないと、次の大会に出場できなくなってしまうこともあるからです」(白幡)
ビーチバレーは、各選手が大会で獲得・保有する「ポイント」によって出場できる大会が決まる。
「前年より良い成績を残さなければポイントは増えないので、海外遠征や地方遠征に多く行ける選手ほど有利です。私たちは金銭面で多く遠征に行くことはできません。なので、限られた出場機会の中で、いかに勝つかがとても重要ですね」(白幡)
さらに、出場機会そのものも限られている。実力だけでは突破できない壁が存在することも、競技の難しさの一因だ。
「大会では“ワイルドカード枠”というものが設けられることもあり、人気選手やVリーガーがその枠を使って出場する場合もあります。例えば8チーム中2枠がワイルドカードだと、実質6枠しかない。なので、実力があっても出場できないことも。この経験から、人気やビジュアルの重要性も実感しました」(白幡)
知名度のある選手の出場は必然的に観客の増加につながる。そういった背景もビーチバレーの課題の一つだろう。
そうした現状を踏まえ、選手たちは競技外での取り組みにも力を入れ始めている。例えば、「あみすず」は活動資金を確保するため、クラウドファンディングを試みた。
「クラウドファンディングを行なったのは、資金面だけでなく、私たちのペアやビーチバレーを知ってもらうためでもあります。その結果はシーズンが始まらないと分かりませんが、挑戦したこと自体に意味があると思っています」(福田)
競技の未来を考えるうえで、認知の壁は避けて通れない。実力だけでは埋められない“人気”という要素が、大きな課題として立ちはだかる。
「マイナー競技だからこそ、競技の魅力だけでは注目されない。仮にオリンピックに出場しても一時的な注目で終わってしまうこともあります。だからこそ、競技の魅力に加えて選手たちも自ら発信していく必要があると思います。
私たちは、今回クラウドファンディングなどの取り組みを通じて、少しずつ注目してもらえるようになってきましたが、まだまだ十分ではありません。“あみすず”にも“ビーチバレー”にも、もっと注目してもらえるよう頑張りたいと思っています!」(白幡)
楽しいだけでは続けられないプロスポーツの世界。それでも彼女たちは終始、笑顔で受け答え、ビーチバレーの明るい未来を願っていた。足りない説明を2人で補い合う、そんな二人三脚のあみすずがビーチバレーを新しいステージへ押し上げてくれるはずだ。
取材・文/千駄木雄大

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