借金1474兆円でも破綻しない日本─本当の問題は“額”でも債務超過でもはなく、日銀が国債発行を支え過ぎる歪な構造にあった
借金1474兆円でも破綻しない日本─本当の問題は“額”でも債務超過でもはなく、日銀が国債発行を支え過ぎる歪な構造にあった

日本の財政問題は「借金の多さ」だけでは語れない。重要なのは、その借金と資産とのバランス、そして構造だ。

政府債務は国民の資産でもあるが、その裏側にはリスクが潜む。国債の本質と日銀の役割を通じて、日本経済の本当の課題を明らかにする。

新刊『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』より一部抜粋・再構成してお届けする。

巨額に膨らんだ国債発行残高自体が問題なのではない

円が歴史的に弱くなってしまった理由のひとつが「大きくマイナス圏に落ち込んだ実質金利」であることは説明しました。日本が直面している本当の問題は、そこから日本が抜け出せなくなっていることです。

そして、マイナスの実質金利から抜け出せない重要な理由のひとつが、日本政府が積み上げた債務です。債務が大きくなりすぎているので、金利が上昇すると利払い費が急増することになります。だから金利を引き上げにくくなるという問題に直面します。ですので、まず日本政府の債務に関して考えてみたいと思います。

YouTubeの動画配信で日本の国債残高・政府の借金の多さについて語るとバズります。現状を酷く憂慮する人もいれば、まったく問題ないと言う人もいます。やや感情的な議論になることも多いようなので、なるべく双方の主張も取り入れつつ、我々が置かれている現状を冷静に分析してみたいと思います。

おそらく多くの方がご存じのように、日本の国債発行残高を含む政府の借金は名目GDPの2倍以上に膨らんでいます。

先進国でここまで政府の借金が大きい国はなく、新興国でも稀です。石破元首相が「日本の財政はギリシャよりも悪い」と発言したのはこれが理由です。

ただ、私は単に「政府の借金が対名目GDP比2倍以上」ということを問題にするべきではないと思います。皆さんは健康診断などで測定されるBMIという数値をご存じでしょうか。私はこの「対名目GDP比」はBMIに似ていると思います。

BMIとはBody Mass Indexの略で、体重(㎏)÷身長(m)の二乗で計算されます。いわゆる肥満度を測る数値です。私のBMIは30に近いところにあり、健康診断の時には「肥満」と判定され、「生活習慣を見直す気はあるか」などと聞かれます。

しかし、このBMIという数値は、体重の中身を考慮していないという問題があります。つまり体重が重いのは脂肪が原因なのか、筋肉が原因なのかを考慮していません。筋肉は脂肪よりも重量があるので、筋肉が他の人より多ければBMIは不当に高くなってしまいます。ちなみに私の体脂肪率は日本肥満学会の基準で見ても標準となっており、私のBMIが高いのは筋肉量が他の人よりも多いからという可能性は排除できません。

「国債は政府の借金だが、日本全体で見れば問題がない」は本当か?

日本の政府債務残高「対名目GDP比2倍以上」という数値も、中身を見る必要があります。単純に表面的な数字だけで判断するのはよくないと思います。ただ、一方で「日本政府の債務残高は、社会保障基金や政府系金融機関も含めた統合ベースの資産も考慮したネットで見れば2番目に低い」という主張も言い過ぎだと思います。

実際には売却して国債の返済に充てることが非現実的な資産を考慮しているので、「自分はその気になれば痩せやすい体質なんだ」と言い続けて、暴飲暴食を繰り返しているのと同じような気がします。

時折、ソブリンCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドに言及される方もいます。これで見ると、日本政府がデフォルトする可能性はかなり低いということを示しています。ただ、ここでまずはっきりさせたいのは、日本政府はまずデフォルト(破綻)はしないだろうということです。

日本の債務は国債を含めてすべて円建てです。したがって、もし困ったことになったら、最後は日本銀行がお札を刷って国債を買えばよいので、日本政府が借金が多すぎて破綻することはないと思います。その結果は急激なインフレとなりますが、政府のデフォルトは回避できます。

後から順番に説明していきますが、日本の問題はデフォルトの可能性が高いということではありません。だから、ソブリンCDSのスプレッドを見ていても、あまり意味がないと思います。

時折、「国債は政府の借金だが、国民の資産なのだから、日本全体で見れば問題がない」といった意見も耳にします。

それは本当でしょうか。

私には歳が一つ下の弟がいます。性格はまったく違いますが、同じく金融業界に勤め、趣味が似ているので仲が良く、両方の家族で時々集まります。それぞれの三人の子どもたちも年齢がほぼ同じくらいですし、我々にとっての孫達も同年齢ですので、我々の母親も含めて、「佐々木家」としての一体感は強いと思います。

さて、そんな一体感の強い「佐々木家」なので、私が弟に多額の借金をお願いしたとしましょう。借用証書もちゃんと書いて渡すこととします。そして、借金はどんどん膨らんでいき、弟の手元には私が書いた借用証書が積み上がっています。

「国債は国民の資産だから大丈夫」は本当か

私の借金、つまり負債は膨らんでいますが、弟にとっては私への貸付金は資産ですので、私は弟に「佐々木家にとっては借金ではない」と言ってよいでしょうか。仲良しの弟は「なるほど」と言ってくれるかもしれません。ただ、弟はひとつだけ質問すると思います。「兄貴は俺から借りた金を何に使ってるの」と。

弟からしてみれば、確かに私に貸したお金は弟にとっての資産ですが、それが私への貸出金なので、弟にとっての本当の資産は、私が弟から借金をして買っている私の資産ということになります。だから弟は、兄貴である私が弟からの借金で何を買っているのかを当然気にするのです。

私が弟から借りたお金で何を買っているのかが、「佐々木家」全体で考えた場合、重要なポイントとなります。

それでは話を「佐々木家」から「日本国」に戻しましょう。僭越ながら、「佐々木家」における私が政府で、弟が国民です。政府は国民から借金をして、その代わりに国債を発行しています。「私は国債なんて持ってないから、政府にお金なんか貸していないよ」という声が聞こえてきそうですが、間違いなくこれを読んでくださっている皆さんも政府にお金を貸しています。

我々は銀行に預金をしたり、生命保険・損害保険に入ったり、年金に掛け金を払ったりしています。これらはお金を「貸している」のではなく、「預けている」という言い方をしますが、実際には「貸している」行為とほぼ同じです。もちろん、法律上、契約上の違いはありますが、そうした細かいニュアンスの違いは皆さん分かっているでしょうから、あえてほぼ同じと考えます。

そして、銀行、生損保会社、年金基金は、我々から「借りた(預かった)」お金を、国債等で運用しています。国債の保有者の14.6%は銀行等、16.2%は生損保等、9.5%が年金基金(公的年金+年金基金)です。これらの資金はもともと皆さんの預金や保険や年金の掛け金ですから、間接的に皆さんが政府に貸していると言えます。

さて、それでは我々国民が貸しているお金で政府はどのような資産を買っているのでしょうか。

2023年度末時点の状況を見てみると、政府の負債は国債も含めて1474兆円です。一方、資産は「有価証券・運用預託金」が合計258兆円、道路、河川、国有施設などの「有形固定資産」が197兆円など合計778兆円です。

つまり、696兆円の債務超過となっています。政府の負債はたしかに国民の資産ですが、政府は負債ほどの資産は保有していないので、国民の資産としての国債も実際には含み損を抱えていることになります。

日本の問題は国債発行残高が大きいことではなく、日本銀行が支えていること

もっとも日本政府の債務に関する本当の問題は、政府が債務超過になっているということではなく、日銀が国債発行増加を支え過ぎたことだと思います。

日銀は1999年にゼロ金利政策を導入してから、現在に至るまで四半世紀以上も政策金利を0.5%以下に留めていました。加えて量的・質的金融緩和政策などを通じて大量の国債を購入してきたこともあり、(短期債を除く)国債発行残高の半分を保有しています。これは他の主要国よりも圧倒的に高い保有比率となっています。

日本銀行が大量に国債を購入し、保有してきたことは、日本の政府債務残高がここまで膨張してきた重要な要因です。

文/佐々木融

『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』(日経BP 日本経済新聞出版)

佐々木融
借金1474兆円でも破綻しない日本─本当の問題は“額”でも債務超過でもはなく、日銀が国債発行を支え過ぎる歪な構造にあった
インフレ・円安・バラマキ・国富流出
2026/1/251,100円(税込)256ページISBN: 978-4296125951

【内容紹介】
円の価値が毀損し続ける中、どのように自分の資産を守るべきか
「いつか円高に戻る」という過去の経験則は通用しない


本書は、為替の第一人者が、円安の根本原因を解き明かし、今後起こりうるシナリオと防衛策を提示する。静かに進行する危機の本質を把握し、インフレの時勢を生き抜くための一冊。

【著者より】
今回の本では、強かった円がなぜ弱くなってしまったのかという構造変化を中心に解説し、今後の見通しについても私の見方をご紹介したいと思います。
「円」という紙切れは今、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際に立っているような気がします。

正直なところ「時既に遅し」と思っているのですが、それでも本書を書くことによって、少しでも多くの人がそれに備えることができればと思っています。

【目次】
第一章  お金、投資、マーケットのそもそも
第二章  なぜ円はこれほどまでに弱くなったのか
第三章  日本政府の借金はなにが問題なのか
第四章  マイナスの実質金利から抜け出せない円
第五章  止められない日本からの資金流出
第六章  失われた30年はなぜ失われたのか——取り戻すために必要なこと

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