「日本語だけの情報源に頼っていると1、2年遅れる」取材殺到のノーベル経済学賞受賞者のインタビューをすぐとれたジャーナリストが愛読する海外メディア
「日本語だけの情報源に頼っていると1、2年遅れる」取材殺到のノーベル経済学賞受賞者のインタビューをすぐとれたジャーナリストが愛読する海外メディア

ノーベル賞受賞者や世界の超一流知識人・ビジネスパーソンを、40年以上“英語”で取材し続け、彼らから絶大な信頼を得る国際ジャーナリストの大野和基氏。世界的な著名人の「懐に入る」取材を実現させてきた彼の情報収集法とは?

『懐に入る英語』より一部抜粋、再構成してお届けする。

英語の「コンフォートゾーン」を広げていく

私は日ごろから膨大な量の英語の記事、コラム、本を読んで情報収集しているが、半分は好奇心からである。無理にそうしているわけではない。

そこが重要で、例えば読書にしても、尊敬する文芸評論家の故・福田和也氏とは彼が63歳で亡くなる3年ほど前からメールでやりとりしていたが、彼は年間1000冊以上読んでいた。

私には到底無理だ。毎週1冊読む人もいれば、毎月1冊のペースで読む人もいる。こと英語の本となるともっと少ないだろうが、最も重要なことはやりすぎないということである。やりすぎると精神的に疲れてしまい、長続きしない。

しかしながら、人が安心感を持って行動できる心理的な領域を指す「コンフォートゾーン(comfort zone)」の中だけで行動すると、慣れた行動や思考パターンに従って、ストレスを感じずに過ごすことができるので、今度は成長しない。

成長したければこの「コンフォートゾーン」から外に出なければならない。

若いときには、コンフォートゾーンを広げるために少し無理もしてほしい。もちろん無理は続かないので、“on and off”(断続的)にやるといい。

それはスポーツでも音楽でも同じである。毎日数時間訓練するのが日課になっているプロのマネをしても続かないが、少し無理をして挑戦し成長することでコンフォートゾーンも広がっていく。

まず自分にとってどれくらい英語に接するのが現在のコンフォートゾーンに入るのかを知ることが第一である。

「時の人」になる前に目をつける

仕事柄、著名人へのインタビューが多いので、いつも心がけているのは、「時の人」になる前に目をつけておくということである。

世界的に注目されるようになってから接触しようとするとハードルがかなり高くなるが、まだそこまで有名でないときにアプローチしておくと、懐に入るチャンスはグッと高まるからだ。

ビジネスシーンなら、取引先で近い将来、重要人物になるキーパーソンに目をつけておくことが大事なことと同じだ。

そのための基礎トレーニングとしては、日ごろから英語の記事や本を読んでおくことである。

欧米ではすでに注目されているものの、日本ではまったく注目されていない人物やテーマを発見できる。

例えば2024年ノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグルに、私が最初にインタビューしたのは12年以上前のことだった。

彼は40歳未満のアメリカ在住の経済学者に贈られる、ノーベル賞に次ぐ権威ある賞であるジョン・ベイツ・クラーク・メダルを2005年に受賞し、2012年に『Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty(国家はなぜ衰退するのか)』を、ノーベル経済学賞を共に受賞することになるジェイムズ・A・ロビンソンとの共著で上梓していた。

世界中で耳目を集めたが、翻訳本が出た後でも日本ではそこまで注目されていなかった。私は以前からアセモグルに連絡しており、もうすぐ翻訳本が出ることがわかったときにインタビューを申し込んだ。

最初は拒否まではされなかったが、快諾という感じでもなく、電話でなら応じるとのことだった。

取材内容が難しいので対面インタビューしかないと思っていたが、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンと昵懇の仲であると伝えると、すぐに対面インタビューの快諾が得られた。

ここでは世界的に著名なクルーグマンと親しいことが役に立った。

今アプローチしようとしている人よりもはるかに著名な人物を知っているとかなり効果がある。

そしてノーベル賞を受賞する1年前、2年前にも彼に対面インタビューしている。だからこそ、ノーベル経済学賞を受賞したとき、世界中から取材が殺到していてもすぐにインタビューに応じてくれたのである。

しかも発表直後と授賞式からアメリカに帰国した直後の2回も気軽に応じてくれた。もしノーベル経済学賞を受賞したときに初めてインタビューを申し込んだら、拒否されていただろう。

情報源と収集方法について

日本語だけの情報源に頼っていると、1、2年遅れるのは普通である。場合によっては数年遅れることもあるだろう。

いくら日本が翻訳文化であっても、翻訳される記事や本はほんの一部であるからだ。最新情報に遅れないためには、英語で読むしかない。

だから私が目を通すのは、圧倒的に英語のニュースである。オンラインで目を通しているニュース関連メディアとその収集方法について紹介しよう。

おもなメディアは「Guardian」「The Wall Street Journal」「The New York Times」「The Washington Post」「Financial Times」「Axios」「The Hill」「POLITICO」「ProPublica」「The Christian Science Monitor」など、たくさんある。

もちろん、すべての記事を読んでいるわけではない。

メールで送られてくるNews Alertにはタイトルと要約が書かれている。それをさっと見て本文を読むかどうか決めている。

他にも「The Economist」のような週刊誌もあれば、2017年に設立されたイギリスのオンラインニュースおよび意見サイトである「UnHerd」もすこぶる深い分析をした論説を提供している。

速報性よりも背景の掘り下げに重点を置いているので、深く知りたいときには便利なサイトである。

日刊新聞で最も信用されているメディアはイギリスの「The Guardian」だ。

「Financial Times」は経済新聞なので、「The Guardian」と比較することはできないが、日刊紙の中では、英語の語彙や表現で最も凝っている。

「The New York Times」や「The Washington Post」はネイティブなら小学校6年生くらいの年齢で読めるほどの英語だが、その中でも洗練された文章はコラム欄で読める。

先述したメディアで洗練された文体のメディアは「The Christian Science Monitor」で、私が読んでいるのはオンラインで毎日流れてくるDaily版ではなく、Weekly版である。内容もかなり深く掘り下げられており、読みごたえがある。アメリカ大統領選中は、特に参考になった。

また、意見サイトとして「Substack」をいくつか購読しているが、これはジャーナリストや学者、クリエイターなどがニュースレター形式でコンテンツを発信し、収益化できプラットフォームである。

2024年12月、25年間「The New York Times」のコラムニストをしていたポール・クルーグマンは、編集方針が合わなくなり同紙を去ったが、すぐに「Substack」に切り替えた。

メディアの編集方針と関係なく、自由に意見を発信することができるので、購読者数はあっという間に何十万人に達した。

その他の情報源としては、医学・生命科学分野の文献データベースでは「PubMed」、一般紙、一般誌であれば「Factiva」や「Nexis」、日本語でも「日経テレコン」や「@nifty」の新聞・雑誌記事横断検索があるが、「Factiva」や「Nexis」は世界中のメディアを扱っている。

さまざまな言語の媒体を検索でき、私の場合は言語指定を英語か日本語にしているが、中国語ができる人なら中国語の媒体を検索できるので、これ1つあればかなりのリサーチが短時間でできる。

ここで重要なことは、自分の軸を持っていることである。その軸がないと毎日大量に入ってくる情報に振り回されて結局本質が把握できない。

深く知りたいテーマがたくさんあると脳がパンクするので、2つ、3つあればいい。他のテーマは取材依頼が来たときに深く掘り下げればいいからだ。

深く知りたいテーマは短期的なものと長期的なものに分かれる。

私の例で言えば、トランプ大統領が世界中を振り回している関税問題は、短期的なテーマになり、40年前から追求してきた生殖補助医療は長期的なテーマになる。

短期的なテーマは常に変化するが、最初は短期的なテーマであってもそれが長期的なテーマに変わるときもある。

生殖補助医療のテーマも最初は短期的なテーマであったが、問題の深刻さを知れば知るほど、興味が湧き、長期的なテーマになった。

少し離れたところから今起きていることを見ると、それが自分独自の軸になり、そこから世界をみるとわかりやすくなる。

文/大野和基

懐に入る英語

大野 和基
「日本語だけの情報源に頼っていると1、2年遅れる」取材殺到のノーベル経済学賞受賞者のインタビューをすぐとれたジャーナリストが愛読する海外メディア
懐に入る英語
2026/4/242,200円(税込)288ページISBN: 978-4087881363

「私のインタビューの99パーセントは英語である。本書はこの40年間使ってきたナマの英語に触れながら、相手の懐に入る方法を具体的に書いた。これはビジネスにもさまざまなシーンで応用できるだろう」(本文より)

ポール・クルーグマン、カタリン・カリコ、カズオ・イシグロ、ダロン・アセモグルなどノーベル賞受賞者の取材は約20名。その他、イアン・ブレマー、マーカス・デュ・ソートイ、ジム・ロジャーズ、ユヴァル・ノア・ハラリら、「世界の超一流知識人・ビジネスパーソン」を40年以上取材し続ける国際ジャーナリストが、そのキャリアで培った「相手の心をつかんで離さない」(=「懐に入る」)英語の上達術を、「知の巨人」たちが会話やメールでよく使う英単語やフレーズ例も多数紹介しながら完全公開!

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