「勝算はほぼゼロ」でも税金投入…日本のレアアース戦略が“中国に絶対勝てない”これだけの理由
「勝算はほぼゼロ」でも税金投入…日本のレアアース戦略が“中国に絶対勝てない”これだけの理由

スマートフォンも電気自動車も、その心臓部は「レアアース」という資源に支えられている。日本政府はその国産化に向け、深海採掘などの大型プロジェクトに巨額の税金を投じているが、果たして勝算はあるのか。

結論から言えば、現実は極めて厳しい。中国の圧倒的低コスト構造を前に、日本の戦略は根本から問い直しを迫られている。

レアアースがなければ、スマホも電気自動車も動かず

私たちの生活を支えているのは、数多くの便利な電子機器である。手元にあるスマートフォン、仕事で使うパソコン、街を走る電気自動車。数え切れないほどの製品が、日々の生活を彩っている。

複雑で高度な製品を製造する過程を、上流、下流という言い方で説明されることがある。「ものづくり」の工程を、川にたとえて、どんどん遡っていくと、一番はじめにある場所、たどり着く源流にあたるのが、原材料である。

そんな原材料の一つである「レアアース」は土の中に含まれている物質であるが、極めて特殊な性質を持っており、強力な磁石を作ったり、光を放つ部品を作ったりするために欠かせない。レアアースがなければ、スマートフォンは動かず、電気自動車のモーターは回転しない。

壮大な国家プロジェクト「勝算はほぼゼロ」

レアアースは、川の始まりに湧き出す最初の一滴である。川の下流にどれほど巨大な工場が建ち並び、世界最高峰の技術を持つ職人が待ち構えていたとしても、上流から材料が流れてこなければ工場は一切稼働しない。

日本政府は現在、将来途絶えるかもしれない源流の水を自国の力だけで確保するため、多額の税金を投じて国産レアアースの開発に向けた戦略を推進している。

果たして、国家を挙げて取り組む壮大なプロジェクトに勝算はあるのだろうか。結論から言えば、勝算はほぼゼロである。

現状の日本の産業政策を見渡すと、川の下流にあたる半導体製造工場を国内に誘致するために、何兆円もの莫大な税金を注ぎ込む計画が進行している。

半導体工場への過剰な投資は、技術の変化が激しい業界の性質や、国際的な競争の厳しさを冷静に計算すれば、絶対にうまくいくはずのない無謀な計画である。

企業は常に最も安く製造できる場所を探しており、補助金が尽きれば工場は簡単に別の国へ移っていく。絶対に取られたくない技術をわざわざ日本の工場で生産するモチベーションは低い。

中国産レアアースが圧倒的に安い本質的理由

半導体工場への補助金行政と比較すれば、サプライチェーンの最上流である資源そのものを押さえようとするレアアース戦略は、まだ理にかなったアプローチに見える。

川の源流を押さえるという発想自体は悪くない。しかし、発想が間違っていないことと、実際の事業が成功することは全く別の次元の話である。

敗北を決定づける最大の要因は、圧倒的に安い中国産レアアースの存在である。

中国産の資源がなぜ信じられないほど安価に国際市場へ供給され続けているのか、背景にある理由を深く理解する必要がある。

単純に労働者の賃金が安いからではない。レアアースをただの土から取り出し、工業製品に使える形に整える過程では、深刻な環境汚染が必ず発生する。

複数の化学薬品を大量に使い、有害な物質を含んだ廃液や、放射性物質を含む廃棄物が大量に生み出される。中国は長年にわたり、自然環境を破壊するリスクを無視し、国家の強大な権力で住民の声を強引に抑え込むことによって、他国には真似できないほどの低コストでレアアースを生産してきた。

汚染された水を排出し続ける荒っぽい手法こそが、低価格の秘密である。到底、私たちにはできない手法だ。

どうやって中国産にコストで勝てというのか

環境保護の意識が高く、極めて厳しい法律が存在する日本国内で、中国と同じような乱暴な生産活動を行うことは不可能である。日本がもし国内で安全にレアアースを精製しようとすれば、自然環境を守り、汚染物質を完全に処理するための莫大な設備投資が必要となる。

水質を浄化するフィルターを何重にも設置し、有害物質を安全に保管する施設を建設しなければならない。結果として出来上がる安全でクリーンな国産レアアースは、中国産と比較して数倍、あるいは数十倍の価格になってしまうのである。

製造業の究極の目的は、製品を売って利益を出すことである。

同じ性能を持つ材料が目の前に二つ並んでおり、片方が圧倒的に安ければ、企業は必ず安い材料を選ぶ。愛国心や経済安全保障という立派な理念を並べ立てたところで、民間企業に高い材料を買い続けさせることはできない。

安い材料を使わなければ、完成した製品の価格も高くなってしまい、世界中の消費者からそっぽを向かれてしまうからである。

資金は底を突き、深海採掘の計画は破綻する

消費者は常に、少しでも安くて性能の良い製品を求めている。消費者の厳しい要求にこたえるため、企業は1円でも安い部品を世界中から探し出す努力を続けている。

日本政府は現在、深海の泥に一筋の希望を見出している(ように見える)。小笠原諸島の周辺、水深6000メートルの海底に眠るレアアース泥を掘り起こす計画が進められている。

たしかに、日本の周囲の海の底には、世界中の需要を何百年もまかなえるほどの豊富な資源が眠っていると言われている。

しかし、水深6000メートルという過酷な環境から重たい泥を地上へ引き上げる作業に、一体どれほどの莫大なエネルギーと特殊な機材が必要になるのか想像してみてほしい。光の届かない冷たい海の底から、途方もない水圧に耐えながら泥を吸い上げるのである。

陸地で巨大なショベルカーを使って土を削り取る中国の単純な作業と、荒波に揺られる特殊な船から長い管を海底まで下ろし、深海の泥を吸い上げる日本の高度な作業。どちらのコストが安いかは、小学生でもわかりそうなものだ。

海から苦労して採掘した資源を市場で売れる価格にするため、政府は巨額の補助金を出し続ける仕組みを作るかもしれない。

しかし、補助金とは国民から集められた大切な税金である。果てしなく続く価格差を埋めるために、永遠に税金を投入し続けることは不可能である。いつか必ず国家の資金は底を突き、深海採掘の計画は破綻する。

日本産レアアースを買った企業は負ける

レアアースは、すべてのものづくりの出発点である。出発点の材料が高ければ、完成した自動車や電子機器の価格も跳ね上がる。日本のメーカーが高い国産レアアースを使って製品を作れば、世界のライバル企業との価格競争に負けてしまい、製品は誰にも買ってもらえなくなる。

結局のところ、日本の製造業が厳しい国際競争を生き残るためには、どれほど政治的なリスクがあったとしても、安価な中国産レアアースに依存し続けるしか道はないのである。

高い材料を使って売れない製品を作るくらいなら、安い材料を買って利益を出すほうが、企業として正しい選択である。

政府は、特定の国に資源を依存する危険性を国民に訴え、自国で資源をまかなう重要性を声高に主張する。万が一の事態に備えようとする姿勢は評価できる。しかし、経済の法則は、国家の願いや努力を簡単に打ち砕く。

日本が本来得意としてきた戦い方を見つめ直すべき

絶対にうまくいくはずのない半導体工場への巨額投資よりは、最上流の資源を確保しようとする分、レアアース戦略のほうが少しだけマシな考え方ではある。しかし、マシであるという事実だけで、事業が成功するわけではない。

どれほど美しい計画を立て、どれほど立派な船を深海へ向かわせたとしても、あまりに安い中国製のレアアースを前にしては、なすすべはない。政府の努力は、おそらく無駄に終わるだろう。

国産資源の確保という夢から目を覚まし、現実を受け入れる必要がある。安い材料を世界からしたたかに買い集め、高い技術力で付加価値をつけるという、日本が本来得意としてきた戦い方を見つめ直すべきではないか。

環境規制や人権を度外視した中国の圧倒的低コストに対し、日本の深海採掘は採算性で太刀打ちできない。経済安全保障という幻想に固執し税金を投じるのではなく、材料を賢く調達し技術で勝負する原点に戻るべきだ。

文/小倉健一 写真/shutterstock

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